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聖女達の秘密  作者: じいちゃんっ子


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第1話 勇者の憂鬱

こんな話を1つ…

「行くぞマリア」


「はい!」


 聖女マリアが俺にバフ魔法を掛ける。

 漲る力、湧き上がる魔力これで準備は整った。


 俺達勇者パーティは魔王に立ち向かう。

 最凶最悪を誇った魔王軍も俺達の前に敗走を重ね、今や残されているのは魔王ただ1人。

 魔剣を携えた魔王は言葉を発する事なく、構えを取った。


「くそ…」


 さすがは魔王だ、俺が放つ魔法と剣戟をレジストするだけじゃなく、隙あらば確実に反撃をしてくる。


「危ない!」


「すまないカリーナ!」


 あやうく一撃を食らうところだった。

 剣姫カリーナが俺に飛びついてくれなければ、深刻なダメージを負っていただろう。


「…退いて」


「あ…ああ」


 後方に控えていた賢者サリーが攻撃魔法を放つ。

 凄まじい威力だ、これなら…


「え?」


 なんかデカすぎないか?

 それに狙いもおかしい、あれって俺達に向かってない?


「うわ!!」


 あやうくカリーナまで巻き込むところだった。

 俺が食らっても構わないが、カリーナまで怪我をさせる訳にはいかない。


「…外した」


 サリー、今の言葉って魔王に対してなの?


「早くしなさい」


「…はい」


 なんかマリア怒ってない?

 確かに手間取っているけど、相手は魔王なんだぞ。


「そこだ!」


 俺は最後となるだろう一撃を放つ。

 聖剣に出来るだけ魔力を込めた渾身の一撃。

 これでようやく終わる。


「え?」


 剣先が魔王に触れようとした瞬間、奴の身体が光り輝く。

 光が収まると、そこには魔王の姿は無かった。


「…やっちゃった?」


 サリーの言葉になんて答えたらいいんだ、でも隠しきれる事ではない。


「いいや…手応えが無かった。

 魔王め…また転移したな」


 もう少しだった、今度こそと…


「仕方ないわね、一旦帰りましょ」


「マリア…」


 マリアはやれやれといった感じで、聖杖をトントンと叩いてる。

 この役立たず勇者って、呆れてるんだろう。


「そうね、もうここに用はないし」


「…カリーナ」


 剣を鞘に納めながらカリーナが立ち上がる。

 顔が赤い、これは怒ってるな。


「…マサシ早くする」


「はい」


 サリーが魔法杖(ロッド)を俺に突きつける。

 さっき攻撃魔法の邪魔をしたから、完全に怒らせてしまった。


 王国に戻る足取りは重い。

 ここから、歩かないといけないのか。


「なあ、サリーの転移魔法で一気に王国へ帰れないのか?」


「…無理、勇者は転移が出来ない」


「そうだけど」


 勇者を転移させる事が出来ない、それが出来るのは神様だけ。

 それは知ってるけど。


「マリア達3人なら転移出来るはずだろ?」


「…3人は無理、魔力が足りない。

 以前言ったはず」


「だよね」


 確かに言ったよな。

 それで『1人づつ転移したら』って言ったら、マリアとカリーナに猛反対されたんだ。

『サリー1人残すのは危なくて出来ない』って…



「馬を…」


 それなら馬で帰ろう。

 俺は乗れないけど、前回はカリーナの後ろに乗って帰ったんだ。


「却下、お金が勿体ないわ」


「…無駄遣いは厳禁」


 マリアとサリーに断られてしまった。

 無駄遣いって言うけど、歩いて帰る方が宿代や食事代で金が余計に掛かると思うんだけど。


「私は馬で構わないが…」


「カリーナ!」


「…自分が危険だと分かった方がいい」


 せっかくカリーナが言ってくれたのに、なんで二人は断るんだよ。

 危険って、そこまで俺が信用されてないのか。


「…手なんて出さないよ」


「何か言った?」


「なんでもないです」


 マリアさん、睨まないで、あとサリーとカリーナも。


 歩く事2日、ようやく人間の集落が見えて来た。

 野宿は大変なんだよ、岩はゴツゴツだから熟睡出来ないし。


「やっと宿屋に泊まれる」


「私達は野宿で構わないのよ」


「なんで?飯とか大変じゃ…」


「…マサシが作ってるから問題ない」


「あのな…」


 確かに道中の飯作りは料理が得意な俺が担当してたけど、結構大変なんだぞ。

 アイテムボックスに食材は入ってるけど、調理が面倒で、三人とも好みがうるさいし。


「宿屋に泊まる間だけは解放してあげる。

 マサシ、このマリアに感謝なさい」


「どうも」


 何に感謝すりゃいいんだ?


 とにかく宿屋で部屋を2つ取る。

 マリア達女性陣は大部屋、俺は小さな個室、当然だな。


「ふう…」


 ようやく1人になれた。

 討伐の辛さより、あの三人に手を出さない事の方が大変だ。


 なにしろ三人揃って物凄い美女。

 マリアは清楚なお嬢様美人で、カリーナは健康的なスポーツウーマンって感じで、サリーは少し小柄な無口でインテリ美人…妹っぽい感じかな。


「堪らんよ…」


 正直理性の限界だ。

 三人の美女と旅して、手を出せないなんて。


「ダメだ、落ち着けマサシ…」


 深呼吸、深呼吸だ。

 俺が寝取り男になる訳にいかない。

 寝取られの苦しみは、自分が一番分かっているはずだ。


 マリアには幼馴染の恋人が居る。

 最初の討伐の時に手紙を偶然見てしまったんだ。

[マリア…帰って来るのをずっと待ってる]って。


 カリーナにも婚約者が居る。

 旅に出る前、その人に言われた。

『カリーナを絶対無事に帰してくれ』って。 


 サリーも魔術研究室に恋人が居た。

 旅に出る前、俺は見てしまった。


『帰って来たら結婚しよう』ってサリーを抱きしめてるところを…


「生殺しだよ…」


 今夜も1人、自分を慰める俺だった。


 一ヶ月後、ようやくラスト王国に俺達は帰り着いた。

 最強、最大なこの国は、世界のあらゆる国を凌駕する軍事力と優れた知略を誇る。


 3年前、魔王の出現に当然世界は大混乱となり、大国ラスト王国は世界の叡智を結集させ、異世界から勇者を召喚した。

 それがこの俺、間男に恋人を寝取られて絶望していた大学2年生、山村政志だった訳だ。


「また魔王を逃がしたのか…」


「申し訳ございません!」


 国王を前に俺達は頭を下げる。

 物凄い威厳に空気が凍りつく…


「まあいいじゃない陛下」


「おい!」


 カリーナ、いくら自分が貴族の出だからって、不敬じゃないか!


「…別に被害は出てない、今回も魔王は逃げた」


「止めて…」


 なんでサリーまで軽口を叩くんだ。

 いくら世界一の魔術師で、魔術界で最高権威だっていっても、相手は国王陛下だぞ?


「今回の遠征費は私達4人分だけでしたよね、王国に過度なご負担をかけなかったかと」


「マリアさん…」


 聖女が国王に軽口をきいて良いのか。

 教皇の娘って、そんなに偉いの?

 いや、ダメだろ!


「しかしこれで5回目であろう、次は我が精鋭の兵士を連れて行くように」


「は…はい」


 陛下の言う通り、魔王を逃がしたのは今回で5回目。

 その度に俺達…いや俺は謝罪をしている、いい加減にしろって話になるよな。


「…回数は問題じゃない」


「サリーさん、止めて下さいお願い致します」


「…マサシは黙る」


「ンーー!」


 口が開かない!

 サリー、何の真似だ?


「確かに2回目以降は兵士を連れておりません。

 しかしながら、魔王による被害は皆無、民も我等の活躍に安堵しておりました。

 これらは全てマサシの功績かと」


 カリーナさん、そんなに俺を買っててくれたの?

 でも陛下の前でサムズアップは止めて。


「そういった訳でございます。

 私達だけでの魔王討伐を止める訳には参りません。

 もし聞き入れて貰えないならば、次からは私達4人手を引かせて頂きます」


 マリアさん何を言うの?

 俺が手を引く訳ないでしょ、だって一応は勇者なんだよ。

 立場上、許されないに決まってるだろ。


「…もうよい、下がれ」


 陛下の機嫌をこれ以上損ねる訳にいかない。

 俺達は国王に一礼して、部屋を…


 なんで3人はふんぞり返ってるの?

 俺だけペコペコしてバカみたいじゃないか。


 ほら、周りの衛兵達も可哀想な子を見るような目で俺を見てるし!


「それじゃまたねマサシ」


「…早く寝ろ」


「何かあったら呼んでくれ」


 マリア達が城内の自室へ戻っていく。

 討伐に失敗したのに、気まずくないの?

 物凄い鋼のメンタルだよ。


「…俺も寝よ」


 さっきの魔法が解けたみたいだ。

 自室の扉を開けると、室内にあるのは大きなベッドだけ。

 他にはなんにも無い、調度品も、テーブルすらも、なんて殺風景な部屋なんだ。


「疲れた…」


 聖剣をベッド脇に立て掛け、シーツにダイブする。


「フカフカだ、なんか良い匂いもする」


 鼻腔をくすぐる香り。

 なんだろう、どこかで嗅いだような…


 そのまま眠りに落ちた。

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