21. 高宮聖菜検定
21. 高宮聖菜検定
あれから2週間。新緑が目に鮮やかな季節、世間は4月の終わりを迎え、待ちに待ったゴールデンウィークが目前に迫っていた。あの初めてのデートから、オレと聖菜さんの間には、以前と変わらない穏やかな日常が流れていた。周りのクラスメイトから見れば、ただの仲の良い友達といったところだろうな。
でもオレと聖菜さんの間にはもっと深い『運命的な何か』という名の特別な繋がりがあるんだ。だから、焦ることはしない。聖菜さんが本当に『タイムリープ』していて、あの時の話が全て本当なら、オレは未来で聖菜さんの旦那様になるはずだからな。そう信じている。
「何ニヤニヤしてんの、神坂?」
背後から聞き慣れた、でも今日は少しばかり低い声が飛んできた。振り返ると、そこに立っていたのは姉貴こと西城さんだった。
「姉貴」
つい、そう呼んでしまう。
「誰が姉貴だし。そこのホウキ貸してくんない?」
「おう」
オレは、手にしていたホウキを大人しく手渡した。オレは今、姉貴こと西城さんと共に、放課後の社会準備室を掃除している。あの時、聖菜さんを強引にここに連れ出した、あの慌ただしい騒動も今となっては少し懐かしい思い出だ。
「そう言えば、神坂。GWさ、聖菜と遊ぶの?」
西城さんは、ホウキを手に取り、掃きながら何気ない様子で尋ねてきた。
「いや、特に約束はしてないよ」
「じゃあ、聖菜借りていい?」
「借りていいも何も、聖菜さんはオレの彼女じゃないし」
「でも、ヤったんでしょ?」
「ヤってないけど」
「うわあ……そんなんじゃ、誰かに聖菜取られるけど?人気あるんだからね、聖菜」
西城さんの言葉に胸の奥がチクリと痛む。……確かに、聖菜さんは可愛いし、クラスの中でも、密かに聖菜さんに好意を寄せている男子がいるのは知っている。しかし、未来の旦那様はオレのはずだ。
「あのさ、神坂。性欲があるのは男だけじゃないし、初体験を早く済ませたい女の子だって多いからね?」
「え?」
「だから、もし聖菜がそう思ってたら、グズグズしてると、他の男が手を出しちゃうかもしれないし、聖菜からいっちゃうかもね?今どきセフレだって多いんだし。聖菜はおとなしそうに見えて案外積極的かもよ?」
西城さんの畳み掛けるような言葉に、オレは言葉を失う。聖菜さんに限ってまさか……
でも確かに、聖菜さんは……オレのことをからかってるとはいえ、そういうことに積極的な一面も見せる。それなりに経験はあるけど、まだ処女だって言っていた。それは『タイムリープ』をしているからという意味のはず。それなりがオレだけとは限らないけどさ。
それに良く考えたら、聖菜さんが『タイムリープ』をしていても、オレと再会するのは25歳の時。オレはともかく、聖菜さんはその間に色々な男とお付き合いしているかもしれない。最終的にはオレと結婚するとは思いたいけど……
それと、オレは聖菜さんのプライベートのことなんて、ほとんど何も知らない。住んでいる場所や好きなものや嫌いなもの。ましてや連絡先さえ未だに知らないままだ。
これは、未来が変わってしまうのでは?あまりにもオレが聖菜さんに興味がなさすぎるだろ。焦燥感がじわじわと胸に広がっていく。
「どした、神坂?」
「姉貴~!オレどうしたら!」
「キモッ!だから、誰が姉貴だし!」
このままではまずい。本当に何か対策を考えないと。ゴールデンウィークはすぐそこまで迫っている。
そして翌日。ゴールデンウィーク前日。今日で学校もしばらく休みになる。隣の席では聖菜さんが楽しそうに鼻歌を歌いながら帰る準備をしている。オレは意を決して、聖菜さんに話しかけた。
「あの、聖菜さん」
「ん?」
「良かったら、駅まで一緒に帰らないか?」
「うん。いいよ」
よし。とりあえず聖菜さんを誘うことには成功したぞ。放課後の喧騒の中、オレと聖菜さんは肩を並べて歩き始めた。
そういえば、聖菜さんとこうやって二人で歩くのは、あの前の初デートの時以来だ。あれからは、学校で顔を合わせるだけで一緒に帰ることはなかったからな。
今日は、あるミッションがある。それは聖菜さんの連絡先を聞くことだ。というか今まで知らなかったのも今思えば不思議な話ではあるけれど。
「ねぇ、優斗君。少しだけ、お茶していかない?」
「ああ。いいよ」
「ふふ。ありがとう」
聖菜さんは、嬉しそうな顔で笑う。その笑顔に癒されながらも、オレと聖菜さんは駅前のカフェに入った。
「ここに来たかったんだよね」
「へぇ。そうなんだ」
聖菜さんに案内されたのは、駅の構内にある、小さな喫茶店だった。店内には、控えめな音量でピアノのBGMが流れ、レトロで落ち着いた雰囲気が漂っている。窓際の席は、陽が差し込み温かい光で満ちていた。オレと聖菜さんは、カウンターに並んで座り店員さんにコーヒーと紅茶を注文した。
「明日からGWだね」
「世間は7連休らしいぞ」
「そうみたいだね」
「ご予定は?」
「彩音ちゃんと舞子ちゃんと遊ぶくらいかな。あとは家事だね。一人暮らしは大変なのですよ。あっ、宅配便頼まないと」
そう言って、聖菜さんはスマホを取り出し、何やら操作を始めた。今だ!ここがチャンス!と思い、オレは意を決して口を開いた。
「あれ。そう言えばオレ、聖菜さんの連絡先、知らないような……」
「うん。聞かれてないね」
「えっと……教えてくれる?」
オレがそう言うと、聖菜さんはジトっとした目でオレを見てきた。その視線が少し痛い。
「……遅いなぁ。もう1か月経つけど?」
「……だよな。オレが悪い」
「そんなんじゃ、高宮聖菜検定に合格できないよ」
「その検定。オレの人生で一番難しいやつだからな。勉強不足だったよ、ゴメン」
「ふふ。今回はギリギリだけど。3級は合格にしてあげよう。感謝したまえ」
「ありがたき幸せ」
聖菜さんは笑いながらスマホを操作して、オレに連絡先を教えてくれた。家に帰り、ドキドキしながらスマホの電話帳を開く。
そこには、しっかりと「高宮聖菜」の文字が登録されていた。遅くなったけど、オレはついに聖菜さんの連絡先を手に入れることができた。これで少しは安心できる。夕焼け空を見上げると明日からのGWがなんだか少しだけ楽しみになった気がした。
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