33.旅の目的
2016年4月10日(父母の命日まであと4日)。
界は九州に来ていた。
家と家の間隔が100メートルくらいありそうな田舎道を進みながら、界は思う。
(いや、まさかチャーター機で来ることになるとはな……)
父と母と界は、破魔師協会の準備したプライベートジェットで九州に来た。
それは界が鬼神ドウマの依代の子だから。
万が一のことを考える必要があった。
空中で閉鎖された空間で多くの人が搭乗する飛行機に、界を乗せるわけにはいかなかったのだ。
(あの駄々こねが、まさかこんな大袈裟なことになるとは……)
界は少し申し訳ない気持ちになる。
だが、少しだ。
父母と離れるわけにはいかない確固たる理由があった。
「界、もうすぐ着くぞー」
背中越しに父の声が聞こえる。
実は現在、界は父におんぶされているのだ。
「よく我慢したな。こんな遠くまで」
最寄りのバス停からすでに3キロくらいは歩いていた。
「子供の足にはちょっと遠いよな」
「ウン……僕、疲レチャッタヨー」
界は極力子供らしくそんなことを言う。
「母さんニモオンブシテ欲シイヨー」
「えっ? でも母さんはなぁ……」
父は母に配慮しているようであった。
「いいわよ。界がこんなこと言うの珍しいし、私も界をおんぶしたい」
「そうか、そうだよな」
「ワーイ」
そうして、界は父の背中から母の背中によじよじと移動する。
【何をやってるんだか……】
(「仕方ないだろ……! 大事なことだ」)
【はいはい……。って、ん? やはり女の背中の方が、こう……なんていうか……柔らかいな……。うむ……こちらの方が心地が良い……】
(「…………おっさんめ……」)
【はぁっ!? い、言っておくがな、儂様は……】
ドウマが何かを抗議しようとした時、
「ほら、界、着いたぞ」
父が目的地への到着を告げる。
(お……!)
そこは田舎のど真ん中にある大きな屋敷であった。
七代名家の一つ、青海家である。
家に到着し、呼び鈴を押す。
しばらくすると、出迎えが来てくれた。
「おぉお、彰彦! 真弓さん! それに、君は界くんだね。わざわざこんな田舎までありがとう……ございます!」
「「「こんにちは」」」
父母と同世代らしき優しそうな男性一人と、女性三人が出迎えてくれる。
女性の中にはお腹が大きくなった妊婦も一人いた。
青海家当主とその妻達である。
「彰彦、遠かっただろ? 言ってくれれば、車を出したのに……」
「いやいや、こういう道を散歩したかったんだよ」
父と青海はそんな会話をしていた。
界はふと妊婦さんのお腹に視線が行く。
(この方が……)
これから依代の子を生む母であった。
少し時を遡る。
今回の青海家訪問の目的を界は貸し切り飛行機の中で話していた。
「母さん、寝ちゃったね……」
「そうだな……。久しぶりに子供の世話から解放されたからな。父ちゃんが仕事の間、母さんは巡の面倒を付きっきりで見てくれてるだろ?」
「あ、うん」
「子供の世話をするってのは、大人同士とはまた違った方向の大変さが…………って、子供の界にこんなこと言ったらダメか……!」
「あ、うーん、どうだろ……」
(どちらかと言うと、ダメだな……)
「どうにも界は大人びていてな……うっかりだ……!」
(まぁ、精神は大人だし、間違ってはいない……)
「ところで、父ちゃん、青海家に行く目的ってなんなの?」
「…………あぁ、えーとな……」
父は少し濁そうとする。
「父ちゃん、僕は破魔師になるんだよ。ちゃんと教えて……」
界は父をしっかりと見つめて、真剣に言う。
「…………そういうところが大人っぽいんだよなぁ……」
父は困ったように頭を搔く。
実際のところ、クラス4の赤池の撃破、クラス5以上の狒々の撃破(どちらも公にはされていないが父は知っている)。
この事実から、界はすでに一握りの破魔師と同等以上の力があるのは明白であった。
「わかったよ……」
父は諦めたように語りだす。
「青海さんの正妻……」
(……)
「瑠美さんに霊紋が現れた」
「……!」
「つまり、依代の子を孕んだということだ……」
「……そ、そう……、ちなみに……どの慰霊かってわかるの?」
(ドウマの時も分かっていたから、きっと何かしら事前にわかる方法があるはずだ)
「あぁ、霊紋の形からわかる」
「なるほど……、それで誰なの?」
「…………日本八柱の慰霊の一柱、〝聖乱テンシ〟だ」
(……! 雪女アサネと同じ……日本八柱の慰霊の一角!?)
(「聖乱テンシ……。ドウマ、知ってる……?」)
【ん? あぁ、まぁ……、好きか嫌いかで言えば、嫌い】
(……知ってはいるのね)
次話、慰霊についてと、あの子が登場。




