41.聖乱テンシ【一部、父視点】
「雷術〝雷轟〟!」
私が得意とする属性である雷。
五大属性の中でも、最も戦闘に長けた属性であると言われている。
その中でも高い威力とスピードを両立する妖術〝雷轟〟。
雷を対象にぶつける技だ。
果たして、この技が聖乱テンシにどれ程の効果があるものか……。
「ふむ……なかなか強力な雷術ですね」
「っ……」
やはり……と言うべきか、テンシに大きな被害はないようだ。
「なかなか強力な雷術です。ですがそれは並みの破魔師の中では……といったところでしょうか」
テンシは不敵に微笑む。
「…………真弓、子の容態はどうだ?」
「はっきり言って、状態はよくない……、それでも希望がないわけじゃない……!」
「わかった」
青海の子は真弓が必ず蘇生してくれる。
それまでは私が皆を必ず守……、
いや、違うだろ……!
何を甘えた考えをしているのだ、私は……!
私はいち早くテンシを倒し、界の元へ向かわなければならない。
そうだろ……!?
「雷術合術〝迅雷轟〟!」
雷の奔流が全身を駆け抜ける。
肉体を強化した上でテンシに接近を図る。
そして、近距離から雷を叩き付ける。
どうだ……!?
「…………程よい雷撃ですね」
っ……! 全く効いていない……?
テンシには傷一つ、ついていなかった。
「そして、貴方は僕に害をなす〝罪〟を負いました」
罪……?
どういうことだ……?
「よって、〝審判〟が下されます」
……!?
テンシが私に向けて剣をかざす。
「 聖天ノ審判」
……な、なんだこれは……!?
身体が……身体が鉛のように重い……。
「うーむ、弱すぎて罰も弱いようですね……」
聖天ノ審判……。
カウンター系の能力か……?
くっ……、しかし私がこれだけの弱体化を受けてもなお、奴にとっては効果が弱いというのか……?
「致し方ありません」
っ……!
テンシが剣を軽く振るうのが視界に入る。
「くっ……!」
軽く振るっただけであるのに、強力な斬撃が襲い来る。
私は雷術の肉体強化で辛うじてそれを回避する。
「ちょこまかと鬱陶しいですね……それ……それ……それ……」
「っ……ぐぅっ……!」
く、くそ……。
テンシの三連撃の最後の一撃が私の左肩を掠める。
「……スピードだけは賞賛に値しますね。それだけの被害で済んだのですから」
「っ……」
…………余裕ぶりやがって……!
「雷術合術〝迅雷轟〟!」
重い身体を無理矢理に動かして、私は再度、雷撃を放つ。
だが、
「……えーと、何かしましたか?」
やはりテンシは涼しい顔をしていて、ダメージが通っているようには見えない。
「うーん、先程より弱いですね……。もしかして罰を恐れているのですか?」
……ちげぇよ、すまし野郎が……!
◇◇◇
同じ頃――。
「やめるのです! やめるのです! おじさん!」
シビョウと呼ばれる男に、連れ去られた暁はバタバタと抵抗していた。
「おじさん……! いい人じゃなかったのですか!? どうして……、どうしてお父さんを……」
仄暗い炎に身を焼かれた父の姿が脳裏を過り、暁の目頭に涙が浮かぶ。
と、シビョウと呼ばれる男は足を止める。
「…………んー、ちゃんと来てくれたようで嬉しいよ……。……ドウマ」
シビョウは背中越しに追ってきた人物……界に向けて、そう言う。
が、
「闇炎術〝黒蓮冥火〟」
「へ……? べぷっ」
シビョウは暗黒の炎に包まれ、消滅する。
「か、界くん……!?」
「暁さん、大丈夫!?」
界は暁に駆け寄ろうとする。
【田介、油断するなよ】
「……あ、あぁ」
しかし、ドウマの忠告もあり、界は一度足を止める。
と、
「んー、ひどいじゃないか……ドウマ……、久しぶりの再会だと言うのに……」
消滅したはずのシビョウが再び発生する。
【何が久しぶりだ……、しらじらしい。これまで儂様が降霊しているときはコソコソと逃げ回っていた臆病者が……】
(……)
「ふーん、憎まれ口が帰ってこないということは、本当に力が弱まっているんだね……」
シビョウはにやりと口角を上げながら、そんなことを言う。
「ドウマ、なぜ君の力が弱まっ……」
「闇炎術〝黒蓮冥火〟」
「へ……? べぷぇっ」
シビョウは再び暗黒の炎に包まれ、消滅する。
(ドウマとこいつには何か因縁があるんだろうけど、すまん、ドウマ、今はそれどころじゃないんだ……!)
界の目的はあくまでも暁の救出、そしてその先にある両親の救出である。
しかし、
「んー、無駄なんだよなぁ……。今の僕はテンシくんから霊力を得ている。テンシくんが消滅しない限り、何度でも蘇ることができる」
再び蘇生したシビョウが嬉々として語る。
(こいつが聖乱テンシから霊力を得ている?)
【忌々しい分霊術め……】
(……分霊術?)
と、
「おじさん、いい人じゃなかったのですか! おじさんなら、悪霊降霊の儀で、お母さんも依代の子も死なせないことができるって……そう言ってたじゃないですか!? だから、お父さんも……! それなのに、どうして……? どうしてお父さんを……!」
暁が必死の形相でシビョウに問い詰める。
(っ……、このシビョウとかいう奴、すでに暁に接触していたのか……?)




