陣地構築
先ずは最終防衛ラインの線引きをする。
王都までの距離は1500メートルにして、そこにコの字に全長20キロ、深さ3メートル、横幅7メートルの堀を作る。
難しそうに思えるが、魔法使いが沢山居るから大丈夫だ問題無い。
土属性魔法で地面を隆起させて穴を開け、大量に出た土砂を堀の内側の側面に、日本の城壁よろしく固めて盛って行く。
かなりの量が有るので、高さも厚みも立派な事になった。
ついでに銃眼も開けて置く。
真正面の堀は、私が魔法の並列展開と連続使用で一気に10km分掘り、側面は途中で別れた魔法使い達が掘った。
物の15分でコの字型の空堀が完成した。
後は水を入れるだけだ。
水属性魔法で、1メートルの余裕を持たせてバンバン入れる。
他の魔法使い達も、水属性魔法が使える人が多かったので、一緒にじゃぶじゃぶぶち込んだ。
コの字の真ん中にだけ、跳ね橋を掛ける為に穴を空けて置いたので、そこに即席の、固めた土製の橋を掛けてそこを通る。
次に、また1500メートル地点をポイントにして、乱高下の激しい丘陵地帯に変貌させる。
ここを越えるだけで、大幅に体力と時間を消費させるのだ。
更に1500メートル先には、巨大な六芒郭を築き上げ、周囲を堀で囲んでみた。
さすがにこれには時間がかかり、貴重な二時間程も失われてしまった。
ちなみにこの六芒郭、いざとなったら遠隔で自爆する事が出来るようになっていて、陥落させられそうになったら、敵をわざと引き入れて爆発に巻き込む算段だ。
これらを建設するにあたっては、他の魔法使い達の魔力切れが頻発するのが予想されていたので、前以てマイ雑貨屋でドカ買いして置いた、あのなんちゃってエリクサーを使った。
コポコポしているけれど、意外と既に効果を実感している人も多かった為に、あまり抵抗無く使ってくれた。
と言うか、本当に効果があった事が驚きです。
大丈夫だと分かっていても、実際に飲むとなるとかなり抵抗があります。
「閣下、要所の防備を固める作業が終了致しました」
大隊長の一人が、敬礼をして報告してきた。
ちなみに、今報告してきた無精髭がチャームポイントのお兄さんは、ペングラムさん。
もう一人は、ちょっとヒョロイけど知的に見える眼鏡が素敵なフェギルさん。
二人共に花の二十代だそうです。
え?私が興味あるかって?
そんなわけアルマジロ。
あたしゃ、今のところはおにゃのこしか興味無いもんね。
「了解した、王都に向けて信号弾(花火)を打ち上げて、この六芒郭に兵隊を送る様に合図しろ」
「はっ!!」
私が命令するや否や、疾風のように駆け出した。
いや、実際風属性魔法で身体を強化しているようだが……。
命令してから直ぐに、青色の花火が上がった。
「……しっかしよぉ。よく魔法を使って、要塞建てようと思ったな」
青騎士が、六芒郭の中央に建てた司令部の外壁を、コンコンと手の甲で叩いた。
「え?今までこんな事した奴居ないの?」
「居ない居ない。聞いた事もねぇよ」
ブンブンと片手を眼前で振り、青騎士は否定した。
でも、絶対に誰かしら考える筈なんだけどなぁ。
魔法を使って、建築する遣り方くらいさぁ。
「まぁ、何でも良いけどさぁ。王都から、足止め部隊が到着したら、直ぐに野へ下るからね」
「なんで?こんだけの要塞を建てたのに、まだ建てようと思ってるのか?」
「いや、もう建てないけど、今回の目的は伏兵による闇討ちで、敵のお偉いさんを間引く事が目的だからさぁ。お前好きそうだろ?そう言うの」
青騎士は、口をへの字に曲げて、ヤレヤレと言った感じに肩をすくませた。
「いや、確かに婆様から遣り方は教わったりしてるがよぉ。好きかって聞かれたら違うぜ?」
「まぁ、面倒だからどっちでも良いよ。問題なのは、私がやって欲しいことが分かるかどうかだからね」
そう言う事に関しては、フラフラしてて騎士みたいな格好してるクセに騎士らしく無くて、なんだか何処の馬の骨かも分からないような戦い方をする、青騎士なら分かる可能性が大きいと踏んだわけだ。
実際、ゲリラ戦を知ってるし、戦い方を教わっているらしいから、ちょうど良い。
「私が、もし何かしらの理由で団を離れてしまう事が有れば、青騎士に指揮権を委ねる」
「お、オレかぁ!?」
「お前しかゲリラ戦の戦い方を知らないんだよ」
そうなのです。
どうやら、この世界の戦争は正面からぶつかり合うのが当たり前で、奇襲や闇討ち、浸透作戦はほとんど行われないらしい。
だから、名前も知らないし遣り方も知らないって人が多いわけだ。
「わ、分かったけどよぉ。他の奴は良いのかよ」
「他の奴って?」
「今の大隊長とかの事だって」
「あぁ、後で言っとくから平気だよ」
彼等二人は、ちゃんと言う事を聞いてくれるに違いない。
「ふぇぇぇ、瞳子さん。王都からの増援がしましたぁぁ」
「はやっ」
ちょっと早くない?
王様張り切って、部隊編成して待たせてたとか?
まぁ、直ぐに次の段階に進めるから、私としてはありがたいんだけどね。
私が使った手と同じ方法で、兵隊を輸送してきた。
どうやら、部隊の構成も同じようだ。
規模も二個大隊なので、王都守備隊のほぼ半分が外に出て来てしまった訳だ。
「さて、上手い具合に事が動いてくれる様に祈るしか無いかなぁ」
「ふぇぇぇぇ、なんか見たことある人が近付いて来てますぅぅ」
ん?見たことある人?
フェルちゃんが見ている方に顔を向けると、そこには防御性を完璧に無視され、見た目を重視した豪華な甲冑を着た殿下がこちらに向かって、騎乗したまま向かって来ていた。
なんとまぁ、ワイルドな皇太姫殿下だこと…
「参謀長!」
「これは殿下。この様な土埃臭いところに…いかがなさいました?」
「父上様から、方面軍の総司令官に任命されたのだ。安心してほしい、妾はそなたから指揮権を取ろう等とは思っていない」
「は、はぁ…」
「つまり、そなたの取った行動のすべての責任は、妾が取ると言う事だ。存分に暴れると良い」
「わ、分かりまし…た?」
まぁ、とにかく直接の上官が就いたから、かなり暴れても大丈夫なんだろう。
なら、お気遣い通りに思いっきりやってしまいましょう!
「では殿下、この六芒郭要塞をお願いします。司令部はこの建物ですので、どうぞお使い下さい。かなり頑丈に作ってあります」
「…ほほぅ?」
「それと、囲まれそうになったら直ぐに撤退して下さい。出来ればその時に、空に向けて青色の花火を打ち上げて下さい。埋没させてある自爆用の炎属性魔法陣を使って、六芒郭ごと敵を吹き飛ばします」
「な、なんと…そのような仕掛けが…分かった、危なくなったら直ぐ様撤退しよう」
「お願い致します…大隊長!荷物を急いで纏めさせて欲しい!」
「「はっ!」」
最後に一度だけ殿下に頭を下げたら、踵を返して六芒郭の出口に向かう。
兵士達が慌ただしく目の前を行き来し、背後では殿下があれこれ命令を飛ばす声が聞こえてきた。
10分程で身支度が出来たので、再度荷車に乗車し、六芒郭を後にした。
既に日は傾いて来始めていて、三時間後には完全に日が沈みそうだ。
遠目に諸王国連合軍が見えているので、そちらに向かって走り出す。
途中で、非常に真っ平らな、なんとも夜営に向いていそうな所があったので、そこから5km程離れた所に塹壕を掘って中に隠れ、万が一を考えて草で偽装した。
「なぁ瞳子。これでどうするんだよ」
青騎士が、なんだか今一信用してなさそうに聞いてきやがった。
どうするも何も、ねぇ。
「これは悪魔で予想なんだけどね?敵さんは多分あそこで夜営をするはずなんだ」
「なんでそんな事が分かるんだよ」
「じゃあお前、地面がデコボコした所で寝たいんか?」
「い、いや…それはなぁ」
「つまりそう言う事さ。相手には王様だっているんだぜ?」
王様は良くても、家臣達が許さないかも知れないしねぇ。
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『鷦鷯』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『薄』と書きまして、『すすき』と読みます。
ススキ(芒、薄)とは、イネ科ススキ属の植物で尾花ともいい、また茅と呼ばれる有用植物の主要な一種です。 野原に生息し、ごく普通に見られる多年生草本です。ある意味、日本人とは一番親しい雑草かもしれませんね。』




