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山登りなのっじゃ!(1)

と、言う事で第三章の始まりです!


―――――キンッ……―――キンッ………ガキンッ……


荒れ狂う様な吹雪の中、鋭い金属音が反響する。

だが、それもあっという間に風の音に掻き消されてしまう。


「うぅっ!さぶいさぶいっ……」


現在、私黒森瞳子は、可愛い弟を助ける為に、年中無休で雪の降る山脈の角度85度以上のほぼ垂直である断崖絶壁を、登っています。


「のぅ主様よ。まだ(いただき)に着かんのか?」

「さぁ…あと3分の1って所じゃない?」

「まだまだ有るのぅ。主様よ、ふぁいとぉじゃ」

「いっぱーつ!とはならんけどねぇ……まさか関所破りがこんなにも大変だなんて……トホホ」


右手に持った大剣の鋒を、一旦壁に当ててから力を籠めて絶壁に突き立てる。


キンッ………ガキンッ…


半ばまで大剣が突き刺さり、しっかりと固定された。

柄を持って下に軽く引っ張ってもビクともしない。

たった今突き刺した大剣の腹によじ登りながら、先程まで足場にしていた別の大剣を、アイテムボックスに収納した。


またそれの繰り返しで、どんどん絶壁を登って行く。


「のぅ主様、下りはどうするのじゃ?」


私の背中に抱き着いている疫病神こと鬼神が、風の音に負けないように、耳元ではっきりと言ってきた。


「なんか聞いた話によると、向こう側は滑り台くらいの傾斜なんだと」

「ほぅ、すべりだいとな?なんじゃそれは、楽しき物なのかのぅ?」

「ま、まぁ…人それぞれじゃないかなぁ?」


時折、そうやって背中に寄生している鬼神と雑談を挟みつつ、ゆっくりとだが着実に山を登る。


どうしてこう人力で山を越えているかと言うと、戦争が終結して諸王国連合軍が撤退した次の日に、王様に事の次第を告げたところ、かなり驚いていたが報酬と一緒に長期間の休暇をくれたのだが、協定を結んだ手前王国の手の者を行かせる訳にはいかないので、申し訳ないが単独で関所破りをしてくれと言われてしまい、私と一定距離離れる事が出来ない鬼神と一緒に来ている訳だ。

その間、フェルちゃんと青騎士には留守番を頼んで来た。

だが、結局私が小鹿亭を出るまで、リーラちゃんが帰って来なかった。

冒険者ギルドに問い合わせたところ、急遽リーラちゃん指名の配達依頼が入ってきたらしく、泣く泣くその足で帝国に向かったそうな。

一旦小鹿亭に戻っていたらしく、青騎士の賭博場からの戦利品の下に、置き手紙が有ったのを発見した。

どうやら一週間から二週間は戻れないとのことだった。


「うーむ、思うんだけどさぁ、お前さん別に私の背中に張り付かないで、空中に浮いてりゃ良いんじゃない?」

「ふむ、何故かこの山に入った瞬間から、飛ぶことが出来なくなってしまったのじゃ……主様も妖術が使えん様になったのじゃろう?」

「まぁね、本来なら一っ飛びで山越え出来ちゃうんだけどなぁ…魔法禁止地区みたいになってるのかなぁ………まぁ、薪とかはアイテムを使えば良いから、そこまで困らないけどさぁ」

「主様の言葉は、複雑奇っ怪で、意味が分からんのぅ…じゃが、言いたい事は理解したのじゃ」

「そりゃどうも。さて、さっさとてっぺんに登りましょうかねぇ」


再び大剣を振るい、ハーケンの代わりにしてどんどん山を登って行った。


途中途中で軽い雪崩れみたいのが発生し、危うく鬼神と仲良く転落しそうになったり、ダンジョン以外にも魔物が存在したらしく、大剣によじ登っていた最中にドラゴンみたいなデカイ化け物に襲われたりと、度々アクシデントに見舞われたが、なんとか右手がてっぺんの縁を掴んだ。

ちなみに、ドラゴンみたいなデカイ化け物は、やっぱりドラゴンだったみたいで、この山脈の主だったみたいだ。

ある程度大剣でダメージを与えたら、勝手に降伏してきてなんか軍門に下ったと言いますか手下になったと言いますか……帰りにまた寄って欲しいと言われて帰って行った。

フェルちゃんも喋るけど、ドラゴンも喋れるんだねぇ。


「取り敢えず今日はてっぺんで夜を過ごそうかぁ」

「じゃが吹きさらしじゃぞ、主様よ」

「なんとかします」


山脈の頂上は、一般家宅二軒程のまっ平らなスペースがずーっと続いていて、その先から滑り台になっている。

あとから聞いた話なのだが、標高は3500メートル程らしい。


登り始めた時はまだ朝方だったのに、今は既に太陽が地平線の向こう側に消えようとしていたので、完全に沈む前に、アイテムボックスから小さいカプセルを取り出して、雪が積もりすぎて岩みたいに硬くなっている地面に叩き付ける。

すると、カプセルが小さく弾け、むくむくと膨張して一軒家程の大きさがあるログハウスが出来上がった。


「ふむ、主様と居ると、退屈しないのぅ」

「まぁ、平安時代と比べるとなぁ」


先程使ったアイテムは、転移魔法を使える様になるまでのプレイヤーの必須アイテムで、フィールド上でログアウト等をするときに外敵から身を守る為に使ったアイテムで、効果は破壊不可能の安全地帯(ログハウス)を一瞬で建築すると言うもの。

建てた後には、使用者が消すまで残り続けるので、下手に建てまくると壊す事が出来ないのである意味厄介なアイテムだったりする。

まぁ、こう言う時は便利だけど。


中は結構快適で、気温は常に一定に保たれており、大きめのベッドが二つに、食べたい食べ物が現れるテーブルが有る。

またこのテーブルが曲者で、食べたい食べ物と言ってもメニューの中に表示されている食べ物しか出てこないのだ。

まだそこまでは良いが、中には運営の嫌がらせとも言える、神妙奇天烈な料理もあったりする…何とは言わないが。


「ほら、入るよ」

「応」


木製と思われるドアノブを回して、鬼神をおんぶしたまま暖かい中に入る。


「ほぅ、生き返るのぅ」

「そりゃ、そんな格好してたら寒いでしょう」


私は、外見は何時もの【アダマン・フルメイル】だが、中は【喪女】装備と複数枚重ね着している。

だけども、鬼神は何時もの肩が出てる単に、マフラーを巻いて、ボンボンの付いたピンク色の毛糸製みたいな手袋を装備しているだけだ。

もちろん、私の装備を貸し出してるんだけど、服だけは拒否されて、仕方無く妥協点として【紅のマフラー】と【雪童子の手袋】を渡したのだ。

ちなみに、ちゃんと効果を選んで渡してる訳で。

【紅のマフラー】は、耐氷属性(小)に寒さ軽減(大)で、【雪童子の手袋】は同じように寒さ軽減(大)に、滑り無効とスタミナ上昇(中)だ。

まぁ、最後の効果については、つまり子供は風の子って言いたいんじゃないかなぁ。


やっと私の背中から離れた鬼神は、肩や衣服に付いた雪を払って、ベッドに腰掛けた。


「苦しゅうないのぅ。良い座り心地じゃな、主様よ」

「そいつはどうも。お礼は運営にどうぞってね…さて、疫病神も何か食べる?ハンバーグ定食とかミートスパゲッティとか有るけど」


食べ物と言う単語に釣られてか、フヨフヨと浮遊しながら近付いてきて、私の持っているメニューを覗き込んだ。


「興味深いのぅ、その“はんばあぐ”とやらと“みいとすぱげっちぃ”なる物は、美味なのかや?」

「うーん、私はどちらかと言うと好物かなぁ。カレーには及ばないけど」

「ほほぅ…では手始めに、“はんばあぐ”とやらにしようかのぅ」

「了解」


私が椅子に座ると、鬼神も対面の椅子に座った。胡座で。


「ゴホン……オーダー、ハンバーグ定食とカレーライスを下さいな」


そう呟くと、チーン!と電子レンジみたいな音がして、私の体から少量の魔力が吸われ、コミカルな煙とともに、ホカホカのカレーライスとハンバーグ定食が現れた。


「おぉ、これまた良き香りが…その焦げ茶色のが“はんばあぐ”かのぅ」


クンクンと匂いを嗅いで、顔を綻ばせる鬼神に、ニヤニヤしながら答える。


「お前さん側に出てる楕円形の肉がハンバーグで、私のがカレーライスだぉ」

「主様のは……あぁ…アレに似ておるな」

「いや、皆まで言うなよ…絶対にだぞ!」

「それは、言えと言うヤツじゃな?では、く……」

「わぁぁぁぁぁぁぁっ聞こえない聞こえないぃっ!!何の事だかわかりませーん!!」


そんなやり取りを暫く続けて、漸くご飯に手をつけ始めた。

やはり、なんか見た目からして高貴な鬼神の、姿勢やら箸使いやら食べ方の綺麗な事…

まぁ、私は現在スプーンを使っているので、あんまり関係無いがなっ!!

べ、別に悔しくなんて無いんだからねっ!?


「この……もぐもぐ……ごっくん…“はんばあぐ”とらやは、いと美味いのじゃ……もぐもぐ…もぐもぐ…ごっくん……それに、白い米が…もぐもぐ…ごっくん…ここまで美味い等とは思わなんだ」


ハンバーグのソースを口の端に付けながら、ちゃんと咀嚼して感想を述べている。

まぁ、喜んでくれて何よりなんだけど……単着てる見た目大和撫子が、上品にハンバーグ食べてる絵って、どうよ…違和感が有りまくりでなんとも筆舌に尽くしがたいと言いますか…


「ごちそっさんでしたぁ」

「ふぅ、良い味でしたのじゃ」


しっかり両手を合わせて、食べ物に感謝している鬼ってなぁ。

以前は何食べてたんだろ。


「ねぇ、普段はどんな食事してたん?」

「応、供え物の菜や我に取り入らんとする下賤な妖魔らが献上してくる魚じゃなぁ。あとは(ひえ)(あわ)かのぅ…」

「至って普通かなぁ?」

「おぉ、それと度々都に下っては、生娘や童を喰らっておったのぅ。乙女の生き血と童の眼や肉は美味じゃぞ?」

「マジか…やっぱり例に漏れないなぁ。鬼って感じがする」


お盆の上に一緒に付いてきたナプキンで、綺麗に口元を拭いた鬼神は、ニヤニヤと笑っていた。


「なんじゃ?主様は血肉に弱いのかや?それこそ以外や以外じゃなぁ」

「悪かったな!もう良いよ、明日も早いし寝ちゃうからなっ!」

「のぅ主様、拗ねないでたもれ~」


【アダマン・フルメイル】を脱ぎ捨て、【喪女】装備でベッドに入ると、何故かベッドは二つ有るのにこちらのベッドに鬼神が侵入してきた。


「鬱陶しいなぁ、狭いだろぅ!疫病神めっ!!」

「あぁんっ、連れないのぅ主様ぁ…我と主様は一蓮托生なのじゃぞ?それに、我の名前は疫病神では無く、ちゃんとした名が有るのじゃ」

「ま、まぁ確かに一蓮托生では有るけど…(私の足を引っ張ってはいるがなっ!!)あと、お前さんなんざ疫病神で十分だろ。大体、名前が有るくらい有名な鬼なのかよぉ」


ふっふっふっと、背中の方で笑った鬼神が、がっちりしがみついて来た。


「侮って貰っては困るのぅ主様。我が名は朱点、人は我を畏れて朱点童子と呼ぶなり」

「しゅてん?どうじ……どっかで聞いたような気が………しゅてんしゅてん、酒てん、酒天…酒天童子か!大江山の!!鬼の大御所じゃんかさ。坂田の金時達にべろんべろんに酔わされて、討たれるけど」

「む、主様の言うところの、にゅあんすとやらが少し違うがの。我の字は朱漆の朱に点々の点じゃな。……それに、我は酒は好きじゃが、金時に討たれた覚えは無いのじゃ!まぁ、此処に居る切っ掛けになったのは、奴等の所為じゃがのぅ。おのれ頼光許すまじ…」

「い、痛いって、ちょっ、皮を引っ張るなっ!!」

「おっと、すまぬ主様。悪気は無いのじゃ」

「分かったぉ。だから歯軋りヤメレ。もう良いよ、さっさと寝ましょ…」

「応」


夜中、大体丑三つ時位だと思われるのだけれど、私は中々寝付けなかった…

何故なら………


「うむ、良い明け方じゃな。大江山には遠く及ばぬが」

「わたしゃ眠れなんだぉ……ちっ」


明け方、妙にツヤツヤした朱点が、早速テーブルについて朝御飯をワクワクしながら待っている。


「どうしたのじゃ?主様よ」

「いや、どうしたもこうしたもねぇだろ、をい」

「おぉ、確かに主様は昨晩は激しかったからのぅ……ポッ…」

「…ポッ、じゃないでしょっ!!お前さんどんだけ寝相悪いんだよっっ!!寝たまま180度回転ってどうしたら出来るの!?お陰様で、顔面三回以上蹴られたんですけどっ!?しかも急にシクシク泣き始めやがって!!あれか?夜鳴きか?鵺かお前はっ!!」

「おぅ、懐かしき友の名が出てきおったのぅ。今はどうしておるかのぅ」

「とっくに討たれてるよっ!!」

「なんと!それより“はんばあぐ”じゃっ!」

「…あれ、お友達の鵺は?」


どうか皆様のお気に入り登録と、評価をぉぉ……


『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ

このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!

正解しても何も無いけどね。

それでは行きます!


『泥鰌』


これはなんと読むのでしょうか!

出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。

そして、前回の答えの発表です!


『鶺鴒』と書きまして、『せきれい』と読みます。

せきれいとは、セキレイ科の鳥の総称です。

特徴は長い尾羽で、上下に振り振りする習性があるそうですよ。』

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