10.
馬が盛大に蹄を鳴らし高く嘶く声でスウは目が覚めた。
「シゼ!?」
期待に胸が膨らんだスウは慌てて外套を羽織ると扉を勢いよく開く。
だが。
「……貴女がスウ、ですか?」
そこに立っていたのは違う男性だった。
優しそうな感じを湛えた男性は王家からの使いだと名乗った。
「王家?」
訳が分からず繰り返すスウに男性は頷いた。
そして、
「貴女を養女に迎えるよう王様からの命令です」
そう言ったのだ。
驚くスウはまず「養女」という言葉すら解らなかった。
男性はスウに噛み砕くように親切に説明してくれた。
トテラウト伯爵だという男性は、森の奥深くに一人ぼっちで暮らす少女を憐れに思った王様からの命でスウを養女に迎えることを命じられたそうだ。
どこでどうしてこの国の王家がスウの事を知ったのかは知らされていないという。
トテラウト伯爵自身も少しだけ戸惑いを含んだ笑みをこちらに向けていた。
さすがのスウの警戒心も強まる。
スウはハッとして家の中を振り向いた。
レビなら分かるかもしれないと。
しかしレビの姿はなかった。
代わりに、うさぎの姿のレビが囲いの中でちょこんとこちらを見上げていた。
スウは困った。
でも、スウは一般市民。
王様には逆らえないのは理解出来ていた。
だからスウが言えるのはたった一言だった。
「分かりました。王様の命とあらば」
トテラウト伯爵はホッとしたように笑みを改めていた。
伯爵の説明では今すぐに荷物をまとめて欲しいという。
慌ただしい引っ越しが始まった。
と言ってもスウの荷物は少なかった。
亡きニーラの物を含めても、少ない。
最後に困ったようにうさぎを見遣っていたトテラウト伯爵に気付いたスウは懇願した。
「お願いします。レビも一緒に行かせてください! 家族なんです!」
「……スウのお願いだ。聞こう」
「ありがとうございます!」
スウは安堵した。
レビに頬ずりをする。
こうして、スウは物心ついた時から暮らしていた森の小屋を後にすることになった。
トテラウト伯爵は馬車で来ていたのでスウも乗り込む。
背後に小さくなる小屋を、レビを抱きながらスウは見えなくなるまで見ていたのだった。
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