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【閑話】リーラと妖精と皇太子と勇者と(3)

つくづくお待たせして申し訳ありません。

m(_ _)m

仕事が忙しくててんてこ舞いな状態でして、手を出せませんでした。


これで、閑話は終わりです。

次回からはまた瞳子さんのターンです。

今後ともよろしくお願いします!

「そう言えば、リーラ嬢は聞いたことがあるか?大魔王の噂を」


知ってるーっ!と言うか、絶対瞳子さんですよねそれ!


「さ、さぁ…聞いたことは無いですね……」

「そうか、なんでも近々諸王国連合に戦争を仕掛けようとしているらしい。教国は勇者を介入させて、大魔王を討伐しようと考えているらしいがな。正直かてるとは思えん」

「そ、そうなんですか……」


勇者って、ケイさんですよね。確かに瞳子さんは倒せなさそうな感じがします。

いえ、ケイさんが弱いという訳では無くて、瞳子さんが規格外なだけですけど。


「あ、あの、姫君…どうやら余の執事のエッフェルが迷惑を掛けた様で申し訳ない…」


変態さんが、バツの悪そうな顔をして頭をさげた。


「い、いえ、別にお風呂覗かれそうになった事とか乱暴されるかと思った事は気にしてないんで大丈夫ですよ」

「「(絶対に怒ってるな…)」」

「え?な、なんですか?」

「いや、なんでもないのである

!」


挙動不審な動きをしながら汗を掻き始めた変態さんを尻目に、話を進める。


「ところで、リーラ嬢は冒険者と聞いた。何か旅先で大魔王を名乗る人物の事を知らないか?」

「だ、大魔王さんのですか?」


ど、どうしましょう……知り過ぎてて最早なんて言えばいいか分からないですよぉ…


「なんでも、各国のギルドに諸王国連合から自国民を撤退させるように、わざわざ大魔王から連絡があってな。それの真偽が分からんのだが、実際ギルドが撤退を始めたとの報告が上がっているのだ」


ななな何をするつもりなんですかぁ!?もしかして国を滅ぼしちゃうつもりなんだとか!?

新しく入った情報に、戸惑いすぎて皇帝陛下の目が直視することが出来ない。


「えっと……その…風の噂では、欲望に忠実な人物だとか………」

「ほう!そうか、大魔王とやらは欲望に忠実か!良かろう、愚息よ。宰相に今すぐ諸王国連合から要人と民を引き上げさせるように伝えよ」

「え?……そんなに簡単に決めてしまうんですか?あくまで噂なんですよ父上」


いえ、事実ですけど…

一体瞳子さんは何処に行き着きたいんですか。


「噂でも立派な情報ではないか。確かに虚報や誇張などもあるだろうが、何かが起きてからでは遅いのだ。前回の超上級魔法の件もあるからな、ここは風の噂に乗っかろうと思う」

「分かりました父上」


腕を組んで変態さんを諭すように言った皇帝陛下は、早く行けと陛下さんを急かした。

いそいそと変態さんが部屋を出て行くと、皇帝陛下がこちらに身を乗り出す。


「な、なんでしょう…」

「時にリーラ嬢。そなたは大魔王の事を知っているのではないか?」


真っ直ぐこちらの眼を見つめてくる皇帝陛下から、眼を離せない。

何故か本能的に、目線を離した瞬間に殺されてしまいそうな気がしてならないからだ。

背中がびっちょりと冷や汗で滲む。


「仰る…意味が分かりません…」


なんとか口を開いて言葉を紡ぐ。

それでも目線を離してくれない。

もう諦めてこちらも真っ直ぐと見つめ返す。


「………はっはっはっはっ!!」

「!?」

「そうか。試して悪かった。なに、取って食おうなどとは思っておらぬ。ただ余が確かめたかっただけである!」

「は、はぁ……確かめる、ですか」


確かめる。その言葉が何故か引っ掛かる。

この目の前の人物は何か私にとってよからぬ事を考えているに違いない。


「そう身構えるな」


どうやら知らず知らずの内に身構えてしまっていた様だ。

ひとまず心を落ち着けて、気分的に落ち着く。


「そなたから見て、あの愚息はどう映っているか聞きたい。…何を言っても構わないぞ」

「それなら………色々と危ういですね。人に流され易そうです。それと変態さんかと」

「くっくっく、そうか。奴は変態か。全くその通りかもしれんな。それに良く見ている」

「そ、それがどうしたんですか?」

「見ての通り、愚息は世間と言うものを知らな過ぎるのだ。それにエッフェルにも頼り過ぎている傾向が見受けられる。だがそれではいかん。そこでだリーラ嬢……愚息を暫く使ってやって欲しい」


いま、なんていいました?

しばらくつかってやってほしい?

………使うって何をどう使うんですか!?

えっ、ちょ!?


「そそそれは一緒に冒険者稼業をしろって意味ですか!?」

「話が早くて助かるな!はっはっはっはっ!」

「いえいえいえ、そう言う問題では無くてですね?!私は女で殿下は殿方ですよ!私の身が心配です!!」

「なに、大丈夫である。奴は小心者でな。そんな度胸は元より持ち合わせて無い!」


たたたた助けて下さい瞳子さーーーん!!


その時、城が激しく揺れ、天井からパラパラと埃が落ちて来た。

外からは怒声と破壊音が鳴り響いている。

再び衝撃と爆音が轟き、城中が大騒ぎになり始める。

廊下からメイドの悲鳴と兵士達の走る足音が仕切りなしに響く。


「やはり来てしまったか……」

「来た……とは?」


頭を抱えた皇帝陛下に恐る恐る尋ねると、今にも逃げ出したいと言った表情の皇帝陛下が、小さい声でテレジアと呟いた。

あぁ、御愁傷様です…


何処か遠い所を見ている皇帝陛下は、一言愚息を頼んだと言って出て行ってしまう。

ぽつーんと取り残されて途方に暮れていると、頭の上でアニさんがケラケラと笑い始めた。


『これは酷い!ぷくくくっ…彼殺されやしないかねぇ』

「笑い事じゃ無いですよ!変態さんと一緒に冒険しなきゃいけなくなったんですからね!!それに、どうするんですか!」

『なるようになるでしょ。人生なんてそんなもんだよ。ほら、早くテレジアに君の姿見せないと、皇帝殺されちゃうよ?』

「そそそそうですよ!早く行かないと!」


音の大きい方向に居るはず。

ここで一番音が大きい所は…結構したですね。


スカートの両端を摘まんで廊下を走る。角を曲がってその更に奥にある階段を探し当て、喧騒のする方向まで下っていく。

途中、武装をした兵士や大剣を持った物騒なメイド達とすれ違うが、こちらには見向きもせずに走り去ってしまう。むしろ私にとっては好都合かもしれない。


やっとの思いで辿り着くと、そこはこの城の玄関広間だった。

丁字階段の手すりから階下を見下ろすと、お玉を片手に件のメイド長さんの長剣と鍔迫り合いを繰り広げている、テレジアさんの姿があった。


「…なんであのお玉壊れないんですか…」

『ツッコミ所そこ!?』


鍔迫り合いをする2人を近衛兵達が取り囲み、緊迫した空気が伝わってくる。

その輪の隣では、皇帝陛下がケイさんと殴り合いを繰り広げて…

一体何がしたいんですかね、あの二人も。


「おらっ!てめぇテレジアは俺の女だ!」

「はっ!戯言を抜かすで無いわ!貴様のような青二才にテレジアが靡く訳が無い!それに余は長年連れ添って来ているでな!」

「黙れロートルがっ!ジジイはさっさと死にやがれ!てめぇみたいなジジイには、テレジアは似合わねぇんだよ!!」

「その言葉、そっくりそのまま返させて貰おう!!」

「「うをぉぉおおぉぉおお!!」」


あ、熱い…熱いけど凄い醜いです…

なんかドロドロした物が渦巻いて見える…


『ねぇ、思うんだけどさ、早いとこ姿を見せた方が良いと思うんだ。死者が出ない内に』

「た、確かにそうですね……あの調子だと、どちらかが死ぬまで殴り合いしてそうですもんね」


さて、問題はどうやって下の四人を止めたらいいんでしょう。

まぁ、一番手っ取り早いのは、瞳子さんの暴走を止める時と同じ様にすればいいんですけど、あれは瞳子さんの絶対的生命力が前提ですから、参考にならないんですよね。

ですけど、テレジアさんとメイド長さんはきっと私が姿を現せば戦闘を止めるはず。そしたら、あとはどうにでもなりますね。


そうと決まれば前は急げ。

急いで丁字階段を駆け下りて、こちらに背中を向けている近衛兵達の背中を借りて飛び上がり、お玉と長剣を蹴り上げて間に割って入る。


「なっ!?」

「くっ!?」

「そ、そこまでです!」


回転しながら飛んだお玉と長剣は、殴り合いをしている皇帝陛下とケイさんの頬を掠めて、石畳の壁に突き刺さった。

両方青い顔をして動きを止める。


「テレジアさん!私です。リーラです!」

「は?あんたがリーラだって?冗談じゃないよ。リーラはそんなに綺麗じゃないさね」


うわっ、酷い!遠回しにブスって言われた感じがする!


「そ、そんな事ありません!私はれっきとしたリーラそのものですよ!ほら、こう…こう…こうやればっ…ほら!」


その場でセットされた髪型を変えて、お気に入りの髪型に変える。

それを見て、眉根を寄せながらうーんと唸りながら顔を近付けてくる。

そんなに近くで見なくても、分かると思うんですけど…


「確かにリーラに見えなくもないねぇ…」

「いや、ですからリーラって言ってるじゃないですか…」

「冗談だよ!あんた乱暴されてないかい?怪我とか」

「私は大丈夫です。厄介事を押し付けられましたけど…」


皇帝陛下をチラ見すると、テレジアさんも皇帝陛下を見る。

はぁ、と溜め息を吐いたテレジアさんは、皇帝陛下を手招きした。


「ちょっと来な」

「よ、余であるか?…はい」


恐る恐ると言った感じに前に来た皇帝陛下を………………思いっきりビンタした。

ケイさん以外の人間が硬直する。

まさかビンタするとは誰も思ってない。


「ふべらっ?!」


張り飛ばされて、真横に吹っ飛びそうになった皇帝陛下の襟首を掴んで引き戻すテレジアさん。


「あんた……アタイの客に何してんのさ。え?」

「ず、ずびまぜん…」

「この国出て行くよ。そんな事してたらね」

「そ、それだけは駄目である!余が可哀想ではないか!テレジアが出て行ったら余は、余はっ!?」


なんだか錯乱し始めた皇帝陛下。

今までの威厳なんて何処かに吹き飛んで行ってしまった皇帝陛下を見て、メイド長さんが珍しくおろおろとする。

近衛兵達はどうしていいのかわからずに顔を見合わせている。

テレジアさんに至っては両手で頭を抱えている始末。


「はぁ…出たよ、この子の悪い癖が…しょうがないねぇまったく。今回だけだよ!だからシャキッとおし!」

「テレジアぁぁ」

「この国の皇帝が情けない声出してるんじゃないよ。大体、あんたがそんなだから息子もあんなになっちゃうのさ。あんたらの事を任されたアタイは“セルディア”にどんな顔をして会えばいいのか分からないよ」


セルディアさん。一体どこの誰なんでしょう。

心なしか、この場の全員が暗い表情をする。ですが、ヒシヒシと悲しみの感情が伝わって来る。


『これは…………風が泣いている。故人を偲ぶ空の声が聞こえる…一体、そのセルディアって何者なんだろ?』


唸る様に言ったアニさん。

私には風や空の声は聞こえないけれど、何か超越的何かの慈しむような感情が感じ取れる。とても大きくて暖かい。

そのセルディアさんと言う人が、どういった位置にいた人かは、なんとなく想像がついてしまった。


「う、うむ……すまない。何時も世話をかける」

「一国の主が、軽々しく頭下げるんじゃないよ」


軽く、本当に軽く皇帝陛下の頭をポコんと叩いたテレジアさんは、パンと一つ柏手を打った。


「さて、アタイの用事はこれで済んだよ。目的はリーラを奪還しにきただけだしね。エッフェルはどうしたんだい?」

「彼奴は自室で謹慎中だ」

「そうかい。ほら、じゃあリーラ帰るよ」

「は、はい」


テレジアさんに手を引かれて、木っ端微塵に破壊された正面玄関に向かう。

周りを囲んでいた近衛兵達は、さっと割れて道を開けてくれた。

いつの間にかケイさんがテレジアさんの隣を歩いている。

何故だかケイさんは優れない顔をしていた。何時もブスッとした表情をしているけれど、なんだか今日は様子が違う。


「ケイ、アタイに追及しても何も教えないからね」

「…………分かった」



【赤林檎亭】に戻ってから服が借りた物のままだった事を思い出して、どうしようかと迷っていたら、メイド長さんが自ら足を運んでくれて、綺麗に洗濯された私の服と顔が映る位にまでピカピカに磨かれた装備を届けてくれた。

色々あったので、その日は追加で一日【赤林檎亭】に宿泊したあと、荷物を纏めて【赤林檎亭】を出る。


「なんだかあっという間だね」

「色々お世話になりました!」

「なに、何時も贔屓にしてもらってるからね。それに、リーラはもうアタイの娘みたいなもんさ」

「テレジアさん……また来ますから!」

「待ってるよ。元気でやるんだよ!」


【赤林檎亭】の前で見送りしてくれたテレジアさんの姿が見えなくなるまで、何回も振り返っては手を振る。




「行っちまったね…」

「テレジア」

「おや?ケイ、そんな旅支度してどうしたんだい?」

「少し気になる事がある。暫くは帰って来ない」

「そうかい…あんたの使っていた部屋はそのままにしておくよ」

「すまないテレジア」

「なに、あんたもお得意様だからね。それに、あまり客も入らないから大丈夫さね」

「…流石は俺のテレジアだな」

「ふ、ふん!さっと行きな!」



真っ直ぐと街道を歩く。

左右は広い草原が広がっており、脛ほどまでの低い草が青々と生い茂っている。ここでは、ダンジョンの外で生息している魔物に奇襲される心配はない。


時々、馬車や馬に乗った人に追い越されて行く。

こっちは街道の端を歩いているので、邪魔にならない。相手も接触しないように少し避けるために危険はそれ程ない。

暫く、頭の上に座って足をプラプラさせているアニさんとも会話が無くなり、静かにただただ前に進む。


「ま、待って欲しいぃぃぃぃいぃいいいい」


「……今なんか聞こえた気がするんですけど」

『気の所為じゃない?』

「そうですよね、こんな所まで私を追ってくる人なんていないですよね」


「ちょ、余を待って欲しいぃぃぃぃいぃいいいい」


背後から情けない声が聞こえる。

あぁ、瞳子さん…私の道は苦難の多き茨の道の様です…


「はぁはぁはぁ…やっと追い付けたのである」


隣から現れたのは、どう見ても変態さんの様です。

ただ、服装は城の中級騎士が着ているような鎧を纏っている。

無駄に周囲に散布されるキラキラが無ければ、二枚目の好青年に見えなくもないのですが、それが全てを台無しにしています。


「変態さんですか…」

「余は変態では……もうなんかどうでも良くなってしまったのである…」

「殿方は諦めが肝心ですよ。それでどういったご用件ですか?」

「余も、冒険に連れて行って欲しい。いや、連れて行って下さい!」


あ、土下座した…

なんか、帝国の皇室の方って妙に腰が低いんですよね。

外交とか内政とか大丈夫なんでしょうか…


「……しょうがないですね。不本意ですが…」

「あ、ありがたい!」

「それと……ケイさんもそろそろ出て来て下さいよ」

「…なんだ、気付いていたのか」

「それはもう……結構飛ばして来たんじゃないですか?」


遠くから凄い速さで近付いてくる音と振動に気付かない訳がない。

するりと低い草叢からケイさんが起き上がって出て来た。


「まさかとは思いますけど、ケイさんも着いてくるとか言いませんよね?」

「そのまさかだ。俺もそこのバカ野郎と一緒なのは不本意だがな」


うわぁ…もうなんか一人も二人もあんまり変わらないような気がして来ました…


「俺は少し気になった事がある。リーラが言った、瞳子とか言う奴の事だ」

「………瞳子さん、ですか?会ってどうするんですか?」

「…俺は多分だが、奴に借りがある。それをきっちり清算しに行く」


…ケイさんの目が据わっている。これはもう何を言っても絶対ついて来る…

十中八九よからぬ事が起きる予感が。


「分かりましたけど、旅の最中は変態さんを見張って置いて下さい」

「分かった。その位はやろう」

「えっ、ちょっ?!余ですか!?」

「うるさい黙れバカ野郎。リーラ、それでどっちに向かうつもりだ?」

「はい、取り敢えず諸王国連合のオプタティオ王国に行こうと思います」

「何故また戦争がおっぱじまりそうな所を?」

「…さぁ?なんででしょう。なんかそこに行けば良いような気がしました」

「「………………」分かった。リーラに決定権はある。なら早く行こう」

「そうですよね」

「ま、待ってくれぇぇぇえええぇえぇえぇ!!」


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