51.代償とは
本日、おまけのもう1話です。
「封魔術とは……代償の術である」
「代償の術……?」
じいじの言葉に対して、界が聞き返す。
「そうだ。界……、大前提として霊魔について知っておくべきことがある」
「はい」
「そもそも霊魔とは完全消滅させることが非常に難しい存在なのじゃ」
「……!」
「霊魔は一度、消滅させたように見えても、しばらくすると魂を取り戻し、活動を再開する。例え、弱い霊魔であってもな……」
「な、なるほどです」
(「ドウマ、ってことは寂護院で倒した狒々もしばらくしたら復活するの?」)
【相当こんがり焼いたから、しばらくはしないと思うが、ひょっとしたら何十年後かにするかもしれないな】
(「……なるほど……厄介だな」)
「そうした霊魔を実質的に、活動停止に追い込むのが〝封魔術〟だ」
「封魔術を使って封印すれば、霊魔はもう復活できずに活動できないってことだね?」
「封印が解けない限りはそうじゃな」
(封魔術で封印することが実質的に霊魔を殺すことになるってことか……)
「それで、界、最初に言ったことを思い出すんじゃ」
「うん……。〝封魔術は代償の術である〟だね。じいじ、何を代償にする必要があるの?」
「よく覚えていたな、界。それでじゃ、代償は大きく二つある。一つは依代。二つは魔力じゃ」
(依代と魔力……)
「界はな……そのぉ……依代の子じゃろ?」
「あ、うん……」
「だから、実のところ、身をもってそれを知っているはずじゃ」
「えーと、つまりは僕が依代で、慰霊に魔力を吸われてるってこと?」
「前者は合っているが、後者は違う」
「……! 確かに、僕は今、ドウマに魔力供給とかはしてないね。自分の意思でない限りは」
「そうじゃ、魔力を代償にするのは、封印を行った破魔師だ」
「そうなんだね」
(えっ? ということは鎮霊の儀を発明したらしいドウマの魔力ってことかな?)
「鎮霊の儀に関しては少し特殊でな。魔力の代償は必要としない。なにせ鎮霊の儀を発動した史上最高の破魔師は今は……」
【史上最高の破魔師……? この若造め……生意気にも儂様を煽ておって……、そんなものより、さーてぃわんを寄こせ】
(……)
「だが、魔力の代償の代わりとなるものがあるのじゃ」
「……〝母親殺しの呪い〟…………ってこと?」
「……そうだと言われている」
【くそ……忌々しい……】
(……ドウマは母親殺しの呪いについて何かしらの悔恨があることを隠さなくなったな)
「あ、そうだ、じいじ、一つ聞いてもいい?」
「なんじゃ?」
「なんで聖乱テンシの時は、呪いで死ぬのが母親だけだったの? ドウマの時は違うはずだったと聞いたけど……」
「ん……? 普通そうじゃろ?」
「へ……?」
「テンシ様が一般的で、ドウマ様の方が特別なのじゃ」
(なんですと……?)
「魔力が強すぎて降霊の巫女が必要で、周りまで巻き込んでしまうのなど、ドウマ様くらいじゃよ」
【っっ……】
(ドウマ……言葉にはしていないが、歯がゆそうにしている……?)
「で、でも聖乱テンシは日本八柱の慰霊だって……」
「ん……? まさか、界……、ドウマ様を日本八柱の慰霊の一角だと思っておるのか?」
「え……? 違うの……?」
「なんと……」
じいじは手の平で頭を押さえるようなジェスチャーをする。
「ドウマ様は日本八柱の慰霊ではない」
「……! え? じゃあ、なんなのさ」
「ドウマ様には枠組みなど存在しない。鬼神ドウマ様は鬼神ドウマ様であり、他と比類するような方ではないのじゃ」
(……!)
【煽てるな。そんなものより、さーてぃわん】
(……えぇ……、このさーてぃわんおじさんが?)
「それでじゃ、話を戻すが、依代については赤子や人間が必須というわけではない。弱い霊魔であれば、例えば、札であったり、人形であったり、そういったもので構わない」
「あ、うん」
「そして、もう一つ、魔力の代償について。これは封魔術を使うときに魔力が必要なわけじゃが……注意しなければならないことがある」
「……うん」
「封魔術は魔力の器そのものを消費する」
(……!)
「じいじ、それって、つまり封魔術を解かない限りは、使える魔力量が常時、減ってしまうってこと?」
「その通りじゃ」
「……!」
いっけなーい、魔力が足りなくなっちゃう……!




