第71話 ドロドロがくるよ
どうせ遭遇するのはスケルトン種かゾンビ種ばかりだろうと踏んでいた俺たちは、東へと進み続けていたが今度はゴースト種の群ればかりと遭遇するようになった。
しかし、ルルルの『デロデロフェスティバル』の前に、ゴースト種の群れはあえ無く散っていく。
問題は姿を消しているゴーストたちだが、マークⅠとワンちゃんが常に俺の傍らにいるので、マークⅠたちが報告する数と目に見えている数を比較するだけで済む話になる。
なので、目に見えているゴースト種たちはルルルやキャニルたちが倒し、姿を消しているゴーストたちはマークⅠとワンちゃんが狙い撃つから問題はない。
この戦法によってゴースト種は雑魚に成り下がり、こんな戦い方をする現地人はいないのか、【目利き】は動揺を隠しきれないようだ。
しかし、彼女は誇らしげでもあった。
自分が品定めした冒険者たちが自分の予想通りに強かったからだ。
マークⅢによると、【目利き】は冒険者ギルドからの依頼によって、冒険者パーティへの同行を求められるが、冒険者パーティが力不足なら命の保証もないリスキーな仕事でもある。
なので、【目利き】が冒険者パーティに同行する場合、同行するかの是非を自分で判断する仕組みになっているらしい。
だから、マークⅢが彼女に俺たちの戦果を饒舌に語ったんだろう。なんせ前回の首の換金では1000を超える首を換金したからな。
で、この作戦において俺が気をつけていることは、ルルルのSPとHPの管理だ。
『デロデロフェスティバル』は大量のSPを消費するが、特殊能力はSPだけでなく、HPも削られていくからだ。
まぁ、ルルルは『ヘロヘロリターン』も持っているのでSPを回復できるが、俺はできるだけ戦闘終了時にルルルのSPとHPを全快させている。
俺たちがゴースト種の群れを倒しながら東へと進んでいくと、やっとマークⅠが別の魔物を報せてくる。
〈ドロドロがくるよ〉
ドロドロだと? 何だその魔物は?
俺は見当もつかなかったが、マークⅢにラードたちに報せろと指示を出し、マークⅢは前衛に向かって走っていく。
俺たちがゆっくり歩いて行くと開けた場所に出る。ラードたちはかなり先のほうで魔物と戦いを繰り広げている状況だ。
相手がどんな魔物なのか分からない以上、俺たち後衛が不用意に近づくのは危険すぎる。
俺が足を止めて動かないからか、キャニルが訝しげな顔で俺に尋ねた。
「ラードたちは何と戦ってるの?」
「ドロドロってマークⅠが言っているが、俺にもどんな魔物かさっぱり分からない」
「……」
キャニルは俺の意図を感じとっているのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
かなりの時間がかかって戦いは終わったが、ラードたちに動く気配はなく、マークⅢが振り返って手招きしている。
何かおかしい……何かあったのか?
不審に思いながらも俺はラードたちに向かって歩を進めると、ラードたちは全身が黒い粘液塗れになって地面にへたり込んでいて、女性陣はパニック状態に陥っていた。
「め、目が……目がずっと見えないよ……」
「これって何かの状態異常なの!? 目についてる粘液をとっても何も見えないっ!!」
「何なのよこの粘液は!? 絡みついて全然取れない!! どうなってるのよ!?」
「皆落ち着いて!! 魔物は殲滅できてるしロストたちも来たから大丈夫よ!!」
金切り声を上げて取り乱す女たちをネヤが必死に宥めている。
何なんだこの悲惨な状況は?
ミコですら顔が粘液で真っ黒で、上半身が無事なのはネヤとマロンだけであり、全く粘液を浴びていないマークⅡとマークⅢが俺に向かって歩いてくる。
「何でお前らだけ体がきれいなんだ?」
「私たちは遠距離攻撃に終始していたからですわ」
「なるほどな。で、いったいどんな魔物だったんだ?」
「相手はブラックゾルという粘液系の魔物で、ミコですら躱せないほどの速さで粘液を飛ばしてきますの。その粘液は『鈍重液』という特殊能力で素早さが下がりますの。そして、ブラックゾルを倒すと自爆して周辺に粘液を高速で撒き散らし、この自爆の際の粘液には『暗闇』の特殊能力があるようですわ。それに、ブラックゾルはアンデッドではありませんの」
ここではアンデッドしか見かけないのに、アンデッドではないとはどういう存在なんだ?
そこに、粘液塗れで目が見えないラードがキャニルに手を引かれてやってくる。
「それで、ブラックゾルは強いのか?」
「奴らは体の一部を腕のように変化させて殴ってくるんだが、まともにくらったらやべぇ打撃だった。それにどんだけ体力あるんだよってぐらいなかなか倒せないんだ。正直、マークⅡとマークⅢの魔法の援護がなかったらやばかったぜ」
それで皆が立っていられないほど疲れ果てているのか。
「ブラックゾルの攻撃力は400超え、守備力と素早さは200ほどですわ。なかなか倒せないのはHPが2000を超えていますし、『物理耐性』を持っているからですの」
「マジか!?」
ラードは絶句している。
なんにせよ、このままでは進めないな。
「俺が見張りにつくからここで野営する。ワンちゃんも休め」
俺は魔物を探るために先へと進むとマークⅡ、マークⅢが俺に追従し、マークⅠたちは俺の肩にのったままだ。
「マークⅠ、魔物はいるか?」
〈いないよ〉
「そうか。見張りの間は定期的に魔物の気配を探ってくれ」
〈わかった〉
この開けた場所だけ不自然に草木が生えていない。おそらく、先に進めば瘴気の魔法陣がある可能性が高い。探しに行きたいところだが野営地からあまり離れられないからな。
俺が野営地へと引き返すと、テントの前でラードが粘液を取ろうと悪戦苦闘しているが、未だ体中が粘液だらけで、女性陣は姿が見えないのでテントの中に入っているようだ。
「そんなに取れないのか?」
「強力な接着剤が全身にへばりついてる感じだ。手で何度もこすっていると皮膚が剥がれるしな」
マジかよ……そんなレベルなら髪とかどうやって取るんだよ。
すると、胸に葉っぱを大量に抱えたキャニルが歩いてくる。
「葉っぱにこすりつけるといいらしいわよ」
キャニルが甲斐甲斐しくラードの顔の粘液を葉っぱにこすりつけている。
こういう場合、体を清められる聖水なんかが効果がありそうだが、ブラックゾルはアンデッドじゃないから効果があるのかも分からない。他に代わりになりそうな物はというと……
俺は腰の鞄から取り出したポーションを、試しにラードの頭にぶっかけてみると粘液がヌルッと地面に落ちた。
「うぉっ!? 何をしたんだ!?」
ラードは驚き戸惑っているようだが、俺は何も説明せずにマークⅢに指示を出す。
「マークⅢ、樽の水にポーション一本を混ぜてラードにかけてみろ」
「分かりましたの」
マークⅢが俺の指示通りにポーションを混ぜた樽の水を、ボウルですくってラードにかけると、ラードの体からドロドロと粘液が流れ落ちた。
「キャニル、ラードは俺たちに任せて女たちに粘液の落とし方を教えてやれ。たぶん、レシアのキュアの魔法で『鈍重液』や『暗闇』は回復できると思うが、全ての粘液を落としてからでないと再発すると思う」
「分かったわ」
こうして、粘液騒動は一段落ついたのだった。
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