44.一択
「っ……!」
界と対峙していたシビョウが唇を噛みしめるような表情を見せる。
「どうしたんですか?」
界はそれとなくシビョウに聞いてみる。
「べ、別になんでもないが……?」
(なんだそのツンデレ口調……。いらな……)
「あれ? ひょっとして、テンシの霊力が消えたとか?」
「っ……、だ、だったら何だと言うのだ? 今の僕なら君なんて……」
「光炎術〝白蓮凛火〟」
「っ……! ぐぁっ……!」
白く輝く炎がシビョウを包み込む。
【全く……〝黒蓮冥火〟を光属性の響術にアレンジして使うとは……】
(「仕方ないだろ……? 流石に黒蓮冥火を10000発撃つには、ドウマの魔力の蛇口をもう少し開放しないと無理だろ?」)
【ま、まぁ……そうだな……】
(「だったら、自分の魔力を使ってどうにかするしかないでしょ……」)
【だからと言って、黒蓮冥火と同等の響術をいきなりやられては……儂様の立場というものが……】
(「ん……?」)
【い、いや、なんでも……】
「闇土術〝獄土葬〟!」
(っ……!)
突如、地面から大量の棺が隆起し、界に襲い掛かる。
棺の数は、界の姿が見えなくなるほどであった。
「はっはっはっ……、油断したな? さっき言っただろう? もう白蓮凛火は効かないって……!」
「〝白蓮凛火〟」
「っ……! な……?」
大量の棺をなぎ倒すように貫いた光の炎が再び、シビョウに襲い掛かる。
「ぐぁああああ!!」
「結構、効いてるじゃん……」
「はぁ……はぁ……くそっ……この僕をコケにしやがって……! いや、それ以上になぜだ……? なぜ獄土葬をまともに受けて、無事でいるのだ?」
(……そんなもんバラすわけないだろ)
そうして、界はシビョウへと一歩近づく。
「っ……! ち、近寄るな! 近づけばこの小娘を殺すぞ!」
シビョウは手の平を暁に向ける。
が、
「いいのです!」
「え……?」
(え……?)
暁のその言葉に奇しくも界とシビョウがシンクロしてしまう。
「いいのです、界くん、私は……私は破魔師なのです! 覚悟はできているのです!」
(…………すごいな……暁さん。その年齢でそんな覚悟、普通できないよ……)
だが、暁の肩が小刻みに揺れていることに、界は気が付く。
(……)
と、界は右の手の平をシビョウへと向ける。
「っ……! 君、僕に敵意を向けたね?」
シビョウは不敵に口角を上げ、そして、
「僕は確かにチャンスをあげたよ? だけどね、これは脅しではないんだよ……。闇土術〝影岩〟」
へたり込む暁の頭上に暗い闇が発生し、そこからどす黒い岩が出現する。
「あ……」
見上げた暁に向かって、岩は無慈悲に自由落下する。
そして、当然の如く、岩は空中で停止する。
「「え……?」」
今度は、暁とシビョウがシンクロする。
【田介……お前、意外と性格が悪いんじゃないか?】
(「えっ? なんでだよ!?」)
【だって、流石にちょっとおちょくりすぎというかなんというか……】
(「別におちょくってなんてないでしょ! ただ、まぁ、暁さんくらいの距離で時間的な猶予があれば、問題なく〝壁〟を張れる。300なんぼ回も白蓮凛火をしていた時間があれば、流石にな……」)
【329回な】
(「ありがとな……、さてと……」)
界はシビョウを見据える。
「な、なんだ……? い、言っておくがね……ここで僕を倒しても、僕の本体は別の場所に……」
(…………ドウマが言ってた〝分霊術〟的なやつか……)
「しかし、ドウマ……、力が弱まっているんじゃなかったのか……? だが、まぁ、いい……、ドウマは探知がからっきしダメだからね。どうせあと一年もすれば鎮霊期間も終わる……」
シビョウは必死に口角を上げて見せる。
が、
「ひっ……」
突然、シビョウの周囲に、夥しい数の火球が出現する。
「き、聞いていたのか? ここで僕を倒しても無駄だと……!」
「倒しても無駄なのはわかった。けど、倒さなくても結果、同じだよね?」
「え……? ……まぁ……」
「うん、だったら、倒す一択でしょ。一刻も早く、お前に消えてほしいから」
界は微笑む。
「っっっ……」
六歳児の爽やかスマイルに、シビョウの瞳は見開かれ、冷や汗が額を伝う。
喉がひくつき、息が詰まるような震えが全身を駆け巡っていた。
「炎術合術:無限蛍火」
そう界が呟くと、夥しい数の火球がシビョウへと向かっていく。
「あ、あ……あ、あ……」
少しずつ火球がシビョウへの着弾を始める。
「ほ、蛍火だと……? こ、このような初級妖術に、ぼ、僕が……あ……あ……ああ……」
そして、
「あ、あ……あ、あ……あが……あぁあ゛ああぁああ゛ああああ゛ああ!!」
シビョウは跡形もなく消滅した。




