第42話 天の声と時のズレ
ルガーたちと別れた俺たちは、エルザフィールの街に向かって歩いていた。
「なぁ、ほんとにあれで良かったのか? あいつらと組んだら俺たちが最強の隊になってたはずだ」
「さぁな」
「なんでだ? 俺にはお前が言ってたちんけな理由で、あいつらと組むことを蹴ったとは思えない」
高く評価してくれるのはありがたいが、あの言葉の半分は本音でもある。仮に俺が大当たりを引いて半年もの時があれば、俺はすでに日本に戻っているはずだからな。だから、何をちんたらやってるんだという苛立ちを払拭できないでいるのも事実だ。
だが、違和感もある。
それはこの世界に転移している日本人たちに、時差が生じていることだ。
俺の記憶では天の声が聴こえてから、すぐに転移したように感じているのに対して、ルガーたちは半年もの時を過ごしているということになる。
要するに、天の声は時すらも操ることができるかもしれない存在だということだ。
この推測が当たっているのならば、日本人の第一陣が日本に帰還した際に、月日を操れることになる。そうだとすると、極限まで鍛えてから日本人全員で帰還することが最善だということになるが、何の確証もなく確かめる方法すらないのが現状だ。
なので、これ以上考えても詮無きことなので俺は頭を切り替える。
俺は周辺を見回して魔物の姿がないことを確認してから足を止めると、ラードたちが怪訝そうに進軍を止めて俺の周りに集まった。
「なぁ、ラード。ソフィたちが日本に帰還したらどうなると思う?」
「そりゃ、ソフィたちが魔物を倒して日本を救ってくれると思うぜ」
まぁ、普通はそう考えるよなぁ。俺だってそうあってほしいと思うからな。
「じゃあ、キャニルはどう思う?」
「えっ? 私? ……私も日本を救ってくれると思う……けど……ソフィたちが通用しない未来も想定すべきだとも思うわ」
やっぱり、俺たちの中でキャニルが一番頭がいいんだろうな。俺はマークⅢやいろんなところで情報を得ているからそう思えるだけだからな。
「俺もキャニルの考えに賛成なんだ」
その言葉に、皆の視線が俺に集中する。
「魔物には上位種以上の存在がいるらしい。そうなると【聖騎士】や【暗黒剣士】では太刀打ちできないことになる」
「だが、さっき会った【風使い】のヒュリルなら、その上位種以上の存在を倒せるんじゃないのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「煮え切らないな……何が言いたいんだ?」
「攻撃特化と言われる【暗黒剣士】は、『剛力』を加味するとその攻撃力は1600ぐらいだそうだ」
「1600!? マジかよ……転職の神殿で視た俺の攻撃力は『強力』を加味しても300だったのに……」
さすがにこの高い数値には皆が騒然となる。
「だが、守備力、素早さの値は400程度らしい。それに対して【風使い】ヒュリルのステータスの値は平均で1600らしい。はっきり言って化け物としか言いようがない」
「守備力や素早さも1600なのか……だが、それほどの強さなら、上位種以上の存在に勝てるんじゃないのか? むしろ勝てなかったら日本は滅ぶ」
「……無論、この話には続きがある。俺は言いたくなかったから、お前らに開示していない情報がある」
「言えよ」
「俺は魔物の村の統治者に会ったんだが、その統治者の側近らしい蜂の魔物のステータスの値が1万を超えていたんだ」
「――なっ!?」
皆の顔が驚愕に染まる。
「当然、この世界にいる魔王はもっと強いだろう。しかし、さすがに魔王は日本に来ていないと思うが、魔物を率いる指揮官として蜂の魔物クラスの魔物が、日本に来ている可能性は否定できない。それらを踏まえた上でお前らはどうしたらいいと思うのか俺は聞きたいんだ」
「……そういうことか。もうすでに詰んでるからお前はソフィたちと組むことを蹴ったのか……」
「確かに1万と1600では勝負にならないわ。ですが、そんなことは誰でも分かる話なのに、なぜロストさんがそんな話をしたのかが気になりますね」
キャニルはいかにも解せないといったような表情で俺を見ている。
「俺は詰んでいるとは思っていない。なぜならば、この世界にはまだ人族がいるからだ」
「強い魔物がいるこの世界で人族が生き残っているということは、抗う手段が存在するということね」
「その通りだ」
「……なるほどな。それでソフィたちと組むことを蹴ったのか。抗う手段を探るために」
「そういうことだ。だが、この話はあくまで推測に過ぎないがな」
「だとしても、保険は必要だろう。なんか俺たちの方が主役ぽくなってきたなぁ」
「でもほんとにそうなると燃える展開よねぇ」
意気投合したラードとキャニルは満足げな笑顔を見せる。
「まぁ、魔導具を探す旅になるだろうな」
「魔導具? やっぱりあるのか……」
「ああ、この世界での攻防手段は四つある。物理、魔法、特殊能力、魔導具だ。その中で金で買えるのが魔導具だけだからな。だが、まずは俺たちが限界まで強くなることが先決だ」
そう締めくくった俺は踵を返す。俺たちは魔物を倒しながらエルザフィールの街に向かうのだった。
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