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反転攻勢 ~ふざけた職業【カスタードプリン】。だが、それでも俺は必ず日本を取り戻す~  作者: 銀騎士


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第101話 無銘の刀⑨


 翌日の昼過ぎ、拠点の前に隊員たちが集結していた。


 「今日は俺たち抜きで戦い、そして日が暮れるまでに帰還しろ」


 これが本当の意味での彼らの初陣だ。だが、初戦なので戦闘時間を短くするために昼からにした。


 「了解しました。盗賊組が先頭で進軍してください」


 指揮官役が指示を出し、部隊は静かに出撃したのだった。


 指揮官候補の三人は優秀だと思うが、気がかりな点がある。それは能力的なことではなく、彼らが指揮官役だから戦闘に参加する機会がないってことだ。


 つまり、転職できる確率が下がる可能性がある。


 無論、転職は資質がすべてなので、戦闘による経験は関係ないのかもしれないが、俺の隊の仲間たちは戦闘後のレベルアップによって転職できているように表面的には“見える”。


 だが、何もせずに時が経過するだけで、転職できる線は消えてはいない。


 これを検証する時間的余裕は俺たちにはなかったが、逆にこの状況は検証を行える機会でもある。


 もしかすると、レベルを上げることで転職できると妄信させておいて、実はレベルを上げると転職が困難になる人のほうが多いということもありえるかもしれない。


 望んで指揮官候補になったとはいえ、彼らには悪いが戦わないでいてもらうしかない。


 部隊を見送った俺は、マークⅢとワンちゃんを伴って【無銘の刀】に赴く。


 マークⅠとダーク、マークⅡがいないのは、部隊を陰ながら見守れと指示を出しているからだ。


 なので、【盗賊】たちの『千里眼』によってマークⅡが発見されることを危惧した俺は、マークⅡにミスリルアーマーから鋼の全身鎧に着替えさせ、マークⅠとダークにもマークⅡの鎧の中に入っていろと指示している。


 【無銘の刀】の拠点に到着した俺たちは、古びた宿の中に入って食堂のドアを開く。


 昼食の時間はとうに過ぎているにもかかわらず、食堂は活気ある喧騒に包まれていた。


 この盛況ぶりは、シズナたちがかなり頑張っているようだな。


 俺は微かに口角を上げる。


 エゼロスたちはどこだ?


 俺が部屋の中を見渡そうとしたとき、目の前のテーブル席に座っていた男たちと目が合い、俺は一瞬固まった。


 「ロ、ロストさん……な、なぜここに?」


 そこにいたのは元セカンドパーティーメンバーのソックとミドーで、ソックが気まずそうに言った。


 「……俺は行き詰まった連中を受け入れているんだ。そんなことより、デインはどうしたんだ?」


 「深手を負って、その傷は私が癒しましたが、心の傷までは癒せなかったようです」


 コップを両手で握ったミドーは目を伏せ、それ以上、何も話さない。


 「今は二階の部屋で休んでいるんですよ……」


 そんなミドーに見かねたのか、ソックが代わりに答えたが、ソックは複雑げな表情を浮かべて溜息を漏らす。


 デインがそんな状況なのなら、ろくに稼げていないだろう。


 ……だが、なるほどな……シズナたちを頼る算段か。だとしてもこんなにも人がいたら、いつ狩りに同行できるか分からない。


 俺は腰に下げている小物入れから金貨を十枚ほど掴んでソックの前に置いた。


 「い、いや、もらえませんよ!!」


 ソックが立ち上がりかけて両手を振る。


 「まぁ、聞けよ。ここには俺に500万借りてでも上級職に転職したい奴らが5人いた。その内、3人が転職に成功したんだ。要するにだ、利用できるもんは何でも利用したらいいんじゃないのか? 俺たちは日本を奪還するためにここに来たんだからな」


 座り直したソックが項垂れながら呟く。


 「お、俺たちは自分たちからロストさんのパーティーに入れてくれって頼んだのに、勝手に抜けたんですよ……」


 「そのことだが、俺はお前らがデインを追いかけてくれて良かったと思っている。そうしなければラードがデインを心配して追いかけて、引き留めても去ったとしても何かしらの確執が残ったと思うからな。それにデインがとった行動を責めるつもりもないんだ。いずれにせよ、デインの不調が回復したとしても金はいるだろ」


 「……す、すみません」


 ソックはかすれる声で言葉を絞り出した。


 「ありがとうございます……ロストさんには、いつも甘えてばかりです」


 ミドーの頬がほころび、自然と微笑みが浮かぶ。


 「気にするな」


 「ロスト!! 来てたのか」 


 車椅子に座るエゼロスがこちらに手を振った。ハゴンがエゼロスの車椅子を押して俺の前にやってくる。


 「何だ話し中か? 俺も交ぜろよ」


 エゼロスが立っていた俺に手で席を勧めて、俺はエゼロスの隣の席に腰掛ける。


 「彼らは俺の昔の仲間だったんだが、もう話は済んだんだ。あんたのほうこそ、どうしたんだ?」


 「あんたの軍、すごいらしいな。無茶苦茶強いって南の砦で戦ってる奴らが絶賛してたぜ。それに近くに冒険者たちがいるとあえて下位種が一、二匹程度なら放置して先に進んでるらしいじゃないか」


 目を細めたエゼロスが感嘆を口にする。


 今の俺たちの戦力なら通常種6匹、下位種6匹の最大12匹の魔物を一瞬で屠り去ることが可能だ。なので、下位種の1、2匹なんかは時間の無駄という側面もあるが、南の砦は駆け出しが集まる狩場なので彼らの成長に繋がるのならいいことだ。


 「まぁ、こっちは人数が多いからな。だから数を生かした戦術にしたことでそうなっただけの話だ」


 「あんたらしい言い草だな。で、あんたの軍が活躍してるから、三人組のパーティもうちにやってくるようになった。あんたの軍のことを教えてくれってな。つまり、ここが賑わってるのはあんたの軍のせいでもあるってことだ」


 「そいつらに何て答えてるんだ?」


 「ロストという人物が指揮を執る軍だと伝えてある」


 「それならいい。今の段階で三人パーティとかがうちに入りたいって言われても、指揮官がいないから無理だからな」


 「あ、あの……話に割って入ってすみませんが、軍というのは何なんですか? パーティのことじゃないんですよね?」


 ソックが不可解そうに尋ねる。


 「さっき話しただろ? 俺は行き詰まった連中を受け入れているって」


 「何だ言ってなかったのかよ。ロストは一人になってどうしようもなくなった連中を受け入れて、ロスト軍を結成したんだ。だが、こんなに早く噂になるほど強くなるとは思わなかったけどな」


 「じゃ、じゃあ、もしかしてロストさんは隊を抜けたんですか?」


 ソックの緊張が伝わったのか、ミドーも顔をしかめた。


 「いや、抜けていない。今、うちのパーティは東の砦で戦っているからネヤに任せているんだ」


 「な、なるほど。でも何でネヤさんが指揮を執ってるんですか?」


 ソックは不思議そうな顔をしている。


 「お前たちにはきつい話になるから理由を話すつもりはない」


 「……きついって、も、もしかしてラードさんに何かあったんですか?」


 「いや、そうじゃない。だが、聞かないほうがいい」


 「で、でも気になるじゃないですか……」


 ソックはあからさまに不満げな顔だ。


 「そこまで言うなら話してやる。俺は二度忠告したからな。ネヤがラードの代わりにリーダーをやっているのは、ネヤが最上級職の【重騎士】に就いたからだ」


 「なっ!?」


 ソックの驚きようは予想以上だった。目を見開いたまま俺を凝視していて、ミドーとエゼロスたちも動揺を隠しきれていないようだ。


 まぁ、そりゃそうだろうな。日本人で最上級職に就いている奴はほとんど聞かない。おそらく、俺たち以外では10人もいないだろうからな。


 「最上級職に就けなかったラードは、上級職がサブリーダーをすることがおかしいと考えて降りたんだ。ラードは言っていたぜ。今になってデインが言っていた気持ちが本当に分かったってな」


 「うぅ……た、確かにそれはデインには聞かせたくないですね。今のデインが聞けば二重に苦しむことになりかねない……」


 ソックの表情が苦しそうに歪む。


 「勘違いするな。俺はお前たちにとってきつい話だと言っただろ。要するに、お前たちと一緒に入ったミルアたち三人が、すでに上級職に就いているってことだ」


 「そんな馬鹿なっ!?」


 ソックは放心状態に陥った。ミドーも目を剥いて驚いている。


 「ソック、そもそもあなたは何をしているのですの? 私はあなたがいるから大丈夫だと思っていましたわ。強くなって私たちと肩を並べるか、デインを説得して戻ってくるかと思っていましたのにがっかりですわ」


 これまで優雅に手鏡で自分の顔や髪型を確かめながら、悦に浸っていたマークⅢがここぞとばかりに話に割って入る。


 「ぐうっ……」


 うめき声を漏らしたソックは、重苦しげに頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


 「私たちのことを知っているようですが、あなたは何者なのですか?」


 ミドーが訝しげな顔でマークⅢを見ている。


 「彼女はマークⅢさんですよ」


 ソックは当たり前のように言った。


 やはり、ソックは鋭いな。


 「……えっ? マークⅢさんは白い鎧だったはずですよ」


 ミドーの顔は驚きに満ちている。


 人になっているんだから、そりゃそう思うよなぁ。


 「マークⅢ、あれを二本、ソックに渡してやってくれ」


 「分かりましたの」


 無限の空間からマークⅢが剣を二本取り出し、ソックの前に置く。


 「こ、これはガダン商会の鋼の剣ですよね?」


 ソックは戸惑いの色を隠せない顔で剣を見つめている。


 「その剣はロストシリーズですの」


 またそれか……もうつっこむ気もなくなってきたぜ。


 「その剣は切れ味が二倍に強化された剣だ。要するに、お前でも下位種の魔物を楽に倒せる。そして、もう一本はデインが立ち直ったら渡してやってくれ。デインが使えば通常種の魔物とも渡り合えるようになるが、無理はさせるなよ」


 「そ、そんな高価なものを俺たちに……ありがとうございます!!」


 ソックは心底申し訳なさそうに頭を下げた。


 くくっ、まぁ、普通は俺が剣を強化できるなんて思わないよな。


 「なるほどな。あんたの軍が強いのはその剣を隊員に持たせているからか」


 エゼロスが腑に落ちたような笑みを浮かべる。


 「その通りだ」


 「で、ついでに言わせてもらうが、あんたの軍に入りたい連中が首を長くして待ってるぜ。それが俺の用件だ」


 だろうと思ったぜ。だからこそ、こっちから出向いてきたんだからな。


 「何人いるんだ?」


 「【戦士】13人に【盗賊】4人の合計17人だ」


 くくっ、まだまだ集まりそうだな。


 「全員、連れて帰る」


 「あんたなら、そう言うと思ってたぜ」


 エゼロスは満面の笑みを浮かべるのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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