53.なんじゃこりゃ
「今日はここまでじゃ」
じいじが今日の訓練の終わりを告げる。
「えぇ……!? じいじ、僕もっとやれるよ!」
「気概は認めるが、今日のところはここまでとする。宿の夕飯の時間も決まっているしな」
(……確かに宿の人に迷惑をかけるわけにもいかないか)
「……わかったよ」
そうして、その日の訓練を終わりにし、宿へと戻った。
「うぉー、すげぇー!」
宿では、豪華な和食料理が出てきた。
「界、強くなりたいなら、たくさん食べろよ」
「うん……!」
(強くなりたいとか関係なく、こんな旨そうなものは食べるさ!)
訓練のせいかお腹がすごく空いていたこともあり、界はたくさん食べた。
その後、じいじ、くまじいじと三人で大浴場に入り、寝ることにする。
じいじ、くまじいじは相変わらず些細な事でいがみ合いしていたが、慣れてくるとそれも味があって、界は楽しかった。
夜――。
ご老人二人は、界と寝れる……と、うっきうきだった。
そのわりに、長距離移動したこともあり、流石に疲れたのかさっさと眠りについていた。
界はその隙をついて、最も基本的な動作の結印の練習をする。
(まずは縛印……両手の中指と薬指を交差させてから、人差し指を真っ直ぐ立てて前方へ向ける。親指と小指は互いを抱き込むように丸め、鍵を差し込んで回すような形を取る)
「うーむ……難しいな……指がうまく動かないのよ……」
(次に伏印……両手のひらを合わせ、中指と薬指を交差させた状態から始まる。次に、左右の人差し指を刃のように前方へ向けて揃える。最後に、手首をひねりながら手のひらを下へ。地に押し付けるように……)
「うむ……個人的には、この伏印の動作がちょっと苦手だ……」
(最後に締印……両手の中指・薬指・小指を折り曲げ、人差し指と親指だけを開いた形にする。その両手を向かい合わせ、開いた指で円を作るように構えて胸前に保持。最後にその円を前方へ突き出す)
「うん、割とこれが一番覚えやすいまである」
などと、練習していると、ドウマが話しかけてくる。
【おい、田介、なんでそんなに頑張る?】
(「え……? どういう意味?」)
【お前は別に無理に封魔術覚えなくてもいいだろ。圧倒的な威力で吹き飛ばせば、そいつは数十年は復活できないわけだし……】
(「そうかもしれないけどさ、やりたいんだよ」)
【だから、なんでだよ!】
(「うーん、それは、まぁ、企業秘密というやつで」)
【は? なんだそれ……?】
(「まぁまぁ……、俺はもう少し練習を続けるね」)
【……好きにしろ】
そうして、界はしばらく結印の練習を繰り返すのであった。
それからしばらく封魔術の訓練が続いた。
一週間ほど経ったある日のこと。
「影の名を断ち、力の流れを塞ぐ。
ここに印を刻み、我が結界に縫い止めん。
汝が咆哮、いま鎮まりて封ぜられよ――封鎖!」
「ウボォおお……ぉ……」
札に熊燐が吸い込まれていく。
「…………できた…………できた!」
界は思わずガッツポーズする。
「おぅ……、界、よくやったな」
じいじが界の頭をわしっと撫でる。
「僕、やったよ! じいじ、ありがとう!」
「あぁ……じゃが、まだまだじゃ」
「あ、うん……」
「結印が甘く、使用してしまっている魔力量が多すぎる」
「うん……」
「まだまだ改善の余地はあるぞ!」
「うん……! 僕、もっともっとやるよ!」
界は訓練を継続した。
「界! 伏印が下手くそ! もっと霊魔を強く抑えつけるんじゃ! そうすることで締印の時に使用する魔力も抑えることができる!」
「う、うん……」
じいじのアドバイスを聞きながら、界は思っていた。
(……それが原因かもな。なんとなく熊燐を抑えつけることに抵抗感がある。不本意だろうけど、ずっと訓練に付き合ってくれてるし……)
「ウボォ……」
(じいじ、悪い…………俺は抑えつけるんじゃなくて……!)
「ウボォおお……」
熊燐は札の中に消滅していく。
「こらっ! 界! もっと下手になっているぞ! こんな低級霊魔にそんなに魔力を使っていてはダメじゃ……」
「う……ごめんなさい……」
「謝罪は不要じゃ、さぁ、もう一度やるぞ!」
そう言って、じいじは熊燐の封印を解こうとする。
が、しかし、じいじの動きが止まる。
一向に熊燐の封印を解かずに渋い顔をしている。
界は恐る恐るじいじに尋ねる。
「…………どうしたの? じいじ」
「…………な、なんじゃこりゃ!?」
(……何が!?)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
以前にも告知させていただきましたが、本作が書籍化いたします。
発売日は12/26(金)になります。
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(ご予約いただけますと、本屋さんなどでの展開が増えることがあるそうです)




