56.うにょ
翌日――。
熊燐の件で、再現性を確認するために、昨日、一度、封印した熊燐を再度、解呪した。
昨日と同じように、強い光を放つ札から、熊燐が現れた。
そして……、
「うにょにょー」
昨日と同じように、緩い鳴き声を出しながら、界に擦り寄ってくる。
「じいじ……」
「あぁ、昨日と同じようだな……」
「うん……。じいじ、これってどういうことなんだろう?」
「じいじが聞きたいわ。封魔術で封じた霊魔がうにょにょ化するなんて、こんな前例はないのじゃ」
「……そ、そうだよね」
(うにょにょ化って……)
「…………界よ……」
「ん……?」
「そ、その…………ドウマ様はご存じないのだろうか? ドウマ様であれば……」
「え? あ、そうだね。ちょっと聞いてみるね」
「あっ、す、すまぬ……、無理のない範囲で……」
「じいじ、大丈夫だよ。ドウマはこんなことでブチ切れる程、器の小さい奴じゃないよ」
「……! あ、あぁ……」
(「というわけで、ドウマ……、この現象について何かわかる?」)
【知らんがな!】
(「へっ?」)
ドウマはやや不機嫌であった。
【まぁ、なんとなく霊魔がまるで田介の従者のようになっているように見えなくもないがーー? まさか本当に成功するとは……。儂様ですら、その発想がなかったというかなんというか……】
(「そうなんだね……。ありがとう……」)
【ふんっ……】
(なんで不機嫌なんだろ……)
「じいじ、ドウマも【知らんがな】だってさ」
「ふぉっ! だ、大丈夫か? それ……。ドウマ様、お怒りになってないか!?」
「あー、大丈夫大丈夫」
「そ、そうか……」
じいじはほっとした様子を見せる。
「それじゃあ、界よ……、これより封魔術の練度をより高めていく訓練を……」
「封絶術……」
「「……!?」」「うにょ!?」【……?】
何か……寂しげなつぶやきが、界とじいじと熊燐とドウマの耳に入る。
「封絶……術……」
それは、どこか遠くを見ながら、封絶術とだけ繰り返し呟く、くまじいじであった。
訓練を開始して、すでに一週間以上経過していた。
その間、くまじいじはほぼ放置された状態で、しかし、いつも訓練の様子は見てくれていた。
(や、やべ…………いくらなんでも封魔術の方に偏り過ぎたか……)
【ははっ……あれが霊魔化した姿が熊燐だな……】
(「そうそう……憐れなくまじいじって……違うわ!」)
【あははははは……なんだそれ、おもろ……!】
(い、いかんいかん……。ドウマおじさんが突然、ブラックジョークを言うものだから、不慣れなノリツッコミなどしてしまった。なぜかドウマには受けているようだが……。ドウマの時代にはノリツッコミはなかったのかな……?)
さらに、界はふと思う。
(ってか、ドウマって笑う時、あははって笑うんだよな……。前世で時々、観てた配信とかで〝あはは〟って笑う人のを聞いてるとなんかちょっと元気になったから、少しだけドキッとするからやめてほしいわ)
界は心の中で少し苦笑いするのであった。
そして、
「じいじ、ありがとう……。まだまだ全然だってわかってはいるんだけど、そろそろ一度、くまじいじに封絶術を教わってもいいかな?」
「全然というか……、現在の状況がイレギュラー過ぎて、じいじも今後の訓練方針について、少し考えたい。ちょうど良き頃合いだったかもしれない」
「あ、うん……わかった」
そう言うと、界はまず熊燐を札に戻す。
「うにょーー……」
それから、じいじから離れ、くまじいじの方に歩いていく。
くまじいじの前に立ち、頭を下げる。
「くまじいじ、封絶術について教えていただけないでしょうか?」
「……」
しかし、くまじいじは俯いている。
「くまじいじ……?」
界は心配そうにくまじいじの様子を窺う。
と、
「…………うにょ!」
(うにょっ!?)
突然、顔を上げたくまじいじに界は肩を揺らして驚く。
くまじいじの顔は、前世含めても見たこともないような満面の笑みである。
「界様と訓練やるにょ!」
くまじいじは嬉し過ぎたのか変なテンションになっていた。
次話、封絶術の訓練……! は割と短めになる予定……。
すまんな、くまじいじ……。




