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戦乱の兆し(4)

短いです


2013/5/1

文章一部追加

「ふんっ!!」


向こうで、投げ返ってきたオッサンに気付いたノンナさんは、再び投げ返そうとはせずに、爪先を立てて蹴り上げた。

だけど、ちょっとだけタイミングがズレてしまった訳で…


多分本人は、オッサンの胴鎧を狙ったと思われるが、運命の女神はオッサンを嘲笑った。

頭から飛んできたオッサンの胴を狙って、タイミングが外れたとしたら、爪先が向かう先は一つ。


ノンナさんのハイヒールに似ている、少し尖った靴の先端は、寸分のズレ無く下半身の付け根近くにある、一本しかないアナログスティックに吸い込まれて行った。



ドグシャッ!!



「「「…………ッッ!!!?」」」

「あら?」


大事な大事な珍宝(ちんぽう)を蹴り上げられた、誠に残念過ぎる憐れな冒険者のオッサンは、石造りで頑丈な筈の天井を突き破り、落ちてこなかった…


野郎共は、みんな股ぐらを押さえて一歩また一歩と、ノンナさんから距離を取り始める。


「…ノンナさん、それはアカン…」

「ち、違うのよ!?たまたまなんだからね瞳子!!」


あぁ、あのオッサンの息子はお亡くなりになったかなぁ…

冥福を祈って、敬礼!!

まぁ、わたしにゃ元から付いて無いけどね。

でも、石造りの天井をぶち抜いて飛んで行っちゃったけど、大丈夫なのかなぁ…


ノンナさんが、オッサン冒険者の大切なナニを玉砕してしまったので、あれだけうるさかったギルド内が、静まりかえってしまい、ノンナさんが立っていたカウンター周辺に、ぽっかりと空間が出来てしまった。

冒険者のオッサン達は、親の仇を見るような視線を送り、同僚の受付嬢のお姉さん二人からには、哀愁漂うジト眼で見られてしまっている。

なんかすごく居心地悪そう。


「そ、それでどうしたのかしら?」


あ、無理矢理誤魔化してら。

いや、そんなに冷や汗掻いて無理矢理笑顔作ってもねぇ。

引きつってるから。

なんか、これ以上引いちゃったら、ノンナさんが哀れすぐる……

仕方ない、私くらい普通でいてあげましょうかぃ。

ここでフラグを立てておいて、後で回収…ゲヘゲヘゲヘ。


「えっと、この娘をギルド登録したいんですけど、今出来ます?それと、私のランクアップもついでに」

「分かったわ。じゃあ、そこの白い騎士甲冑の娘、こっちに来てこの書類を書いて頂戴。瞳子は、【ゴブリンロード】の討伐した証を出して頂戴」


【ゴブリンロード】のところで、フェルちゃんがビクッてなったぉ。

ウヒヒ…かわぇぇのぉ。

こう言う属性も棄てがたいぉ!!


取り敢えず、フェルちゃんが登録用紙を記入し始めた隣で、フェルちゃんが持っていた刃こぼれしているハルバートを取り出して、カウンターに置いた。


ノンナさんは、一瞬でカウンターの中に引っ張り込んで、例のゴソゴソをし始める。


暫くして、ノンナさんがくすんだステンレスと言うか錫色と言うか鈍い銀色の冒険者カードを取り出して、それを手渡された。


「はい、【シルバーブロンズ】に昇格おめでとう」


この色でシルバーねぇ。

少し突っ込んでみよう。


「シルバーって色してないですけど」

「ほ、ほら!?あれよ!あくまでブロンズだから!!」

「これは錫じゃないですか?錫は銅じゃないでっせ。しかも銅より安いし」

「そ、それは…」


おやおやぁ、目線が泳いでまっせ?

まぁ、大人の事情があるんだろうね。


「で、出来たんですけどぉぉ…ふぇぇ」

「どれどれ?」


ちょうどフェルちゃんが、書き終わったらしく、意外に綺麗な文字で記入されている登録用紙を、ノンナさんが手に取って読み始めた。

音読で。


「なになに?名前、フェル。年齢、分からない。性別、女。種族、【ゴブリンロード】?なにそれ…え?どう言う」

「……ボソッ(偽乳)」

「ちょっ!?…コホン。職業、騎士。……あとで詳しく聞かせてもらうわよ、瞳子」


しぶしぶといった感じで、登録用紙をカウンターの中に仕舞い込んで、さっきみたいにゴソゴソやり始める。

なんだか、あまり顔色が優れてない。


「はい、【ストーンランク】からよ。頑張ってね」


純白のガントレットを填めたフェルちゃんね手に、懐かしいって訳でも無いけど、小さい長方形の石板を

握らせた。


「無くしちゃダメよ」

「ふぇぇ、はいぃぃ」


あ、そう言えば、何でこんなにギルドが騒がしいんだろ。

聞いてなかったや。


「ノンナさん、なんでこんな騒がしいん?」

「やっぱり聞いちゃう?」

「聞いちゃう聞いちゃう。なんで?」


はぁ、と溜め息を吐いたノンナさんは、私達に近付くよう手招きをする。


「実は、共和国と諸王国連合が手を組んで、帝国とこの王国を同時に攻めて来てるみたいなのよ…それにほら、この王都の位置って、何故か国境の真隣でしょ?」


なにそれ怖い!

初耳なんですけど。

てか、国境の真隣に王都作るとか狂気の沙汰としか思えないんだけど。


「それで、直ぐそこまで諸王国連合軍が来てるみたいなのよ」

「いやいやいやいや。それって街の人知ってるですかい?」

「まさか!」

「マッカーサー!」

「……大混乱になるから知らせて無いわ」


なんとまぁ。

これって王都から脱出した方が得策じゃない?

てか、王都が陥落したら王国ってお終いじゃない?

じゃあ帝国に行くとか?

てか、さっきの私のギャグに対するツッコミは?

あんるぇ?


「それで、王都にいる軍隊と、ギルドの冒険者達で迎え討つかどうか、議論をしてたのよ」

「そ、それで結果は?」

「賛成多数で、迎撃になったわ」


マヂか…

やっぱり、冒険者のオッサン達は脳筋だったって事だね。

迎撃になったって事は、緊急クエストが発布されて、私達も参加せにゃならんって事だよね…

ヤル気が起きないんですけど…


「王都が陥落したら、王国ってどうなっちゃうんですかい?」

「王国って特殊でね?幾つか国内に王都があるのよ。ちなみにここは第一王都。確か、当代の王様はここに居るけど、他の王都には成人して、子供がいる王族が住んでるのよね」


うーん、ややこしやーややこしや。

なんでそうなった?

はぁ…

今言っても仕方無いよねぇ。


「敵さんが来たら、緊急クエストとかが発布されるんですか?」

「もちろん、強制のやつがね。あ、功績に見合った報酬は出るわ」

「ほうほう成る程」


ならば、前回考えた事が実現可能かもしれないよねぇ。


「ランクアップとかは?」

「するわよ」


おっしゃ!!

行ける、行けまっせ!!

一気に幹部昇進し部長就任良い感じぃぃぃぃぃぃ!!


「ふぅっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

「なんだか、瞳子はこうじゃないと死んじゃうような気がするわ」

「ふぇぇぇぇ、恐いですぅぅ!」


フッフッフッ、フが三つだぜぇ。

やってやろうじゃないかい。


あれ?なんだかみんなの目が痛い気がする…

いや、だがそんな事は気にしなぁぁぁぁい!!

勝てば官軍だよねっ☆



バタンッ



一人の毛深いオッサン冒険者が、勢い良くギルドに駆け込んで来て、入口の段差で躓いて顔面からスライディングインしてきた。


うわぁ、滅茶苦茶痛そう…


「しょ、諸王国連合が来たぞぉぉぉ!!」


敵さん来るの早くねっ!?

来ちゃったものは仕方ない、もうこうなったら一丁戦争してやんよ!


第二章に続く

第二章についてですが、少し血生臭い章になってしまうかも…

第一章ほど長く?なる予定ではありませんが、ブラック瞳子がやらかしてしまうかもしれませんので、都合により、第三章に急展開する可能性あり。です。


『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ

このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!

正解しても何も無いけどね。

それでは行きます!


『雨虎』


これはなんと読むのでしょうか!

出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。

そして、前回の答えの発表です!


『空五倍子』と書きまして、『うつぶし』と読みます。

五倍子(ごばいし)と呼ばれるウルシ科ヌルデ属の樹木の葉の付け根にできる虫こぶを乾かしたものに、酸化鉄の溶液で染めた、やや褐色がかった淡い灰色で、古来の喪服などに使われていたそうです。また、古典小説などに登場する「薄墨の衣」は、墨染ではなく、五倍子染めのことだそうです』

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