36.合術【一部、暁視点】
しばらくはなるべく朝7時に投稿しようと思います。
時々、ゲリラ的に複数話投稿するかもです。
※このエピソードはゲリラ投稿です
「暁さん! 暁さんの考えた最強の水術を教えてください……!」
私、暁の考えた最強の水術……?
ふふ……。
ドウマ様の依代の子って聞いてたのだけど、ちょっぴり残念です。
この子は、どう考えてもただの子供です。
まぁ、子供には優しくしてあげるのが、お姉さんとしての役割なのです。
「なるほどです。私の考えた最強の水術ですね?」
「はい」
きらきらした目をして、可愛いらしいのです。
うーむ、でも私の最強の水術をいきなり教えて、謎の自信に溢れた幼気な子の自尊心を粉々に粉砕するのも可哀そうです。
「ふふっ、わかりましたです。見ていてください」
「はい……!」
「水術:水刃」
「おぉ……!」
まずは水の刃の術なのです。
ふふ、びっくりしているようですね。
簡単そうに見えて、水を刃のように薄くするのは結構、難しいのです。
でも、これだけではないのです。
水刃に……水弾を合わせて……、
「水術合術:水刃連弾!」
水の刃を弾にして、連続で飛ばす……!
「おぉお! ……すごい! ご、ごうじゅつ!?」
まぁ、こんなものですかね……。
初めて見る合術に驚いているようですね……。
それもそうでしょう、妖術を同時に使い、それを組み合わせる合術。
極めて繊細な魔力のコントロールが要求されるのです。
……しまったです! 結局、謎の自信に溢れた幼気な子の自尊心を粉々に粉砕してしまいかねない高度な技を披露してしまったのです。
「暁先生……! ごうじゅつとはどういう字を書くのですか?」
せ、先生……? ふふっ、可愛いですね。
「合わせるという字に術で合術と呼びます」
「おぉー、つまり二つの妖術を合わせるということですね?」
「そうです。同じ属性の妖術を二つ組み合わせることで、より強力な術を使えるのです」
「へぇー、すごいですね。響術の他にこんな術もあるんですねー」
響術……!? わ、私がちょっとばかり苦手としている技術です。
なぜそれをこの子が……。
ま、まぁ……七大名家の家庭ですので、概念くらいは知っていてもおかしくはないのです。
「じゃあ、ちょっと試しにやってみますね。合術」
「えっ……? あ、いきなりやってみるのですね?」
「え……? はい……」
こ、これだから謎の自信に溢れた幼気な子は……。
まぁ、そこを優しく教えてあげるのがお姉さんの務め。
「であれば、まずは二つの妖術を同時に出すことから始めてみるといいのです」
「わかりました!」
妙にいい返事ですね。
「それじゃあ、やってみますね。炎術:蛍火」
あら、炎術のもっとも初歩的な妖術、蛍火ですね。
私も最初の頃はそんな感じでした。なんだか懐かしくて微笑ましいです………………、
「って、えぇ……!?」
「っ……! あ、暁先生、どうしましたか?」
「い、いや……何でもないのです」
な、なんでこの子、蛍火をこんなにたくさん出してるの!?
20……30……? いやそれ以上……。
「暁さん、どうですかね? 全く同じ炎術ではあるのですが……」
「…………、ま、まぁまぁ、やるのですね」
「ありがとうございます!」
っ……。
……私、水環を30も同時に出せるですか?
それに……これって本当に蛍火なのですか?
私の知っている蛍火とは違うのです。
……一つ一つの蛍火が……とても力強いのです。
…………、いや、私は異なる妖術を同時に出せるのです。
負けてなんていないのです。
「それじゃあ、今度は炎術:蛍火と炎術:火柱を同時に出してみようと思います」
「えっ……、あ……ちょ……」
ちょっと……ちょっと待……、
「あれ? 失敗です……」
「っ……!」
失敗した?
「…………おい、やめろ、なんか恥ずかしいだろ……」
「……?」
独り言を言っている?
「あ、ごめんなさい、何でもないです。それより、二つ同時に別の妖術を出すのって意外と難しいんですね」
「あ……、えーと…………そ、そうなのですよ! でも界くん、最初にしてはとてもよくできている方なのですよ」
「ありがとうございます……! それじゃあ、続けて練習の方を……」
「あ、ちょ、ちょっと待つのですよ」
「え……?」
「まずは同じ妖術を同時に出す方に磨きをかけるのですよ」
「え……? あ、はい……。でもどうしてですか?」
「っ……! き、基礎はとても大事なのです」
「……! わかりました!」
たった一日で異なる妖術同時出しまでされてしまったら、私の自尊心が粉々なのですよ。
◇◇◇
「それじゃあ、今度は、火柱の同時出しやってみたいと思います!」
(暁さん、すごい有意義なことを教えてくれる。確かに基礎は大事だよな。鏡美先生も栗田先生も同じことを言っていた。すごく有り難い……)
界はそんなことを思いながら火柱を50本、同時に出そうとする。
と、
「ウボォオオオン」
「「「「っ……!?」」」」
突然、奇妙な呻き声が聞こえた。
界、暁、そして二人の父は、その方向に目をやる。
そこには熊のような姿をした奇妙な生物がいた。
「あ、あれは……熊燐です。下級の霊魔なのです」
(く、熊燐……!? 九州って熊、絶滅したんじゃなかったのか!?)
熊じゃなくて熊燐なので……。




