第100話 軍の再編成 ☆ゴウキ
100話到達。
けど私の想定では100話以内に日本に帰還しているはずだったが、前作と同様に想定が甘すぎるようだ(爆)
しかも、もうストックがほとんどない・・・つまり、日本に帰還したところで、いったん休載してストックを作る予定だったが、それすらできない状況に陥っている(爆死)
翌朝、俺は軍を率いて南下する。
マークⅡたちがいるから東の砦でも戦うことは可能だが、ネヤたちと鉢合わせる可能性がある。
もうここまできたら【無銘の刀】のことも軍のことも、いけるところまで隠し通したほうが面白いという心境だ。
俺たちは南の砦を通過し、しばらく進んだところで進軍を停止した。
「編成を元に戻す」
そう短く発したものの、俺は考え込んでしまう。
最大の理由は、指揮官が未だ決まっていないことが挙げられる。
無論、俺やマークⅢがずっといるわけではないので、俺たちが不在時の指揮官がいないという話である。
しかし、これはいくら考えても仕方がないのでいったん棚上げし、隊員たちが五人組に分かれたので、俺は説明を始めた。
戦士組は、1部隊5人で1人が囮役になり、残りが攻撃に集中する役割だ。攻撃目標は通常種で、現在24人いるので5部隊編成できている。
だが、女性だけで編成された4人組の部隊が存在している。
これについてはどうしようもないので頑張ってもらうしかない。それにクーガが【重戦士】に就いたので、彼を部隊から外して単独で一部隊とすることにした。
これによって、4人組の部隊が2部隊に増えたが、戦士組が6部隊になったことで、通常種を一度に6匹まで対処可能になった。
問題は盗賊組だ。
盗賊組も1部隊5人編成で、1人が見張り役、兼、指揮役になり、戦士組と【盗賊】4人に指示を出す役割だった。
こんな仕組みになったのは当初、隊員が10人しかいなかったからだが、現在は人数が増えすぎて意味をなさない状況だ。
現在、盗賊組は3部隊いて、15人の【盗賊】がいる。
だが、これまでの形態を保つのであれば、二部隊の戦士組と盗賊組の編成になり、盗賊組の見張り役がこの部隊を指揮することになる。そして、これが三部隊編成されることになる。
見張り役同士で連携できるのか? いや、そもそもこのやり方では部隊数が増えれば増えるほど、見張り役の連携が困難になっていくが、要するに、指揮官がいれば解決する話でもある。
しかし、指揮官はいないので、今いる人材でなんとかするしかないと決めた俺は、盗賊組の各部隊で話し合って、指揮官候補を一人ずつ選出しろと指示を出した。
無論、選ばれても本人にやる気がない場合は、辞退することを認めると付け加えている。
各部隊が白熱した議論を繰り広げた結果、男二人に女一人の三人が指揮官候補として選ばれた。
「あんたら三人は、一人が指揮官として全軍の指揮を執り、残りの二人が斥候として周辺の状況を探って指揮官に報告しろ。それをローテーションで繰り返すというやり方だ」
指揮官候補たちは神妙な表情で頷いた。
残りの【盗賊】たちは二人一組で、一匹の下位種の魔物を倒す役割に専念させることにした。
これによって二人組の盗賊組が六組編成できたので、一度に六匹の下位種の魔物を倒すことができるようになる。
様々な意見を交換していた指揮官候補たちはジャンケンを始める。指揮官役が決まって残る二人が斥候に出た。
〈まえにネズミ、みぎにムカデとアリ、ひだりにカメがいるよ。カメをたおしていい?〉
俺の肩にダークと一緒にのっているマークⅠが報告する。
「我慢しろ」
〈えぇ~~~っ!?〉
マークⅠはしょんぼりしている。
斥候から戻った二人が指揮官候補のもとへ歩み寄り、状況を報告する。
「右でセンチピード種とアント種が戦っていて、正面にはラット種がいるわ」
「左にはタートス種、正面にはラット種だ」
斥候が二人いるから索敵範囲を左右に分けたのはいいが、正面の索敵がかぶっているのが問題だな。
「ロストさんたちがいるので左右は無視します。なので正面のラット種を狙います」
報告を受けた指揮官役が事もなげに返答した。
「ラット種なら楽勝だな」
隊員たちに向かって振り返ったクーガが、冗談交じりに拳を鳴らす。
「まぁ、そうだが、再編成して戦術を変えたから、ここらで役割やルールを明確にする。第一に、戦うか退くかは指揮官役が決める。ここでうだうだやっていると死人が出るからな。だから、戦士組と盗賊組は指揮官役の指示には絶対に従ってくれ」
反発が出るかと思ったが、予想に反して全員が頷いている。
「戦士組の指揮はクーガ、あんたに任せる。上級職だから皆も納得するだろう。俺からの要望としては、たとえばラットが一匹だった場合、戦力の低い四人組の部隊に回す配慮を期待したい。これからも隊員は増えていくから、同じような場面は何度もあるだろうからな」
「分かりましたぜ」
クーガはにやりと笑う。
「盗賊組は標的が下位種だからローテーションでいけるだろう。で、指揮官役の判断は問題ないが、今からは俺たちがいないと思ってくれ」
「それでも、結果は変わりません」
指揮官役が即座に返答した。
「及第点だ。だが指揮官役が言うようにラット種に進軍する」
「なぜ及第点なのですか? 納得できません」
指揮官役はその言葉に顔をしかめることもなく、まっすぐに問い返した。
へぇ、ギルに続いて彼も当たりかもな。まぁ、場数を踏ませるために俺たちがついているわけだが、どうしたものか……
俺は斥候役二人に視線を向けて問いかける。
「あんたらは、今は斥候役をしているが、順番がきたら指揮官役でもある。そのあんたらから見てどう思う?」
「私にはなぜ及第点なのか分からないです」
「俺もだ」
どちらも不可解そうな表情を浮かべている。
「これはあんたら【盗賊】たちの中で、暗黙のルールのようなものが存在するのかもしれないが、俺が疑問に思ったのは魔物との距離と数を報告しないことだ」
まぁ、これについては決まっているはずだ。でないと判断のしようがないからな。
「それは確かにロストさんの言う通りに、ルールがあります。具体的には距離の場合、一キロメートル以上離れていて、こちらに向かっていない場合は報告しません。数は強い魔物は逃げることが前提なので報告しませんし、戦士組が六部隊いるので通常種が七匹以上いる場合でないと報告しません」
「あえて確認するが、スネーク種との距離が500メートルで、通常種が7匹、下位種が5匹の場合はどのように報告するんだ?」
「その前提ならスネーク種、距離500メートル、075ですね。スネーク種が動いている場合は移動中、もしくは接近中も加えます」
正直、感心したぜ。よくあの短い時間でここまで仕上げたな。075の0が上位種を想定しているのもいい。
「よく練られているな」
「では、このことを報告していれば“及第点”ではなかったということですね?」
「いや、内容はどうあれ、結局、ラット種を標的に選んでいるから及第点だ。では本題に入る」
「えっ?」
指揮官役は目を見張る。
「単刀直入に聞く。なぜ前方のラット種から先を索敵させなかったんだ?」
「――あっ!?」
失態を悟ったのか、指揮官役から声が漏れ出た。
「さっき言ったように、あんたら斥候も指揮官役になるんだから、なぜラット種の先を索敵しなかったんだ?」
俺の言葉に、深刻な表情を浮かべる二人の斥候役は押し黙ったままだ。
この際だ、言っておくか。
「いいか!! 指揮官役は、戦士組や盗賊組に指示しているだけの楽な仕事だと思わせるな!! むしろ、指揮官役がいるから安心して戦闘に集中できると思わせろ!!」
その言葉に、戦士組や盗賊組の顔が真剣なものへと変わる。
「そのためには、まず、弱いことをちゃんと認識しろ!! それが認識できれば安全な距離を保ちながら、確実に倒せる相手を選んで経験値を稼げるはずだ。それが俺たちのやり方だからな」
「返す言葉もありません」
指揮官役は誤魔化すことなくそう言った。
ほう、ここまで言ってそう返せる胆力はたいしたものだ。ギルとは違うタイプだが彼を指揮官にしてもいいかもな。
「俺たちは万が一にもこんなところで死ぬわけにはいかない。俺たちにとっての本番は日本に帰還してから始まるんだからな」
「違いねぇ」
クーガの言葉に、隊員たちは力強く頷いた。
「ではこれからどうする?」
俺が目線を指揮官役に送ると、指揮官役は「二人はもう一度索敵に出てください」と即答し、頷いた斥候役たちは音もなくその場を離れた。
数分も経たないうちに女斥候役が戻ってくる。
「正面、左も右も魔物の位置は変わらないわ。ただ、右のセンチピード種がアント種を全滅させてるけど」
へぇ、俺は索敵がかぶっていることを指摘していなかったのに、もう対応しているのか。
すぐにもう一人の斥候役が帰還する。
「ラット種の先にスネーク種とウルフ種だ」
ってことは、こいつらのルールだとラット種から一キロメートル以上離れた位置に、スネーク種とウルフ種がいて通常種が六匹以下ってことだよな。
「ラット種を狙います。二人はラット種に接近したら斥候に出て下さい」
「了解だ」
クーガの声に、戦士組、盗賊組が進軍を開始し、その後を俺たちが追いかける。
「マークⅢ、マークⅠたちと一緒に左右の敵を倒してきてくれ」
俺は俺の肩にのっていたダークとマークⅠをマークⅢの肩にのせる。
「分かりましたの」
〈やったね〉
マークⅢたちは左に転進する。
俺たちがラット種に向かって進軍していると、斥候役の二人が離脱し、俺たちを視認したラット種の群れが俺たちに向かって突っ込んでくる。
あいつら的に言えば、034だな。つまり、上位種0匹、通常種3匹、下位種4匹ってことだ。
「1、2、3で迎撃!!」
そう声を張り上げたクーガと、四人組の二部隊が突進し、盗賊組の四組が続く。
なるほどな。クーガたちは部隊を番号で呼んでいるのか。まぁ、気になるのは女の四人組だよな。
俺は視線を女の部隊に転じると、大盾を前面に構えて進む囮役がラットと衝突し、一瞬ラットは怯んだが、すでに三人に囲まれていて、瞬く間に斬り刻まれた。
くくっ、これが数の力だ。
俺がクーガたちに視線を移すと、クーガたちもすでに戦いを終えていた。こうなると、一番弱いのは一人だけのクーガだ。
クーガが一回攻撃している間に、部隊のほうは四回攻撃していることになるからな。
俺たちは日が暮れるまで戦い続けたが、これといった問題もなく戦うことができた。
俺たちが最後の戦闘を終えて、村に戻ろうとしたその時、不意に男たちに道を遮られる。
あぁ? ぶしつけな奴らだな。
俺が男たちに視線を向けると、鋭い眼光の屈強な男たちが黙って俺を見つめていた。
何だ借金組か……俺は彼らに好感を抱いている。
借金してでも強くなろうとする、その強さへの渇望。
できる限り自分たちの力だけで成長しようとする姿勢。
ギラついた目からは、本気で魔物を倒そうとする執念にも似た気概が感じ取れる。
「あんたマジですげぇな……」
「正直、俺はあんたが下級職を集めて軍を作るって聞いたとき、無理に決まってるだろって思ってたからな」
「だよなぁ、それができるなら俺たちはあんたを頼る必要がないからな」
「だが、なんでか分からないが通常種を倒してる。それも瞬殺だからな」
驚きと感心が入り混じったような顔つきの借金組の面々が次々に発言する。
「理由を教えてやろうか?」
クーガがどこか得意気に言い放つ。
「理由だと? やはりあるのか?」
落ち武者のような髪型の男が訝しげな声を上げる。
「俺たち全員が持ってる剣が魔剣だからだ。ガダン商会の鋼の剣に見えるだろうが、この剣は隊長が魔法で強化したことで魔剣になった。だから下級職でも通常種に攻撃が通る」
借金組は食い入るようにクーガの剣を見つめている。
「いくらでなら売ってもらえるんだ?」
落ち武者が固い表情のまま真っ直ぐ俺を見る。
「この剣はロストシリーズですの。値段は1本1000万円ですわ」
しゃしゃり出てきたマークⅢが得意げに答える。
だからロストシリーズって何なんだよ? 流行らせたいのか?
「い、1000万……」
眉がピクリと動いた落ち武者の目の奥に悔しさがにじむ。
「当然ですの。高品質の鋼の剣は攻撃力が60、ミスリルソードの攻撃力は300ですわ。ですが、その間の攻撃力の武器がこれまでにはありませんでしたの。けれども、マスターが強化したこの剣の攻撃力は150で、ミスリルソードの値段が3000万円なので、この剣の値段は1000万円でも安いですの」
「……」
納得したのか借金組は誰も何も発しなかった。
だが俺は彼らを気に入っている。
「あんた、名は?」
「……ゴウキだ」
「マークⅢ、剣を出してやれ」
「分かりましたの」
嫌という素振りを見せずにマークⅢは、空間の裂け目から五本の剣を取り出し、借金組の男たちに一本ずつ手渡した。
「い、いいのか?」
ゴウキはしばらく無言のまま剣を見つめている。それは借金組の男たちも同様だった。
借りを作りたくない彼らのことだから、剣を突き返されるかもしれないな。
「感謝する」
意外にもゴウキがそう発し、借金組の男たちは深々と頭を下げた。
だが、その剣を握る手が強く握りしめられていることを俺は見逃さなかった。
俺が彼らを好きなのはこういうところなんだよな。
本当は返したい。けどその衝動を抑え込み、何も言わずに剣を受け取った。
意地や矜持を捨ててでも、今より強くなるために。
「いや、俺はあんたらのような日本人が、どんどん増えてほしいと思っているから気にするな」
そう返した俺は踵を返して歩き出す。そして俺たちは拠点へと帰還したのだった。




