50.どっちの封印術?
そうして、界とじいじ、くまじいじの三人はさーてぃわんに行った後、適当な道場を借りて修行をすることになった。
(適当な道場を現地で借りられてしまう辺り……やっぱりこの人達、名家なんだなぁ……)
と界は思う。
ちなみに白神家は七大名家に属しているわけであるが、一之瀬家であるくまじいじは白神家に対して特別上に見ている様子はなかった。
界は
(七大名家ではないにしてもやっぱり名家なのかなぁ……)
などと適当に推察する。
「それじゃあ、界、まずは封魔術の基礎について……」
「いえいえ、界様、封絶術から学びましょうぞ」
(……? 封魔術? 封絶術? なんぞそれ? 確か、父ちゃんが二人はそれぞれ違う方向性のエキスパートって言ってたけど、こういうことか……)
界はじいじの言う封魔術、くまじいじの言う封絶術についてさっぱりわからなかった。
「えーと、じいじ、くまじいじ、それって何が違うの?」
「封魔術の方がかっこいい」「封絶術の方が素晴らしいのです」
毎回、意見の食い違う二人は睨み合う。
(うーん、これ一人ずつの方がよかったかな……)
などと苦笑いしていると、
【封魔術は霊魔を依代に閉じ込める封印術。封絶術は主に呪印を使って霊魔を一時的に弱体化させる封印術だ】
思いがけず、ドウマが解説してくれる。
(お……?)
(「ドウマ、ありがとう」)
【おう! 儂様は今、気分が良いからの】
と妙に素直である。
(封魔術は霊魔を依代に閉じ込める封印術……か……)
(「封魔術ってひょっとして、〝鎮霊の儀〟もその一種だったりする?」)
【その通りだ】
(……なるほど)
界がドウマに二種の封印術について聞いていると、
「それで界はどっちからやりたいんじゃ!?」「界様はどちらがよろしいでしょうか?」
ダブルじいじが鬼気迫る様子で聞いてくる。
(ちょっと言いづらいなぁ…………。でも……ごめん、くまじいじ)
「あ、えーと、じゃあ……封魔術で」
「界ぃいい!」「……っっ」
じいじの表情は晴れ、くまじいじはシュンとする。
実のところ、界は〝じいじっ子〟である。
なぜなら、じいじは育ての親だから。
前世で両親を亡くした界と妹の巡は東京の父方の祖父母に育てられた。
界が二十歳になった頃に二人が相次いで病死してしまうまで、本当に大切に育てられた。
そんな大恩があるから、じいじっ子であることは否めない。
勿論、くまじいじとも時々、会う機会はあったが、前世のくまじいじは寡黙なタイプであり、ちょっと苦手ではあった。(ちなみにじいじとくまじいじの関係は今世ほど悪くなかった)
ただ、それは今回、封魔術を選んだこととは関係がなかった。
「くまじいじ、ごめんね。封絶術についても是非、教えてほしいんだけど、でも僕って依代の子でしょ?」
「……!」
「だから、自分に使われてる封印術についてちゃんと理解しておきたいと思ったんだ」
界が申し訳なさそうに、くまじいじにそう告げると、
「…………うっうう゛……」
(え……?)
くまじいじはすすり泣きし始めた。
「ご、ごめんて、くまじいじ……」
界は罪悪感に苛まれる…………が、
「なんて立派な……」
(へ……?)
「幼子にして、依代の子である現実をしっかりと受け止め、理由について、こんなにもしっかりと言語化し、あまつさえ、このような老いぼれの心情まで慮ってくれる……。なんて素晴らしき人格なのでしょう……」
(うん、なんか大丈夫そうだ)
「じいじ、封魔術教えてください!」
界はじいじの方を向く。
と、
「わかった」
(……っ)
そう応えた時、じいじの雰囲気が明らかに変わった。
憎まれ口の一言でも残すかと思われたくまじいじも険しい顔になり、黙って離れていく。
「界、封魔術を学ぶのであればこれだけは覚えておけ」
「……はい」
界が真剣な顔でそう答えると、じいじはこくりと頷き、そして告げる。
「封魔術とは……代償の術である」




