4.
次の日。
スウが起きてみると、レビの姿は無かった。
何度呼んでも、スウの目の前には現れなかった。
さすがにスウも昨日の事が夢かと疑った。
だが、シチューの残りはまだ鍋にあったし、暖炉の火も燃えていた。
暖炉脇には太い薪の束まであるのだからきっと夢ではなかったのだろう。
試しに自分の頬をつねってみてもちゃんと痛かった。
生きている証だ。
赤くなった頬をさすりつつ、スウは朝食に残りのシチューを温めてから食べた。
皿と空になった鍋を洗うと、レビの声がした。
「スウ」
「レビ! 何処にいるの!」
「スウ、食糧庫に材料があるからそれで料理を作りなさい。そしてありったけの薪で部屋を暖めるの。タオルも用意しておくこと」
スウの質問には答えず、レビの声はスウがどう動くのか指示をした。
「レビは手伝ってくれないの?」
思わずスウは弱気になって言った。
「言ったでしょう。『スウはなるべく自分の力を使わなきゃ駄目』と」
「レビ……。わたし、出来ないよ!」
「……大丈夫よ。スウはそんな弱気な事ばっか言っているもう小さな子じゃないでしょう? それにこうも言ったはず。『困ったら必ず私が助ける』ってね」
昨日、レビに言われたことに自分が頷いたことをスウは思い出す。
わたしは、幸せになりたい。
育ててくれた、ニーラの為にも。命を救ってくれたレビの為にも。
「正確にはスウが私の命を救ってくれたのだけれどね」
「え?」
「さあ、スウ料理よ! レッツ、クッキング!」
「は、はい!」
スウが食糧庫を覗いてみると。
「わあ、色々ある!」
肉から野菜からチーズから。
一通りの食材はありそうだ。
「でも、わたしに何が作れるのかしら」
さっそく迷っているスウの手が勝手に動く。
「え、ええ⁉」
スウの手は鶏肉の手羽先と、香草を選び、さらにいくつかの野菜を手に取った。
だか、そこで魔法の様に動いていた手は止まった。
困った、とスウは思った。
台所に肉や野菜を運び終えて当のスウは固まってしまっていた。
ろくに料理なんかしたことがないのだ。
ニーラの作った料理を皿に盛るくらいしかやったことがなかった。
「えーと、レビ? レビ、わたし何作ったらいいかわからないよ」
空中に向かって言ってみたものの、レビからの返事はない。
これではどうしようもないではないか。
早くもスウは問題が盛りだくさんな事にくらり、とした。
が、頑張らなくてはと思い直すスウ。
取り敢えず恐る恐る包丁を手に取ると、食材に向かって両手で振り下ろした。
「ストーップッ!」
ピタリ。
スウの手が誰かに掴まれて止まる。
「レビ!」
青い顔をしたレビが息も絶え絶えにスウの手を掴んでいた。
「スウ! 一体何をしようとしてたの⁉」
「え、肉と野菜を切ろうと……」
「待て待て。それで何故頭の上から包丁を振り下ろす⁉」
大きなため息をついてレビはしゃがみこんでいた。
スウは頭に「?」を浮かべてそんなレビを見ている。
「わかった」
レビが立ち上がって言う。
「スウ。包丁はこう使うのよ」
手本を見せるためにレビが包丁でにんじんを切って見せた。
スッスッと綺麗に揃えられた大きさでにんじんは切られていた。
それからレビは丁寧に一つ一つの食材の切り方をスウに教えていく。
スウはぎこちなく包丁で肉や野菜を切っていった。
レビに教えられたとおりに、香草や調味料を使って味付けをしていく。
「……出来たわ!」
とありあえずスウは教えられながらも自力で料理を完成させた。
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