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【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜  作者: 広路なゆる


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26.霊魔

「「……っっ……」」


 界と雨の二人は絶句する。


 静寂の間の中央付近で、血まみれの兵藤が倒れていた。


(え……? う、嘘だろ……)


「お、おい……! 大丈夫か!?」


 界はそう叫びながら兵藤に駆け寄る。


 しかし、胸の辺りを貫かれた兵藤の目からはすでに生気が失われていた。


(っ……)


「……うぷっ……」


 それを見た界は吐き気を催す。


 界は、生と死が隣り合わせの今世においても、これまで一度も人間の(しかばね)を見たことはなかった。


 だから、冷静でいられるはずがなかった。


 だが、


「界くん……、大人に報告に行かなきゃ……!」


 幸いにも頼りになるお姉さんがいた。

 雨は界よりは遥かに冷静であった。

 雨は界よりも遥かに修羅場をくぐり抜けていたのだ。


「あ、あい」


 おかげで界も少し冷静さを取り戻す。


 そして、二人は急ぎ、大人を探しに静寂の間から出る。


 と、静寂の間を出てすぐの通路に、教官の後ろ姿があった。


(あ、あの人は……)


 その教官はいつもメインの教官二人の後ろに佇んでいた名前不明の教官であった。


(……人となりがわからず、少し不安だが、大人には違いない……)


「教官……!」


 界は教官を呼ぶ。


「教官……! 事件です! 静寂の間で……!」


 と、教官は振り返り、そして、界達に尋ねる。




「死ンデタ?」




「「っっ……!?」」


 界と雨の二人は驚く。


 振り返った教官は血まみれになっていた。



 そして、何より、()()()()()()()()



 赤黒く膨らんだ顔には無数の体毛が生えていた。

 鋭い牙が覗き、黄色い瞳がぎょろりと光っている。

 それはまるで猿のような顔であった。


(れ、霊魔(れいま)……!?)


 実のところ、界はこれまで死体を見たこともなかったし、実物の霊魔を見たこともなかった。

 それでも教官(そいつ)が霊魔であると一瞬で察することができる程に、猿は不気味さをはらんでいた。


 振り返ると同時に、猿の教官服が裂け、巨体へと姿を変貌させていく。

 太く逞しい四肢に覆われた灰褐色の毛は、まるで岩肌のように荒々しい。



「こいつ……狒々(ひひ)だ……」



 界の隣で雨がそう零す。


「……狒々(ひひ)?」


「人に化けて、人を襲う大猿の霊魔だって聞いたことがある……」


(やっぱり霊魔か……)


「私が寂護院でずっと感じていた視線の正体はこいつだったんだ……」


(こいつ……教官でもなんでもなくて、霊魔だったってことかよ……! ……だとすると、相当やばいんじゃないか……? クラス3の教官二人にこれまで一切気づかれることなく潜伏していた? 恐らく単純に人間に姿を変えて、化けるだけじゃない。そこにいることを不思議に思わせないように、認知そのものを歪ませて、化けていたんだ……。そして、クラス3の破魔師である兵藤を殺害した……)


(「ドウマ……、ドウマは狒々(こいつ)に気付いてなかったの?」)


【ん……? 気づいてるわけなかろう……】


 ドウマはさも当然のようにそう言う。


(「わ、わかった」)


 真意は不明であったが、今はそれをゆっくりと聞いている余裕はなかった。


 と、


「アサネぇ……オデト交尾……オデト交尾……」


(っ……!)


 狒々が雨に向かってそう(ささや)く。


「っ……! 私はアサネじゃない……!」


 雨は唇を噛みしめながら、吐き捨てるように言う。


「アサネぇ……アサネぇ……」


 雨の言葉を聞き入れる様子なく、狒々は二人の方向にゆっくりと接近してくる。


(雪女アサネはその美貌から他の霊魔を呼び寄せる。雨さんが言ってたことだ。雨さんからアサネが抜けてからも、執拗に追ってくる霊魔がいるってことかよ……)


「くっ……、界くん、逃げるよ……!」


「あ、あい……!」


 界と雨は今来た道を引き返し、一旦、静寂の間へ戻る。


 狒々も二人を追って、静寂の間に入ってくる。


 そして、


「アサネ……アサネぇ……交尾ぃ……」


(っ……!)


 相も変わらず己の欲求を吐き出しながら、その巨体の両腕を広げ、雨に抱きつこうとする。


 と、





「……氷術〝氷環〟!」





「グベェ……!」


 雨が円状の氷を発生させ、狒々にぶつけることで、牽制(けんせい)する。


 そして、凛と言い放つ。




「私は雪女アサネじゃない……! 私の名前は雨……、銀山家が長女……、銀山雨……!」




 が、


「ンダぁ? ソノ氷……、ヤッパリ、アサネダデぇ…………アサネぇ……オデノ子、作ロ……ナ?」


 狒々には全く通じていなかった。



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