悪夢の中で 詠子の章 陸
光の矢は大妖の体へと徐々に食い込んでいく。と同時に大妖の手から短剣が消えていく。
「貴様…… なぜそこまでやる! 何が貴様をそこまで突き動かす!! 」
「人間だから、でしょうかね。誰かから託された思いを繋ぎ、常に前へ歩み続けるのが人間の本質です」
「ならば…… ならばなぜ!! 穐宗は殺されたのだ!! 」
「……やはりあなたは、『神』であるがゆえに人の、妖の心が分らない」
光の矢が突如として鎖に姿を変えた。そして大妖の体が凄まじい速さで縛り上げられていく。
「皇迦楼羅よ、そなたの名前をお預かり致します」
「……好きにしろ」
改めて詠子が剣を突き刺す。刹那、大妖の姿が急激に神々しさを失いながら変貌していく。
「儂の名前は持って行け。失くすなよ? 」
「……はい」
「手向けだ。その体では下山もままなるまい」
軽く手を振る迦楼羅。その瞬間、目を開けないほどの突風が吹き荒れ詠子は真後ろに激しく吹き飛ばされた。
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「……い、おい、生きてるか? 」
「えぇ…… 何とか…… 」
激しい痛みと共に、どうやら気を失っていたらしいと自覚する詠子。うっすらと目を開けたその先には、揺の心配そうな顔が映っていた。
「随分派手に切られてるな。すまん、俺では治療できない」
「これくらいの傷であれば…… 」
つい先ほど迦楼羅に切り付けられた肩口をちらりと見やる詠子。鎖骨まで傷が及んでしまっているのか、左腕に力が入らない。
「人が無理しちゃいけない。一旦玉藻のところに行くぞ」
「……承知いたしました」
「おい馬鹿、自力で歩こうとするんじゃねぇ」
なんとか起き上がろうとする詠子を押さえつける揺。揺が詠子の傷口に手をかざすと、まだうっすらと続いていた出血が止まった。
「ま、止血だけならこれでいいだろう」
「…… 」
「ま、たまには負われるってのも悪くないだろ」
未だうまく動けない詠子を背負い、揺は風のごとく走り出した。




