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反転攻勢 ~ふざけた職業【カスタードプリン】。だが、それでも俺は必ず日本を取り戻す~  作者: 銀騎士


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第106話 ミニ蠍

 

 俺たちは薄暗い鬱蒼とした森の中を、奥へ奥へと進んでいた。


 おかしな植物はあまり見かけなくなったが、その代わりに気持ちの悪い茸の数は増えている。


 マークⅠは嬉しそうに茸を採取しては、マークⅢの元へ運んでいるが、その半数ほどが毒成分がないことにより、破棄されていた。


 「ちょっと休憩だ」


 問題は二つある。


 オオムラサキとの戦闘後も、俺たちは魔物と戦い続けてここまで来たが、魔物がレイたちよりも確実に強いことから、その戦闘のほとんどをマークⅢたちが相手をしていた。


 要するに、この森での戦いは、マークⅢたちだけに負荷が掛かりすぎている。


 そして、この森ではレイたちのレベルを上げることは困難だということだ。


 後者は、何となくそんな気はしていたが、俺もこの森では戦ったことがなく、すぐには判断できなかったんだよな。


 「分かりましたの」


 俺たちはちょっとした広場に腰を下ろす。


 すぐにマークⅢが裂けた空間から、水が入った樽や干し肉などの食材を地面に下すと、レイたちがそれらを囲んで楽しそうに談笑している。


 ここは死地のはずだが、俺やマークⅢが強すぎるからか、彼らにはまるで緊張感がなかった。


 そんな中、マークⅠだけが茸採取に夢中で、茸をマークⅢの元に運び続けている。


 〈このキノコはなんかキレイだよ〉


 それは二メートルを超える巨大な茸で、ここでは珍しくもない大きさだが、斑模様が大半を占める中、青一色の綺麗な茸だった。


 「毒がないので、いらないですの」


 〈もう!! ドクがないなら、たべたらいいじゃない!!〉


 「……確かに一理ありますわ。調理したら食用として食べることは可能ですの」


 〈やったぁ!! いっぱい、あつめてくるよ!!〉


 マークⅠは俺の前に青い茸を置いて、森の中へと消えていった。


 ていうか、この茸は何だ? 俺に食えって言っているのか?


 俺は苦笑する以外になかった。


 だが、あることを思いつく。


 俺は近くに生えている手ごろな木を探したが、見当たらない。仕方ないので、四メートルを超える木を片手で引き抜いた。


 青い茸の前に戻った俺は、木を二つにへし折って、その先端を無造作にこすりつけると、一瞬でボッ!! と両方の木に火がついた。


 松明のように燃えている二本の木を、俺は青い茸に近づけて焼き始める。


 俺がふと仲間たちに目を向けると、皆は呆気に取られたような顔で俺を見ていた。


 「マークⅢ、本当に毒はないんだよな?」


 「ありませんわ」


 だったら死ぬことはないから、食ってみるか。


 燃え盛る二本の木を地面に突き刺した俺は、火であぶった茸の一部を引きちぎって口に運ぶ。


 「……味は水、だが、ひんやりとした感じで透明感があるな。噛んでいくと、ほんのりとした甘さもある」


 「キュキュ!! キュキュ!! キュキュッ!!」


 俺の肩から飛び降りたダークが、俺を見上げながら茸を食べたそうに鳴いている。


 「俺も食べてもいいですか? 俺は茸に目がないんですよ」


 盗賊組の一人が、遠慮しがちに聞いてくる。


 俺が無言で頷くと、ダークが嬉しそうに茸に食いつき、男は茸の焼かれていない部分を慎重に千切って口に入れる。


 「な、なんですかこれ!? 清涼感が半端ない……こんな茸は食べたことがない!! 皆も食ってみろよ!!」


 信じられないといったような形相の男が、仲間たちに茸を勧めたが、茸はすでになかった。


 ダークが平らげたからだ。


 まぁ、またマークⅠが採ってくるだろう。


 俺が何気に振り返ると、そこには、膨大な数の茸が山のように積み上げられていた。


 ……あいつは茸を根こそぎ持って帰るつもりなのか?


 俺は思わず乾いた笑いが漏れた。

 

 「マークⅢ、俺は日が暮れるまで進んでから野営して、引き上げようと考えているが、お前はどう思う?」


 「ここではレイたちのレベルを上げることは難しいので、私もそれがいいと思いますの」


 「なら、決まりだな」


 休憩を終えた俺たちは、再び森の奥へと進み始める。


 それから俺たちは10戦ほど戦ったが、その内の2種が初めて遭遇した魔物だった。


 その一種がフリー種で、のみの魔物だった。


 マイト種よりは二回りほど大きかったが、所詮、蚤なので、レイたちに戦いを任せることにした。


 フリー種の群れは20匹ほどだったので、マークⅢたちが数を減らし、残った下位種と通常種の2匹ずつとレイたちが戦うことになる。


 俺はすぐに終わると高を括っていたが、その見通しは甘かった。


 なんとか下位種は倒せたが、通常種が予想以上に素早く、13人で戦う戦士組は翻弄され続けた挙句、マークⅡが助けに入る事態となった。


 もう一種は、サンドゥー種で、こけの魔物だ。


 さすがに苔だし、花のピオニー種には勝っているので、レイたちに任せた。


 だが、サンドゥー種は自分たちの周辺に、速度が減少する液体を撒いていて、それを知らずに接近したレイたちは、著しく動きが遅くなり、触手と毒針によって窮地に陥った。


 これにより、またもや、見かねたマークⅡが割って入る形で、戦闘は幕を閉じた。


 10戦中、レイたちはこの二戦しか戦っておらず、その結果を受けて、レイたちは重苦しい空気に包まれている。


 俺はあえて、今日のところは何も言わないつもりだ。


 彼ら自身に考えさせることで、俺には思いつかない戦術が生まれてくるかもしれないからだ。


 それに、そもそも俺の軍の鉄則は、強い魔物から逃げることだから、何も提案されなくても問題はない。


 しかし、沈んだ様子のレイたちに、マークⅢが言葉を投げかける。


 「何をくよくよしてますの? ロスト軍の戦い方はクーガたちも実践しているように、強い魔物と戦わないことですわ。だから、気にする必要はありませんの。そうですよねマスター?」


 マークⅢの言葉に、レイたちの視線が俺に釘付けになる。


 「……お、おう。その通りだ」


 そう答えた俺は、なぜか釈然としなかった。


 それから、俺たちは野営できそうな場所を探しながら、森を進んでいた。


 もう日は暮れかけていて、マークⅠは相変わらず索敵を忘れているようで、まだ茸採取に夢中だ。


 「ヘビみたいなのがいっぱいいるわん。あと、おおきいネコみたいなのもいるわん」


 大きい猫みたいなのはいいとして、蛇みたいなのとは何なんだ? スネーク種なら蛇だと報告するだろうし。


 ワンちゃんが指さす方向へと俺たちが歩いていく。


 「敵を捉えましたわ」


 どこだ? どこにいる?


 俺は前方の森に目を凝らしたが、何も見えなかった。


 「ディスタントビジョンの魔法とアナリシスの魔法を併用しているのか?」


 「ちょっと前にレベルが上がって、『水晶視』に目覚めましたので、使ってみましたの」


 はぁ? マジかよ? 俺は『生命付与者解析』でマークⅢを視てみると、確かに『水晶視』が増えていた。


 水晶を媒介として、離れた場所を視ることができるだと? 『水晶視』ってマークⅢが水晶玉だから目覚めたのかよ?


 俺は驚きを隠せなかった。

 

 「敵はナーガ種とラミア種の群れですの。その群れと二匹のハイ・ジャガーが戦っていますわ」


 ラミア種ってゲームとかに出てくる上半身が女で、下半身が蛇の魔物……いや、人型だから亜人だよな。ナーガ種ってのが分からないが、ハイ・ジャガーはワンちゃんが猫みたいって言っていたから、あの猛獣のジャガーだよな?


 まぁ、今回はマークⅢが落ち着いているから、それほど強い相手ではなさそうだ。


 「とりあえず、近づいて様子を見るぞ」


 俺たちは慎重に森の暗がりを抜けていくと、広大な平原が見えてくる。


 〈レイたちはここで待機させたほうがいいですの。相手は白亜人なので、必ず戦いになるとは思いませんが、仮に戦いになったとすると、間違いなくレイたちは戦死しますの〉


 即座に足を止めた俺が振り返って、レイたちに指示を出す。


 「あんたらはここに留まってくれ。相手がかなり強いみたいだからな」


 「分かった」


 レイが神妙な顔で頷いた。


 再び歩き始めた俺たちは、茂みに身を潜めて平原の様子を探る。


 そこには、100を超える魔物の姿があった。


 「上半身が男のほうがナーガ種で、戦士タイプですの。女のほうがラミア種で、魔法タイプですわ」


 ナーガ種は鎧を着込み、柄の長い斧のような武器を持ち、肩に弓をかけ、矢筒を背負っている。


 だが、そんなことより、でかい奴は三メートルを超えているのが驚きだ。しかも、蛇みたいに体を伸ばしたら、その全長は六メートル以上は確実だ。


 ラミア種は杖を持ち、肩に弓をかけて矢筒を背負っているのは同じだが、上半身が丸裸なので目のやり場に困る。


 そして、ハイ・ジャガーはどちらも六メートルを超える巨体で、片方は黄毛に黒の斑点があるタイプだが、もう片方は全身が真っ黒だ。


 「どうやら、ラミア種たちは引き上げるみたいで良かったですの」


 「まぁ、戦わないで済むなら、それに越したことはない」


 「それもそうですが、群れの最奥にいるハイ・ラミア・エンチャントレスが危険ですの。おそらく、突然変異個体ですわ」


 マジか? どいつだよ? 


 俺は群れの奥を注視するが、ラミア種は大きくても二メートルもないので、見分けがつかず、群れは次々に森の中へと消えていく。


 「そいつは、そんなに強いのか?」


 「持っている魔法が多彩な上に、威力が何倍にも跳ね上がるミラクル系の魔法を持っていますの。私が戦うとよくて相打ちといったところですわ」


 そんな魔法が存在するのか……まだまだ俺たちが知らない魔法や特殊能力がありそうだな。


 俺たちが成り行きを静観していると、ラミア種たちは次第にいなくなり、平原には残った三人のナーガ種と、ハイ・ジャガーたちが対峙して睨み合っている。


 「あのナーガ種たちは上位種なのか?」


 「そうですの」


 やがて、黒いハイ・ジャガーが、一人のハイ・ナーガに飛びかかったことにより、戦端が開かれた。


 しかし、三人いるハイ・ナーガの一人が、後方に控えて戦いを見守っていて、残る二人がそれぞれ一対一の戦いを繰り広げている。


 「……へぇ、サシでやり合うのかよ」


 俺の口角が思わず上がる。


 〈なんか、ちっちゃいサソリみたいなのがいたから、つかまえた!!〉


 はぁ? 蠍みたいって何なんだよ?


 すぐにマークⅠが巨大な茸を抱えて戻ってきて、茸をマークⅢの前に置き、捕まえた生物を俺に差し出した。


 な、なんだこれ? ラ、ラミアの蠍版か?


 それが俺の率直な印象だった。


 大きさは15センチほどしかなく、上半身が女で下半身が蠍。しかも、人の部分は幼い妖精みたいで、目がくりくりしていて可愛らしい。


 〈かっていい?〉


 こいつは何で、すぐに飼おうとするんだ……しかし、待てよ……


 考えを巡らせた俺は結論に辿り着く。


 「ダメだ」


 〈えぇ~~~っ!? ちっちゃいし、いいじゃん!!〉


 「理由はそいつが亜人で、人だからだ。それに成長したら、俺たちぐらいの大きさになる可能性が高い」


 〈じゃあ、にがすの?〉


 「その蠍は、レッサー・ネクロ・スコルピアで、攻撃力、守備力、素早さが100ほどありますの」


 はぁ? こんな小さいのに、戦闘職の下級職ぐらいの強さがあるのか……だが、それでも、この森では雑魚でしかないが。


 俺はミニ蠍を掌にのせてマジマジと見てみたが、ミニ蠍は暴れることなく、つぶらな瞳で俺をじーっと見つめ返してきた。

 

 最初から思っていたが、こいつ、本当におとなしいな。これなら手がかかることはなさそうだ。


 「とりあえず、連れていくことにする」


 「親を探すつもりですの?」


 「まぁ、できる範囲で探してみるつもりだが、明日には帰還する。要するに、親が見つからなかったら、仲間として連れていくことになるな」


 〈やったね!!〉


 俺がミニ蠍をマークⅠに抱かせると、マークⅠは嬉しそうにミニ蠍を抱えながら、ダークの背に飛び乗った。


 で、戦いはどうなったんだ?


 俺が視線を戦場に転ずると、ハイ・ナーガたちが地面に突っ伏していた。


 ハイ・ジャガーたちのほうが動きが速かったから、妥当な結果だろう。


 「もう一人いたハイ・ナーガはどこに行ったんだ?」


 「撤退しましたわ」


 そりゃそうか。しかし、ハイ・ナーガにミニ蠍の情報を聞けなくなったのが残念だ。


 「そこに潜む者どもよ……早々に姿を現せ!!」


 その言葉が発された瞬間、周囲の空気が唸りを上げて震えた。木々がざわめき、足元の土が微かに鳴動する。


 えっ? 気づかれたのか? マジかよ?


 「おそらく、私たちの存在は、最初からバレていたと考えるべきですわ」


 「俺一人で出る。戦闘になったらお前らも加勢してくれ」


 肩にのるダークたちを掴んだ俺は、マークⅡの肩に乗せる。


 「分かりましたの。黒毛のほうが圧倒的に強いので気をつけてほしいですの」


 「ああ」


 茂みから出た俺は、ハイ・ジャガーたちに向かって歩き出したのだった。

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