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【最終章開始!】婚約破棄された私、魔獣と話せるスキルで暴れる竜を通訳したら、冷徹騎士団長様に「俺の恋心も通訳してくれ」と溺愛されています  作者: 月雅
第4章

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第10話 愛する人へ、愛を込めて



「僕ね、大きくなったらパパみたいに強くなるんだ!」

「僕はママみたいに優しくなる! それで、ポチと一緒に世界中を冒険するの!」


 シャンデリアの柔らかな光の下、公爵家のダイニングルームは幸せな喧騒に包まれていた。

 メインディッシュのシチューを頬張りながら、アレンとレンが目を輝かせて夢を語っている。


 足元では、小竜のポチが専用の皿から器用に肉を食べていた。

 時折『うめぇ! おかわり!』と鳴いて、双子に肉をねだっている。

 言葉は通じなくても、双子は「はいはい、食いしん坊だな」と笑って分け与えている。


「……ふふっ」


 私はグラスを傾けながら、自然と笑みがこぼれるのを止められなかった。

 かつては静寂だけが漂っていたこの広い屋敷が、今はこんなにも温かい。


「どうした、エルマ。シチューが冷めるぞ」


 向かいに座るグレイド様が、微笑ましげに私を見た。


「いえ。ただ、幸せだなって」

「そうか。……私もだ」


 グレイド様は双子を見つめ、満足げに頷いた。


「アレン、レン。パパとママみたいになりたいと言ったな」

「うん!」

「でもな、お前たちは私たちにはなれないぞ」


 グレイド様の言葉に、双子がキョトンとする。

 意地悪を言っているわけではない。その瞳は、慈愛に満ちていた。


「お前たちは、私たち以上になれる。言葉を使わずに心を繋ぐ、新しい時代の竜騎士になれるはずだ」

「私たち以上……?」

「そうだ。パパもママも、お前たちを誇りに思っている」


 双子の顔が、ぱあっと輝いた。

 私は彼らに向かって、力強く頷いた。


「そうよ。あなたたちの手は、もう立派な魔法の杖なんだから。自信を持ってね」


 かつて私が持っていた劣等感や、能力への執着は、もうどこにもない。

 子供たちが教えてくれた。

 特別な力がなくても、愛があれば奇跡は起こせるのだと。


 夕食後、遊び疲れた双子とポチは、リビングの暖炉の前で折り重なるようにして眠ってしまった。

 侍女たちがそっと毛布をかける。

 私たちは顔を見合わせ、静かに部屋を後にした。


 ***


 寝室に戻ると、グレイド様がサイドボードから細長い箱を取り出した。

 上質なビロード張りのケースだ。


「エルマ。これを」

「えっ、何ですか?」

「約束していただろう。君専用の、新しい道具だ」


 彼が箱を開けると、そこには一本の美しい棒が収められていた。

 素材は以前と同じミスリルだが、持ち手には滑らかなローズウッドが使われ、細工には小さな宝石が埋め込まれている。

 先端は、より肌当たりが優しいように、絶妙なカーブを描いて研磨されていた。


 ――特注の、最高級孫の手。


「まあ……! 素敵です」

「気に入ってくれたか?」

「はい! でも、こんなに豪華だと使うのが勿体ないくらい」


 私が恐縮していると、グレイド様は箱からそれを取り出し、私の手を取ってベッドに座らせた。


「使わなければ意味がない。……ほら、後ろを向いて」

「え?」

「いつも君ばかりが、私や竜たちの世話をしてくれているだろう。今夜は、私が君を癒やす番だ」


 彼は私の背中に回り込んだ。

 ドレスの背中のファスナーが下ろされる。

 冷たい空気に肌が触れた直後、温かい金属の感触が滑り込んできた。


 カリッ、カリカリ。


 優しい刺激。

 肩甲骨のあたりを、孫の手がゆっくりと行き来する。


「……っ、ふふ。くすぐったいです」

「力加減はどうだ?」

「最高です。……あ、そこ。もう少し右です」

「ここか?」

「はい……あぁ、気持ちいい……」


 力が抜けていく。

 一日の疲れが、背中から溶け出していくようだ。

 誰かに背中を掻いてもらうのが、こんなに安心する行為だったなんて。


 私は目を閉じて、彼の気遣いに身を委ねた。


「エルマ」


 背後から、低い声が降ってくる。


「君に出会えてよかった。君が、あの時ヴェルドアの背中を掻いてくれなければ、今の私はいない」

「大袈裟ですよ」

「本気だ。君は私の凍っていた心を溶かし、家族を与えてくれた。……君は私の、最高の『通訳』だ」


 言葉にならない愛を、形にしてくれる人。

 頑なな心を、優しく解きほぐしてくれる人。


 私は振り返り、彼の首に腕を回した。


「グレイド様。私こそ、あなたに救われました」


 婚約破棄され、居場所を失っていた私に、新しい世界と、守るべき大切なものをくれた。

 この人がいなければ、私は自分の能力を呪ったまま生きていたかもしれない。


「愛しています。これからもずっと、あなたの背中は私が守りますから」

「ああ。頼りにしているよ、私の可愛い奥様」


 孫の手がベッドサイドに置かれる。

 代わりに、彼の手が私の背中を抱きしめた。

 

 キスが落ちてくる。

 それは甘く、深く、永遠を誓うような口づけだった。


 窓の外では、月が静かに輝いている。

 嵐は過ぎ去り、明日もきっと晴れるだろう。


「……ねえ、あなた」


 布団に潜り込みながら、私は彼に尋ねた。


「明日は何をしましょうか?」

「そうだな。双子がポチを飛ばせるようになりたいと言っていた。特訓に付き合うか」

「ふふ、またスパルタですか?」

「手加減はするさ。……その後は、二人で茶でも飲もう」


 何でもない日常の約束。

 それが、何よりも愛おしい。


「ええ。楽しみにしています」


 私は彼に寄り添い、目を閉じた。

 

 かゆい所に手が届く。

 そんな些細な幸せを積み重ねて、私たちは生きていく。

 夫と、子供たちと、そして愛すべき竜たちと共に。


 私の新しい人生は、ここにある。

 最高に騒がしくて、温かくて、愛に満ちた場所。


 「君と一緒なら、どこへ行っても極楽だ」


 眠りに落ちる直前、耳元で聞こえた彼の言葉を、私は幸せな夢の中で反芻していた。


(完)


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