第34話 モフモフの聖女
翌日の朝、俺たちは武器屋に足を運んだ。
ミスリル製品が欲しいところだが通常品質のミスリルソードで3000万円、ミスリルアーマーが8000万円という狂った価格で、ミスリルに関しては頼みのガダン商会も標準価格でしか販売していなかった。
これにより、俺たちが購入できるのは鋼製の武具になる。
通常品質の鋼の剣が50万円で販売されているが、ガダン商会の鋼の剣は高品質で10万円だ。だからデザインさえ気にしなければ、ガダン商会の武具一択になる。
なので、俺やラード、ネヤ、ミコ、ラゼは鉄から鋼に買い替えただけだが、キャニルとレシアは後衛だったので、防具は初期装備のままだった。
最上級職への転職資金とミスリル製の武具の購入資金を貯めなければいけないが、すぐに貯まるような金額ではないので、とりあえず俺はキャニルとレシアの装備を整えることにした。
キャニルは木の杖とアリゲーター革のローブ、アリゲーター革の靴、アリゲーター革の帽子を購入した。
レシアは【聖女】に就いたことでステータスの値が大幅に上昇し、鉄系の武具も扱えるようになった。彼女は悩んだ結果、鋼の槍、ウルフ毛皮のローブ、ウルフ毛皮のブーツ、ウルフ毛皮の帽子というモフモフに姿を変えた。
その姿からは最早、何の職業か推測すらできない状態だが、女獣人たちには大人気だ。
俺は女獣人たちにも魔物解体用の鋼の短剣と、鋼の防具を購入しようとしたが彼女らは嫌がった。
マークⅢによると、彼女らの手や足には肉球があり、着ぐるみを着たような姿をしているので、最も獣に近い獣人らしく、特に鉄製の防具を嫌がっているらしい。
それを考慮して、魔物の解体時に返り血で体が汚れないように、アリゲーター革の前掛けを勧めると、革は問題ないようで彼女らは受け入れた。
ちなみに、一般的な獣寄りの獣人たちの手や足は人族に近く、鉄製の防具も嫌うことはないとのことだ。
そして、杖についてだが、魔法の威力が向上する杖は魔導具になり、ミスリル並みに高額なのでキャニルが購入した木の杖は、物理的に魔物を叩くぐらいしか使いどころがない。
店を後にした俺たちは宿に戻る。
俺は「俺が戻るまで待機だ」と仲間たちに伝えて西の小屋へと向かう。
だが、四カ所ある小屋には誰もいなかった。
どうやら、あいつらも旅立ったようだな。うまくやれていればいいが。
俺は【戦士の村】に戻ろうとしたが、まだ時間も早いので魔物の村に行ってみることにした。
道中に遭遇する魔物は小屋の周辺とさほど変わることはなく、俺は難なく魔物の村に到着する。
「マジかよ……」
村の外壁を目の当たりにした俺は、思わず声を漏らした。外壁の高さが戦士の村やエルザフィールの街を大きく上回っていたからだ。
こんなのを作れる技術があるなら、ここを統治している魔物は人に匹敵する知性を有していると断定できるだろう。
俺が外壁の門を見上げていると、外壁の上から六面体の箱のような物体が10ほど下りてきた。
おいおい、箱が浮いているぞ? どうなってんだ?
箱の一辺の長さは三メートルほどもあり、上の面に大砲のようなものが二門設置されていて、俺は箱に囲まれる。
そこに、さらに外壁の上から箱が下りてきて、俺の前で停止した。
その箱の一辺の長さは10メートルを超えている。上の面には大砲のようなものが四門と、小さい箱にはないレンズのようなものが正面についている。
何なんだこいつらは? これも魔物なのか? だが、村の中から出てきた以上、俺からは攻撃できない。
俺は『フルフル』を発動して、大砲からの一斉砲撃に備える。
だが、正面のレンズが青く光り、箱は次々と外壁の上へと戻っていく。警戒を解いた俺が『フルフル』を解除すると地響きが轟いた。
門が開いただと? 箱は門番のような存在だったのか? だとすると、ここはファンタジーな世界な上に科学までもが存在するということになる……そんなことがあり得るのか? いや、科学で作られたような魔導具という線もあるか……
「あの六面体は浮遊砲台という魔導具ですわ」
「……やっぱりか」
そりゃそうだよな。いくらなんでも科学なんて飛躍し過ぎた発想だったぜ。
俺は警戒しながら門を潜ると、さらに防壁があって門は開かれたままになっている。
やべぇな……二重目の防壁の方がさらに高い。
俺は外壁と防壁を見比べて茫然としていたが、気を取り直して防壁側の門をくぐったのだった。
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