46.俺だけを
おまけの本日2話目です。
【田介、儂様に全権限を委譲しろ。そしてお前の光属性を貸せ】
(「え……?」)
ドウマの唐突な言葉に界は一瞬、理解が追い付かなかった。
【おい、早く決断しろ!】
(……!)
ドウマの要求する全権限の委譲。
それはつまり〝乗っ取り状態〟となることを意味していた。
鎮霊期であっても大災厄をもたらすと言われる鬼神ドウマ。
これまでの六年間ずっと抵抗してきたドウマの乗っ取り。
(…………それを今ここで……)
一瞬、界の脳裏に最悪の事態が過る。
実はまだ父母の死の運命は終わっていなくて、この乗っ取りを許可したことで、全てが台無しになってしまうという未来だ。
だが、同時にドウマに言われた言葉が蘇る。
【……他人の人柄を信じるのは構わない。だが、他人の力を信じるな。いいな? 他人の力は信じるな。そして……儂様だけを信じろ】
(「…………なぁ、ドウマ…………、ドウマの人柄は信じてもいいのかな?」)
界はドウマの史実の詳細は知らない。
だが、大人たちのドウマに対する態度で大方の予想はつく。
きっととんでもなく傍若無人とされているのだろう。
実際に尊大で、口も悪いし、素直じゃない。
【……あぁ、そうだな……。それは止めておいた方がいいな】
そう答えたドウマの声は心なしかいつもより元気がなかった。
父が聖乱テンシの魂を、赤子へと戻していく。
そうして、赤子はテンシの魔力を纏う。
「…………お母さん」
暁は母である瑠美の手を握る。
「………………………………あ、あれ……? 降霊の儀、成功したのですか?」
いつまで経っても生気が失われない母に、暁はきょとんとする。
「「「え……?」」」
父、母、助産師は素っ頓狂な声を上げる。
そして、父は界の方に視線を向ける。
「ま、まさか……界が……」
奇跡の理由を、これまで数々の異例を生み出してきた我が子へ期待するのは当然と言えば、当然であろう。
だが、
「ううん、違うよ」
「え……!?」
界はこれを明確に否定する。
「ドウマ……。ドウマがやってくれた」
「ど、ドウマ様が……!?」
父、そして母、助産師は絶句する。
(「ドウマ…………ドウマ…………ありがとう……」)
界は改めて、ドウマに感謝を告げる。
【ふん……まさか、本当に儂様に全権限を委譲するとはな……。田介、お前はもう少し慎重な奴だと思っていたのだがな。儂様と違って!】
ドウマはそんな憎まれ口を叩く。
(「俺はドウマに言われた通りにしただけ」)
【は……?】
(「大人たちを信じないで、俺だけを信じた。それだけだよ」)
【……! そ、それは力の話であって、人柄はなぁ……!】
(「わかったわかった! それはそれとして……どうやって瑠美さんを助けたのさ?」)
【あん? 何を言っている? あの日、儂様の〝母親殺しの呪い〟を解呪したのはお前だろ?】
(「え……?」)
【儂様はその時、受けた解呪術を真似しただけだ。儂様に田介の光の魔力を上手く使えるかは正直、賭けであったが……】
(「な、なんと……」)
(俺自身がどうやったかわからんことを……ドウマは……。やっぱり天才なんだ……、この人……)
【まぁ、儂様にとっても〝母親殺しの呪い〟には因縁があり……】
「ドウマ様ぁああああ!!」
【うぎゃぁあああああ!!】
ドウマが何かを言いかけた時、暁が界に抱きついた。
「ドウマ様……ドウマ様……ありがとう……ありがとうございますなのです。ありがとうございますなのです」
暁はめちゃくちゃに界の胸の辺りに頭を擦りつけながら、感謝の言葉を繰り返す。
暁は父が殉職した時も、母が助からないとわかった時も決して涙を見せなかった。
そんな暁が顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流していた。
(「あーあ、ドウマ、女泣かしちゃいけないんだぞ?」)
【なっ!? お、お前なぁ……!】
(「冗談だって……!」)
【いや、違くてな……】
ドウマは少し呆れたような口調でそんな風に零しながら、更に続ける。
【そうだな……、翠嵐滅波くらいは教えてやらんこともない……】
「……! 暁さーん、ドウマがーー」
【ちょ、すぐ言うな! おい、やめろ、なんか恥ずかしいだろ!】
「……?」
暁は少しきょとんとする。
「あ、そうだ……。界くん、ドウマ様……、お返しという程でもないのですが……」
「ん……?」【ん……?】
「私、探知めっちゃ得意なのです」




