43.白神彰彦【一部、父視点】
これは、どういうことだ?
私の身体は、どこからともなく現れた〝輝く壁〟で守られていた。
……。
これは……界の光の壁……?
しかも隠術により隠蔽されていた?
相手だけでなく、味方も欺くためか……?
これが限定的な効果で〝切札〟だとしたら、確かに、守られる対象は、この壁があることを知らない方が必死になる。
しかし、これ程の隠術をいつの間に……。
「……っ!」
思えば……、
『子供の足にはちょっと遠いよな』
『ウン……僕、疲レチャッタヨー』
『母さんニモオンブシテ欲シイヨー』
『母さん、おんぶー、おんぶー』
『ん? 界、どうしたの? 最近、おんぶをせがむことが増えたけど、ひょっとしてお母さんに甘えたいのかな?』
『うんー』
界はここ最近、我々に対して、妙にスキンシップを望んだ……。
東京では、巡に遠慮していた分を発散しているのかと考えていたが……、
まさかその時に……?
「くっ……、霊力が……」
……! テンシが表情を歪ませている?
…………この壁が影響しているのかは分からないが、明らかに奴に何かが起きている。
◇◇◇
「〝白蓮凛火〟」
「ぺぎっ」
「〝白蓮凛火〟」
「あがっ」
「〝白蓮凛火〟」
「きさっ」
「〝凛火〟」
「ま」
「〝凛火〟」
「こ……」
「〝凛火〟」
「なに……」
「〝凛火〟」
「を……」
(悪い父ちゃん……俺はもうそっちに戻れないかもしれない…………。いや、違う。戻る必要がない)
(「ドウマ、今ので何回?」)
【全く……この儂様を数取器に使いやがって…………327回だ】
(「ありがとう」)
【田介よ……、我が依代ながら……無茶苦茶な……。なんというゴリ押し……】
(そうだ……。奴が100回でも200回でも再生するなら、1000回でも10000回でも消滅させてやればいい……。そしてその魔力源が聖乱テンシなら、実質的に父ちゃんと一緒に戦っているのと同じだ)
「〝凛火〟」
「……小癪な!」
シビョウは暗黒の炎に包まれてもなお、存在を維持していた。
(……! 白蓮凛火で消滅していない?)
「……はぁ……はぁ……、もうその技は効かぬぞ……。テンシから通常の数十倍は霊力を吸収した」
シビョウはニヤリと微笑む。が……、
「最初から……」
「はい……?」
界はぼそりと呟く。
「粘らないで最初からそれやれよ……」
「へ……?」
◇◇◇
「ぐぬぅ……」
テンシが苦悶の表情を浮かべている。
「「っ……!」」
「彰彦さん……これって……」
「あぁ……」
真弓も気づくほどに、明らかにテンシのプレッシャーが激減した。
理由はわからない。
わからないが、きっと……界が……界が何かをしてくれた。
不思議なもので、なぜかそんな気がしてくる。
「ぐっ……」
「彰彦さん……!」
くそっ……、こんな時に、身体の痛みが……。
痛い……。死ぬほど痛いとはきっとこのことだろうと思える程に。
だが……、息子が……界が作ってくれたこのチャンスを逃すわけにはいかない……!
今一度でいい、動いてくれ……。私の身体……!
集中しろ。
今、この瞬間が〝歴史を塗り替えるであろう男〟の父たる私、白神彰彦の価値が問われる。
我が息子の覇道に失敗の文字を刻むわけにはいかない……!
空気が張り詰め、微細な静電気が肌を刺す。
雷が右の手の平へと収束し、白熱の閃光が脈動する感覚だ。
奔り出す。
強制的に動かした身体は、自らの限界を超えて、敵へと猛進する。
「貫け……! 雷術合術〝迅雷轟閃〟!」
「っ……! ぐっ……、なぜ僕がこのような並の破魔師に…………畜生…………畜生がぁあああ!」
私の全てを懸けた右ストレートがテンシの腹を捉えた。




