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反転攻勢 ~ふざけた職業【カスタードプリン】。だが、それでも俺は必ず日本を取り戻す~  作者: 銀騎士


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第104話 バタフライ種

前に書いたように、次の話の更新で不定期更新になります。

 

 マイト種との戦闘から、さらに二度の戦いを越え、俺たちは静かに森の奥深くへと歩を進めていた。


 二戦目の相手はセンチピード種で、クーガたちでも避けさせている厄介な魔物だ。なので、俺が指示することなく、勝手にマークⅢたちが仕留めた。


 三戦目はラット種だったので、レイたちにも魔物を割り振り、彼らはやっとまともに魔物を仕留めることができた。


 それにしてもこの森は、他の森と違っておかしな見た目の植物などが多い。花ひとつとってみても、一メートルほどの大きさもざらで、色も熱帯地域に生息していそうな派手な色をしている。


 「マークⅢ、あの茸は食えるのか?」


 俺はあえてやばそうな、巨木の周りに生えている、どす黒い紫とエメラルドグリーンの斑模様の茸を指差した。


 「この茸は猛毒ですの」


 そりゃ、そうだろうな。だが、食えたら面白かったが……俺はそこで、はっとなる。


 この毒は使えるんじゃないのか? 


 戦士組の攻撃手段は物理一辺倒で、このままでは行き詰まるのは明白だ。それに、今まで思いつきもしなかったが、俺のポイズンの魔法も使えるかもしれない。


 俺の毒の作用は弱体化で、重ねれば重ねるほど効果が上がる。そして、この茸は猛毒だから即効性がありそうだ。


 要するに、遅延型と速攻型の二種類の毒を戦士組は持つことができる。


 「マークⅢ、その茸から毒を抽出できないか?」


 その言葉に、マークⅢが無造作に茸を掴んで握りしめると、エメラルドグリーンの汁が滴る。


 「この汁の時点で即効性の麻痺毒なので、毒の成分を抽出できていますの」


 麻痺毒か、それは都合がいいな。


 「マークⅢ、今後、その茸のように、やばそうな効能の茸は全部回収してくれ」


 今、話して思ったが、もしかすると、毒だけじゃなく、幻覚とか混乱する茸もありそうだからな。


 「……なるほど。この毒を戦士組のあらたな攻撃手段にするのですね。でしたら、マスターのポイズンの魔法、それにルルルの『デロデロ』の溶解液も使えそうですわ」


 か、完璧だ。瞬時に俺のやろうとしていることを理解し、その上をいきやがる。さすがマークⅢだぜ。


 俺たちは木々の間を縫うように進みながら、マークⅢとマークⅡが毒茸を採取していく。


 〈ねぇ、ふたりはなんで、へんなのをあつめてるの?〉


 こいつ、全く話を聞いていなかったのかよ。


 「価値があるからに決まってるだろ」


 〈カチってなに?〉


 「すごいアイテムってことだ」


 〈……ボクもあつめる!!〉


 くくっ、こいつはアイテムが大好きだから、むしろ反応が遅いくらいだ。


 だが、ダークに騎乗したマークⅠが、俺の肩から飛び立とうとしたのを俺が掴んで止める。


 「キュキュ!?」


 〈えっ? なんでとめるの!?〉


 「行くならお前だけで行け。ダークが毒茸に触れたら死ぬ可能性があるからな」


 マークⅢいわく、ダークは俺のポイズンの魔法で死んだアヴェンジャーたちを食ったことで、『毒耐性』に目覚めているらしいが、触り続けているといつかは貫通するからな。


 〈……なんで?〉


 こいつ、戦闘以外はマジでポンコツだよな。いや、最初の素材が石だったことが原因かもしれん。だが、素材に原因があるとすると、マークⅡは俺が作った不出来な台車だった。となると、俺のレベルが1だったこと、あるいは両方かもしれないか……


 まぁ、根気よく教えるしかない。最悪、マークⅢもいるからな。


 「前にホーネットに襲われたことがあったろ? あのときにダークに針が刺さっていたのを覚えているか?」


 〈うん〉


 「その針には毒の効果もあったんだ。要するに、今集めている茸から、その“毒”が取れるってことだ」


 〈……ドク。じゃあ、そのドクをつかってテキをたおすんだね〉


 ……やっぱり、こいつは戦いが絡むと急に賢くなる。


 「その通りだ」


 〈じゃあ、とってくるよ!!〉


 マークⅠは茂みの中に飛び込んでいった。


 俺たちは再び進み始めるが、マークⅠは頻繁に茸を抱えて戻ってきている。だが、適当に茸を採取しているようでマークⅢにダメ出しをくらっている。


 「まえにチョウチョがいっぱいいるわん」


 あいつ、索敵するのを忘れてやがるな。どんだけアイテム好きなんだよ。だが、まぁ、ワンちゃんがいてくれて助かったぜ。


 ワンちゃんの報せに即座に反応したマークⅢが、俺の元に駆けつける。


 「おそらく、バタフライ種ですの」


 「マリンウィッチが欲しがっていた素材の魔物だよな」


 俺が気軽にそう返すと、マークⅢは真剣な硬い表情になる。


 「バタフライ種は危険ですの。『幻惑』、そして、最も厄介なのが『魅了』を持っていることですの」


 『魅了』だと? マジかよ……だから、マリンウィッチは俺たちに依頼したのか。


 「だったら、俺とお前たちだけで戦うしかないな」


 「マスターはダメですの。マスターが『魅了』で暴走したら誰も止めることができませんの。ですので、私とマークⅡで対処しますわ」


 ……全くその通りだぜ。返す言葉もない。


 「分かった。二人に任せるぜ」


 俺たちが慎重に前方を注視しながら森を進んでいくと、マークⅢが「やっぱり、バタフライ種ですの」と断定したことにより、俺たちは足を止める。


 「では、私とマークⅡで倒してきますわ」


 〈チョウチョとたたかうの?〉


 「マークⅠ、お前は危ないから茸を採取していろ」


 〈えぇ~~~っ!! ボクはキノコをあつめながら、たたかいたいんだよ!!〉


 欲張りな奴だ……しかし、こいつもマークⅢのように、自我が強くなってきている兆候かもしれない。だとすると、それを否定するとこいつの成長の妨げになるかもしれないな。


 「マークⅠ、バタフライ種は攻撃魔法を使いますし、『幻惑』や『魅了』も使ってきますの。回避するには目を見たらいけませんの。できますか?」


 なるほどな。要するに魔眼系の特殊能力だということか。


 〈そんなのとおくから、こうげきしたらいいんだよ〉


 「でしたら、行きますの」


 〈うん〉


 マークⅠはダークの背に乗って空へと上昇し、マークⅡが森の奥へと消える。


 マークⅢはさりげなく、五本のキュアポーションを俺に手渡し、俺の視界から一瞬で消えた。


 あいつ、納得したんだと思っていたが、全くマークⅠを信用していなかったのか。


 俺は思わず破顔した。


 少しの間をおいて、マークⅢたちが戻ってきた。


 「えらく早いな。少数だったのか?」


 「通常種も合わせると30匹ほどでしたわ」


 「結構、多いな。どうやって倒したんだ?」


 「黒亜人から回収した武器を投げて倒しましたの」


 〈私は遠距離からアイアンランスの魔法で仕留めました〉


 だろうな。俺も一緒に行っていたら、そう指示するからな。問題はこいつだ。


 「マークⅠ、お前はどうやって倒したんだ?」


 〈テキをみつけるときみたいなかんじで、こうげきした〉

 

 意味が分からん。どういうことなんだ?


 「おそらく、『気配探知』を使って攻撃したんだと思いますの」


 はぁ? こいつの索敵距離は『千里眼』より上なんだぞ? そんなことが可能なのか?


 俺は思わず『生命付与者解析』でマークⅠのステータスを視た。


 『弾道圧縮』だと? 何だこれは!? 魔物の村でこいつを視たときは、こんな特殊能力を持っていなかったはずだ。


 「マスター、どうかしましたの?」


 「い、いや、マークⅠがいつの間にか『弾道圧縮』や『集中』を持っているから、訳が分からなくなってな」


 「視てみますの」


 『集中』はともかく、『弾道圧縮』がとんでもないな。撃った瞬間、相手との距離が一メートルまで縮むみたいだからな。


 「『集中』で『気配探知』を高めて敵を捉え、『弾道圧縮』で攻撃していたのだと思いますの。おそらく、本人は無意識にやっているんだと思いますわ」


 理屈の上ではそうなるのかもしれないが、何キロも離れた場所から狙撃できる最強のスナイパーじゃねぇか。


 まさか、こいつがここまで強くなるとは思いもしなかったぜ。


 「よくやったぞ、マークⅠ」


 〈えっ? なにが?〉


 くくっ、だろうな。こいつはそういうやつだ。そう言うと思ってたぜ。


 それから俺たちは、立て続けに二戦したが、どちらもバタフライ種だった。


 三戦連続ということは、この森の生態系の頂点はバタフライ種かもしれないな。だとすると、不気味な植物が多いのも奴らの餌ってところか。


 しかし、バタフライ種ばかりだと、レイたちを鍛えることは難しくなるな。


 〈まえにハナ、ヒダリにまたチョウチョがいるよ〉


 花だよな? 鼻じゃないよな? まぁいい。これでレイたちを戦わせることができるぜ。


 「俺たちは前方の魔物と戦うから、マークⅢ、お前たちは左のバタフライ種の群れを倒してくれ」


 「分かりましたの」


 マークⅢたちは瞬く間に俺の視界から消えた。


 「よし、俺たちも行くぞ。盗賊組は敵が視えたら教えてくれ」


 盗賊組が頷き、俺たちは進み始める。


 ほどなくして、先頭を歩いていた盗賊組の一人が振り返る。


 「いました!! なんかふわっとした芍薬のような魔物が動いています。一メートルほどのが七匹。二メートルほどの大きさのが四匹です」


 ふぅ、鼻系の魔物じゃなくて良かったぜ。あいつの報告だとそれもあり得そうだからな。


 「俺とワンちゃんで数を減らすから、倒せる数になったらあんたらも戦闘に参加してくれ。いくぞワンちゃん」


 「わかったわん」


 敵の強さが分からない以上、先手必勝あるのみだ。


 俺たちは森の中を突き進んでいくと開けた場所に出る。


 そこには花のような魔物が佇んでいたが、俺は構わず魔法を詠唱する。


 「エクスプロージョン」


 俺の突き出した左手から光り輝く球体が放たれ、魔物の群れの中央で炸裂する。


 一発で半数ほどが木っ端微塵に吹っ飛んだ。


 「わふぅ!!」


 ワンちゃんが魔物の群れに突進し、でかい個体と小さい個体を殴って倒す。


 よし、これで残り四匹だ。


 すぐに戦士組がでかい個体に目掛けて走るが、でかい個体は光り輝く球体を放ち、戦士組は慌てて大盾で防ぐ。


 さらに数知れない巨大な花弁が空に放たれる。


 花弁は空中をヒラヒラと舞っていて、戦士組は花弁を剣で振り払おうとしたが、ヒラリ、ヒラリと躱される。


 結果、無数の花弁に次々と身体を切り裂かれた戦士組から血飛沫が迸る。


 「怯むなっ!! 一気に囲んで倒せ!!」


 そう鋭く声を発したレイが、大盾を前面に構えながらでかい個体に向かって突っ込んでいく。


 それに呼応した戦士組の隊員たちが大盾に身を隠しながら、無数の刃と化した花弁の中に突撃し、魔物たちを囲んで斬り刻む。


 俺が盗賊組に視線を転ずると、盗賊組も魔物たちに止めを刺したところだった。


 レイがいなければやばかったが、初見の敵ならこんなものだろう。


 傷ついた隊員たちは、ポーションで傷を回復していて、背後からの声に俺は振り返る。


 「相手はピオニー種だったのですね。おかしな植物が多いのは彼らのせいですわ」


 「……お、おう」


 後出しじゃんけん感が半端ない。まさかピオニー種がいるとはな……完全に読みを外したぜ。


 それから、ラット種、ウルフ種、アント種という倒しやすい魔物が続き、レイたちの経験値を稼ぐことができたが、その戦いの左右のどちらか、あるいは両方にバタフライ種がいて、それらはマークⅢたちが倒していた。


 とにかく、この森はバタフライ種が多すぎる。


 だが素材を多く持って行ったとしても、マリンウィッチが困ることはないだろう。なので、バタフライ種を見つけたら片っ端から倒すようにマークⅢには指示している。


 〈まえからおおきいチョウチョがくるよ〉


 「ハイ・バタフライですわ。先ほどの戦いでも数匹いましたの」


 上位種まで出てきているのか。それが俺たちを狙ってきているってことは、狩りすぎたかもしれないな。


 「上位種は何匹いるんだ?」


 「10匹ですの。私たちで狩ってきますわ」


 マークⅢたちは前方の森の奥へと身を投じて迎撃に出た。


 だが突然、前方の森の奥から羽音が響いた。次の瞬間、正体不明の飛行生物が木々の間を縫うように進みながら、猛烈な速度でこちらに向かって急降下してくる。


 上空には三メートルを超える蝶の魔物の姿があった。


 こいつがバタフライ種の上位種か……羽の柄がなんとも気色悪い。ていうか、こいつ、ウェアウルフ並みに速いぞ。あいつら、こんなのとやりあっているのか。


 ハイ・バタフライは高度を落とし、眼が怪しく輝く。


 ――しまった!? やべぇ!?


 「眼を見るなっ!! 全員全力で逃げろっ!!」


 即座に、隊員たちは背を向けて散会したが、三人の隊員とワンちゃんがその場に残っている。


 ワンちゃんは頭を抱えてその場にしゃがみ込んでいて、三人の隊員は目は虚ろ、口は半開きで明らかにおかしい。


 ちぃ、『幻惑』か『魅了』か。どちらにせよ厄介だ。


 だが、隊員たちは剣を振りかぶって、俺に目掛けて突進してくる。


 ナイスだ!! それなら対処は簡単だぜ。隊員同士で同士討ちされたら対処が難しかったからな。


 俺は一瞬で隊員たちとの距離を詰め、加減した拳の一撃を隊員たちの腹に叩き込む。


 隊員たちが力なく地面に突っ伏すと、ハイ・バタフライが奇声を上げて、風の刃を撃ってくる。


 「何もかもが遅い」


 一足跳びに跳躍した俺は風の刃を空中で躱しながら、長剣でハイ・バタフライをバラバラに斬り裂いた。


 「ワンちゃん、もういいぞ」


 ていうか、ワンちゃんは何で逃げないで、しゃがみ込んでいるんだ?


 「わ、わふぅ? ビックリしたわん」


 俺を見上げたワンちゃんは、安堵したように立ち上がり、逃げていた隊員たちも戻ってくる。


 「レイ、三人を起こしてポーションを飲ましてくれ」


 「分かった」


 レイたちが昏倒している隊員たちに何度もビンタを叩き込んでいると、隊員たちは目を覚ます。ポーションを何本も飲んで隊員たちが立ち上がったところで、マークⅢたちが帰還した。


 「マスター、申し訳ありません。一匹が私たちの迎撃をすり抜けて、そちらに向かってしまいましたの」


 戻ってきたマークⅢが深刻そうに開口一番に言った。


 「気にするな。死人は出ていない」


 「次からは不安要素があればマスターに報告しますの」


 「ああ、それでいい。しばらく休憩だ」


 隊員たちはポーションなどの消耗品をマークⅢから受け取り、俺たちが出発しようとしたとき、俺たちの遥か上空を巨大すぎる魔物が通り過ぎたのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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