88.加齢
「よぉ……、久しいな……元……。随分とじじいになったな……」
「…………なんだ、元気そうじゃねえか……。ヴィリー……」
瓶から現れたのは50代くらいの男は、白神元の友にして、ヨハン、リーゼの祖父。
ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの20年ほど前の姿であった。
「で……、ヴィリー……の姿をしたドッペルゲンガーさんよぉ……、姿はそのままでいいのか?」
じいじは目の前の敵に尋ねる。
「ん……? ドッペルゲンガー……なんのことだ? 元よ……」
「とぼけやがって……」
「……よくはわからぬが、特に今のままでいいようだが?」
「っ……」
ドッペルゲンガー。
それは形のない彷徨える亡霊。
だが、出会った者に姿を変えることができるという。
そのドッペルゲンガーが姿を変える対象は、出会った者の中で最強の者であるという。
「見誤ったな……ドッペルゲンガーよ……! 雷術〝雷轟〟!」
じいじは手の平を前に突き出し、速い初動で、輝く雷をドッペルゲンガーに放つ。
が……、
「……見誤ってなどいないでしょう?」
ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの姿をしたドッペルゲンガーはにやりと口角を上げる。
ドッペルゲンガーの目の前には、鎧の騎士が現れ、雷から守る盾となっていた。
「…………守護霊体……か……」
じいじは眉間にしわを寄せる。
「ホムンクルスな……」
ホムンクルス。
それは日本の心〝魄術〟に相当する技術で、魔力を守護霊体(通称、ホムンクルス)に変化させる技である。
「いい加減、横文字もちゃんと覚えろよ……。元……」
「っ……」
かつての友がいかにも言いそうなことを指摘され、じいじは唇を噛みしめる。
◇
「霊晶砲!」
それは拳銃の形をしたものであった。
ヨハンは古風なリボルバー式の拳銃の引き金を引く。
|エーテルクリスタルクーゲル《霊素結晶弾》と呼ばれるドイツ式の主たる攻撃手段である。
銃口から青白く煌めく弾丸が発射される。
「ゲギャァアアアアア!」
その弾丸が直立したイノシシのような怪物に直撃し、イノシシはさらさらと霧散していく。
「……よし」
ヨハンは小さく握りこぶしを作る。
「ヨハン、やったね……」
後方で見ていたリーゼもヨハンに軽く声を掛ける。
「あぁ……、だけど、今の奴は8体の中で、最弱のガイスト。僕はこれより強いガイストをあと7体、倒さなければいけない……」
「……うん」
「さぁ、ゆっくりしている時間はない。急いで、次のガイストの封印を解かないと……」
そう言って、ヨハンはアタッシュケースから綺麗な石を取り出す。
◇
「雷術合術〝迅雷轟〟」
雷を纏ったじいじがドッペルゲンガーを強襲する。
しかし、振るった右腕は空を切る。
ドッペルゲンガーはサイドステップで、ひらりと攻撃をかわした。
空を切った右腕の勢いをそのままに、再度、右腕でドッペルゲンガーを襲う。
今度は、鎧の騎士の左腕がそれを止める。
「どりゃぁあああ!!」
「グギ……」
バチバチと激しい音を立てながら、鎧の騎士の左腕はひしゃげていく。
だが、
「ボ……」
「っ……」
鎧の騎士は、空いている右腕をカウンターでじいじに向かって繰り出す。
「くっ……」
じいじは身体を反ることで、間一髪、パンチを避ける。
雷を足に込め、鎧の騎士の胴を両足で蹴りながら、後方へ退避する。
両者は一定の距離を取り、睨み合うが、その間、
「ボォ……」
ひしゃげた鎧の騎士の左腕が形を整えていく。
「…………まぁ、元は魔力だからな……」
その結果に、じいじも驚きはしない。
「うーむ、流石は元……といったところか……。しかし……衰えたな……」
「っ……」
「人間の加齢とは残酷なものだ……。元……こんなにも弱くなって……」
「あぁ、確かにな……。老いて……衰えた……それは否定できん」
じいじは険しい表情で、肯定する。
「潔く認めるのだな……。ならば、力の差は明らかであろう……。さっさと負けを認め……」
「話は最後まで聞け、このクソせっかちが」
「なっ……!」
「俺は確かに衰えた……。だが、弱くなったとは言っていない」
「っ……!」
「見せてやるよ……。お前の知らない20年って奴をよ……」
じいじはゆっくりと重心を下げる。




