ゼックン
ゼックンだと。エルフに聞いた勇者パーティーの鬼族か。そういえばこいつ空から降ってきたな。ふと上空を見ると龍が飛んでいる。
「ゼックンさん。あなたは何を知っているのです。リコの居場所を知っているのですか?」
「恐らくだが、ジャミラの町、王都だな。お前達が国境を越えてくるのは想定外だった。てっきり引き返すと思っていたのだが、あのカツヨリとは性格が違うようだ。まあここまで来てしまってはさっきのどちらかを選ぶ事になる」
「森で出会った盗賊はマルス国へ行けと言いました。王女様の話だとここがそのマルス国です。あなたはラモス国へ戻れと言う。仮にあなたを信じるとしてそれではあなたはなぜ、そうここで何をしているのです。さっきの死霊術はあなたでしょう?つまりあなたは盗賊側という事ですよね。つまり、この王女様を狙った側だ。俺がラモス国に戻れば王女を殺すという事ですか?」
「そうなるかな。だがこの場ではやらんよ。俺はすでに一線を退いている。王女を殺すとすれば別のやつだな」
ゼックンはカツヨリを追いかけた経緯を話し始めた。カツヨリと言う名の強い若者が突然現れ盗賊を倒したと聞いた。500年前もそうだったと。どんな奴かと試しに見ていたら中々強そうだったので屍人を使って仕掛けてみた。そしたらこっちへ追いかけてきてしまい今に至ると。
「全然わからん。俺はリコを助けに戻る」
「私はここに残るわ。王女様を護衛してお城へ行きます」
「リリィ、何で?」
突然の展開に動揺するカツヨリ。
「私はあなたが好きよ。強いあなたに憧れて足手まといにならないように必死に訓練してここまできたの。でも、リコが攫われてからのカツヨリは私の好きなカツヨリじゃなくなってしまった。ただの妹思いのバカよ。盗賊に味方する?そんなの私の好きなカツヨリじゃない。色々考えたの、どうするのがいいかって。このまま一緒にいるとカツヨリを嫌いになってしまいそうなの。ついていきたい、このまま堕ちてもいいという気持ちもあるわ。でもそれじゃダメなの。仲間として、恋人として今がその時、ここで一度離れてみたいの。お願い、少し離れて考えさせて。リコを助けて、それで、その時また………」
カツヨリは冷静さを欠いていて大事な物を失ってしまった事に気付いた。リリィの眼は真剣だった。俺は周りが見えなくなっていたようだ。やはり転生してから何かが欠けている。俺の中の大事な何かが。
「リリィ。わかった。リコを助けた後迎えにくる。ゼックンさん、ここは引いてくれるんですよね」
「ああ。また会おう」
ゼックンは大きくジャンプし龍に飛び乗った。そのまま山の方へ飛んでいき姿が見えなくなった。カツヨリは王女とリリィが安全なのを確認してリリィのアイテムボックスにポーションとお金を移しハゲールの森へ戻っていった。
リリィはカツヨリを見送ると王女に向かい、
「城までお伴します。馬車はもうダメそうなので徒歩になります。騎士様、ポーションをお使いください」
リリィは騎士カインにポーションを渡した。ポーションを躊躇わず使い、怪我が治ったカインとともに城へ向かって歩き出した。
「あれがゼックン。鬼族の棟梁。まだ生きていたのですね」
エリスタンがつぶやくとカインが、
「勇者伝説のゼックン。この国を作った英雄。それが盗賊とは一体」
「カインが知らないのは無理もありません。これは王族の一部しか知らない事ですから。恐らくですが、盗賊団の名前から推察すると……………」
エリスタンはリリィに聞かせるように話し始めた。
500年前、魔王討伐を終えた勇者パーティー5人はそれぞれ国を作った。龍族のリョウマと鬼族のゼックンは自らが王になるのを嫌い、信頼できる人間に国を治めさせた。鬼族のゼックンが信頼していた人間、それがらラモス国を作ったラモスその人だ。エリスタンの先祖である。ラモスは国を治め、特産の鉄鉱石を使って鍛冶産業を発展させた。漁業や農業にも積極的に取り組んだ。豊かな国を目指して国政に取り組んだのだのだ。200年が過ぎた頃、国は豊かになったが不正が相次ぐようになった。豊かになれば金が動く。金が動くと悪巧みを考える輩が出てくる。癒着や政治腐敗が目立つようになった。300年が経った。鬼族はこんな国にして欲しくて譲ったのではないと時の王に食ってかかった。王は理解したが、腐敗していた取り巻き役人が強く反対し政治的な改革がうまく進まなかった。
ゼックンはしびれを切らした。そして息子のゼックスを使い、悪に染まった役人を殺し始めた。それを見聞きした正義感溢れる人間達は我々も改革に参加すべきだとギルドを頼ったがギルドは魔物相手が主体で人殺しに加担する事を拒否した。
そこで、改革派の人間が鬼族が住んでいるといわれる鬼人山に鬼を探しに行き、魔物に倒されるという事件が相次いだ。結局鬼族は見つけられずに終わったが、鬼族の制裁は引き続き行われた。
役人の中にもまともな考えを持つものがいた。カイマン伯爵は父親の不正を暴き、王に直訴した。家の取り潰し覚悟だった。王は役人がどんどん殺される中、まともな考えを持つカイマンを味方にしたくて父親と同じ伯爵家を継がせた。ここに王とカイマンによる大幅な政治改革が行われた。俗に言う悪代官はことごとく牢に入れられ処罰された。マルス国の腐敗は有名だったが、カイマンによる改革も瞬く間に大陸に広まり、マルスは住みやすい国として有名になった。そこにウサギ獣人が流れ着いた。




