12. マジでピンチまで5秒前
12. マジでピンチまで5秒前
ついに迎えた放課後。夕焼け空が目に染みる帰り道、オレと高宮さんは並んで歩いていた。普段ならどうでもいい風景も、今日はどこか違って見える。
でもそんな感傷に浸る余裕なんて、今のオレには全くなかった。心臓はバクバクと激しく脈打っている。ドクンドクンと耳元でうるさいくらいだ。
それはもちろん、高宮さんがこの後オレの家に来るからだ。生まれて初めて、女の子を自分の家に招き入れる。想像もしていなかった事態に、全身がソワソワと落ち着かない。
まるで熱でもあるんじゃないかってくらい、体が火照っている気がする。電車の中ではすぐ隣に高宮さんが座っているのに、緊張してほとんどまともに話せなかった。
一体、高宮さんは何を考えているんだろうか。オレと同じようにドキドキしているのか、それともいつものように余裕綽々なのか。想像もつかない。
「神坂君?」
ふいに、隣から高宮さんの声が聞こえ、オレはびくりと肩を震わせる。
「なんでしょうか!?」
思わず、声が裏返ってしまった。自分で言ってて情けない。こんなに狼狽しているなんて……
「緊張しすぎだね。というよりお家こっちじゃない?」
高宮さんは、少し呆れたような、でもどこか楽しそうな声でそう言う。しまった。完全に舞い上がっていたらしい。ぼーっとして、違う方向に歩き出してしまっていた。危ない危ない。
「もしかしてオレの家の場所、調査済みなの?」
「神坂君のご実家は何回も行ってるから分かるよ」
「個人情報が筒抜けなのか」
「ふふ。私には何でもお見通しなのだよ」
高宮さんはいたずらっぽく笑う。その笑顔は夕焼けに照らされて、いつもより少しだけ大人っぽく見えた。
そんないつも通りの、でもどこか特別なやり取りをしていると、張り詰めていた緊張もほんの少しだけ和らいだ気がした。
そして、とうとうオレの家が見えてくる。ああ、いよいよこの時が来たか。心臓が、再び早打ちを始める。
「ただいま~」
「お邪魔します」
高宮さんは、玄関で丁寧に靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて家の中へと入っていく。その姿は、なんだか見慣れない光景で少しだけドキッとした。しかしリビングからの返事はない。どうやら怜奈はまだ帰ってきていないようだ。昨日、あれほど早く帰ってこいって念を押したのに。一体どこほっつき歩いているんだ、あいつは。
「……おやおや?もしかしてそう言う作戦ですか?妹ちゃんをだしに使うなんて、意外と策士だね神坂君?」
「いや違うって!本当に怜奈は……」
「とりあえず2階だよね?」
「何が?」
「神坂君のお部屋」
高宮さんは、まるで今日ここに来る目的はそれしかないと言わんばかりの態度だ。その言い方にドキッとしてしまう自分がいる。
「客人をもてなすのは昔からリビングと決まっているから」
「でも今日私は神坂君の彼女として招かれてるんでしょ?普通初めてのお宅で、彼女はリビングにいないかな」
高宮さんは、小悪魔のように微笑む。その笑顔に、オレは完全に言葉を失ってしまう。言い返そうとしても、何も思いつかない。やっぱりこの子には勝てない。完全にペースを握られている。
「分かったよ。オレの部屋は階段上がってすぐ左の部屋だから、先に行っててくれ」
「了解」
高宮さんは、満足そうに、パッと笑顔を浮かべると、軽い足取りで先にオレの部屋へと向かった。その楽しそうな後ろ姿を見送りながら、オレはとりあえずキッチンに向かい、飲み物の準備をする。少しでも、この落ち着かない気持ちを紛らわせたかった。
お茶かコーヒーか紅茶か……う~ん。こんな時、一体何を出せば正解なんだ?迷った末、結局、無難なお茶を出すことにした。よし準備完了。深呼吸をひとつして、オレは自分の部屋へと向かう。
「高宮さん。入るよ」
「はいはーい」
高宮さんの、いつもより少しだけ弾んだような軽い返事が聞こえる。意を決してドアを開ける。
その瞬間、部屋の光景を見てオレは文字通り一瞬にして固まってしまった。高宮さんがオレのベッドに寝転がっていたからだ。しかもスカートの裾が思いの外上がっていて、見えそうで見えない。本当に際どいラインでパンツが見えそうになっている。マジで心臓に悪い。一体、何をやっているんだこの子は。
「ちょ!なにしてんの」
「神坂君の匂いを堪能してるんだけど」
高宮さんは、目を閉じ本当に気持ちよさそうに、うっとりとした表情でそう答える。その無防備な姿にドキドキが止まらない。一体、どんな神経をしているんだ?
「なるほど。そう言いつつも、自分の匂いをマーキングしてるのか」
「そういう解釈もあるね。私は浮気とか許さないから」
「出た。時空探偵」
「ふふ。でも良かったね今日のオカズができて?私の匂いであんなことやこんなことを思い出してさ?」
高宮さんは、本当に楽しそうにそう言う。全く、どこまでオレをからかうつもりなんだろうか。顔が赤くなるのを自覚する。
「消臭剤はどこだっけ」
「酷いなぁ~。神坂君は」
高宮さんは、今度は本当に拗ねたように、プッと頬を膨らませる。その顔もまた、反則的に可愛いと思ってしまう自分が情けない。まったく。本当に、どこまでもブレないな高宮さんは。
とりあえずこの気まずい、でもどこかドキドキする状況を打破するためにも何か話題を振ってみる。高宮さんのことについては、未来のこととか、タイムリープのこととか、気になることだらけだからな。
「あのさ、高宮さん」
オレはベッドの端に腰かけ少しでも冷静を装おうとして、そう話しかける。
「なにかな神坂君?」
高宮さんは、ゆっくりと体を起こし興味深そうにオレの方を向く。その瞳はキラキラと輝いていて吸い込まれそうだ。
「高宮さんは、将来どうしてオレと結婚するんだ?本来なら、25歳まではこうやって一緒に過ごすこともなかったわけだろ?」
「それは、神坂君が猛烈にアプローチしてきてね」
「それは嘘だ。オレは、高宮さんみたいな美少女……いや、美人になるような人に、アプローチできるほどの男ではない」
「よくご存じで」
高宮さんはニヤリと笑う。そして高宮さんはそのまま、まるで誘うようにオレを引っ張る。体勢を崩したオレは、彼女の上に覆い被さるような、まさかの体勢になってしまった。
至近距離で、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳が、ドキドキしながら見つめるオレを捉えている。
近い。それになんだか、さっきよりもっと良い香りがする。シャンプーだろうか?それとももっと特別な、高宮さんだけの香りだろうか?
しかも、吐息が当たるくらいの距離だ。オレの顔は今、きっと茹でダコみたいに真っ赤になっているだろう。心臓の音が、耳元でうるさいくらいだ。
本当にこんな可愛い子が未来のオレの奥様に……?信じられない。
「顔赤いね?さてさて、理性警察は本当に優秀なのかな?」
「今、人生最大の難事件に立ち向かってるな」
必死に平静を装おうとするけれど、声が少し震えている自覚はある。
「ふふ。迷宮入りしちゃう?」
高宮さんはさらに追い詰める。もう勘弁してくれ。これ以上どうしたらいいんだ。
「それは困る」
正直に、そう答えるしかなかった。そんな時、玄関が開く音が聞こえる。バタンという少し大きくて乱暴な音だった。怜奈が帰ってきた。まさかの最悪のタイミングだ。オレは慌ててこの体勢から起き上がろうとするが、高宮さんがオレの腕を掴んで離さない。
「高宮さん!?」
「今日は私、彼女なんでしょ?」
「いや、そうじゃなくて!」
弁解しようとするけれど、頭の中は真っ白だ。絶対にこの状況を楽しんでいるだろ。だって完全に悪い笑顔だし。足音が段々近づいてくる。マジでピンチまであと5秒前。どうしよう……一体この状況をどう乗り切ればいいんだ?
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