11. 理性警察はベテランで優秀
11. 理性警察はベテランで優秀
翌日になり、オレはいつも通り教室に入る。しかし今日はいつもとは違うことがある。それは高宮さんを家に誘うという難題を課せられたことだ。
昨日は怜奈のやつに勢いで言ってしまったが、よく考えてみるとオレから高宮さんに何かをしたことがない。
教室の扉を開けると、いつものようにざわついた喧騒が耳に飛び込んでくる。窓際の席では、数人のグループが楽しそうに談笑している姿が見える。オレは、自分の席に向かい、隣の席の高宮さんに声をかける。心臓が少しドキドキしているのを感じた。
「あ。おはよう高宮さん」
「おはよう神坂君」
「え~……今日もいい天気だな!」
「そう?曇ってるけど」
高宮さんは、窓の外を見ながらそう言った。空はどんよりとした雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。どこが「いい天気」なんだか、自分でも意味が分からない。
「曇りはもう晴れみたいなもんだろ」
「曇りは曇りかな」
高宮さんは、あっさりと否定する。何意味分からないこと話してんだオレは。バカみたいだ。でもいきなり本題とかオレには荷が重すぎるし。どう切り出せばいいのか、全く見当もつかない。結局、朝の会話では高宮さんを誘うことが出来なかった。情けない。
そして昼休み。リベンジの時だ。オレはチャイムと同時に高宮さんに話しかける。今度こそちゃんと伝えなければ。
「あの高宮さん」
「なにかな?」
「ちょっといいかな?少し話があってさ」
「告白かな?」
高宮さんは、いつものようにからかうような口調でそう言った。心臓が跳ね上がる。マジでやめてくれ。
「いや違うけど……とにかく来てくれ」
オレは、半ば強引に高宮さんの腕を掴んで歩きだす。そしてしばらく校内を歩いて、誰もいない社会準備室に入る。なんか教室を出るときに周りからの視線があった気もするが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
社会準備室は、普段はほとんど使われていないため、ひっそりと静まり返っていた。古い木製の机や椅子が埃をかぶり、窓からは薄暗い光が差し込んでいる。
「ここでいいか」
「……誰も来ないところまで連れてきて、もしかして思春期特有の欲求が爆発してシたくなっちゃったの?」
「違う」
「でも今ゴム持ってないよ私。神坂君持ってるの?持ってるなら……学校とかはあまり嫌なんだけど、仕方ないから我慢するよ?」
高宮さんは、ニヤニヤしながらそう言った。頼むから、そういうこと言うのやめてくれ。余計にドキドキする。
「違うって!」
「なーんだ。つまんない」
高宮さんはつまらなそうにそう言う。なーんだ。つまんないじゃないだろ。オレは高宮さんの彼氏でもなんでもないんだから。そんなことを思いながらも、とりあえず昨日の事を話して用件を伝えた。正直良く考えたら、格好悪いにも程があるけど仕方ない
「というわけなんだが……」
「ふむふむ。なるほど……つまり神坂君の家でヤるってことだね。さすがに私も初めてはベッドがいいかな」
だから、そういうこと言うなって!オレは顔が赤くなるのを自覚した。
「ヤることから一旦離れようか」
「じゃあその時の展開しだいだね?」
「安心してくれ。オレの理性警察はベテランで優秀だから」
「えぇ?新人ばかりじゃない神坂君の理性警察は?」
高宮さんは、いつものようにクスクスと笑う。本当に可愛い。……というか高宮さんのほうが欲求不満なのでは?美少女でエロいとかご褒美でしかないんだが。そんな煩悩を振り払い、オレは再度お願いしてみる。
「それでどうかな高宮さん?」
「ほほう。つまりお兄ちゃんのプライドとやらで神坂君は窮地に立たされていると。そしてそれをこの美少女の私に助けてほしいというわけだね?」
高宮さんは、わざとらしくそう言った。なんかしゃべり方がウザいが、可愛いので我慢する。
「どうしようかな~?」
「迷惑なのは分かるんだけどお願いできないかな?」
「……私は今無性に映画が観たいのです。今度のお休みに」
「え?分かった。映画……いこうか」
「これはデートだよね?」
「え?……今週末デートしよう!仕切り直しの初デート!ほら。今度はオレが奢るからさ!」
まさかこんな流れになるとは思わなかったけど、これはこれでアリなのか?いや、むしろ最高じゃないか?いやいや何考えてるんだオレは!
「しょうがないなぁ。まったく。プライドだけでは生きていけないのだよ神坂君」
「おっしゃる通りです」
「ふふ。いいよ。私も神坂君の部屋とか興味あるしね?それに中学生の怜奈ちゃんにも会ってみたいし」
高宮さんは、楽しそうに笑う。おお!やったぞ。とりあえずこれでミッションコンプリートだな!
「ありがとう高宮さん。助かるよ。……あれ?オレ妹の名前教えたっけ?」
「怜奈ちゃんでしょ?私の義妹だもん名前も顔も知ってるよ。もちろん大人の怜奈ちゃんだけどさ」
「調べたの?」
「『タイムリープ』だってば」
高宮さんは、いつものようにそう言う。……いまいちそこはピンと来ない。確かに『タイムリープ』で未来から来た高宮さんなら、オレの妹を知っていてもおかしくはないのか。でも調べれば分かることでもあるしな……
「高宮さんはこれから起こることがなんでも分かるのか?」
「なんでもじゃないね。ふと思い出す感じに近いかな……記憶の断片みたいな感じ?」
そう言いながら高宮さんは窓の外を見る。まぁそんなことは今はどうでもいい。とにかくオレの家に高宮さんが来る。それだけだ。
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