婚約破棄を願ったら、予想外の人がザマァされました・その3
前作2つを知らなくても楽しめるように作ったつもりです。
是非お読みください。
〜コーベット未亡人は、傾国の美女で、そのベールの下の笑顔を見たものは、どんな願いをも叶えざるをえない。たとえば、愛のために鋼の心臓を手に入れなさいと言われたなら、叶えるまで探してしまう〜
キンバリー・ゴードンは着慣れない他所行きのドレスのスカート捌きに少し手こずりながら、コーベット未亡人邸の毛足の長い絨毯の上を歩いていた。
平民の自分が、お客様扱いされて貴族のお屋敷の廊下を歩いている。
案内してくれているのは、品の良い整った顔の若い執事。
何だかお姫様になったような気分だ。
綺麗に手入れされた庭が廊下のガラス越しに見えるが、それと同時にガラスに写った自分の姿が目に飛び込んできて夢心地から一気に現実に引き戻される。
ぽっちゃりした体型に、地域学校の卒業式で着たドレスが全く似合わない。
まるでハムが服を着ているみたい。
ため息が出そうになるのをなんとか堪える。
ここは貴族のお屋敷だ。そんな失礼は許されない。
「奥様、お客様でございます」
案内されたサロンには、未亡人特有の顔を覆い隠すベールを被り、体のラインのわからないワンピースを着た女性がいた。
座ることを躊躇ってしまうくらいに肌触りの良いソファーに座るように促されて、思わず浅く腰掛けてしまう。
「今日はどうなさったのかしら?」
鈴が転がるような綺麗な声だ。
突然押しかけてきたのに丁寧にもてなしてくれるコーベット未亡人の優しさに、キンバリーは自分の気持ちをちゃんと説明しようと心に決める。
「はじめまして。キンバリー・ゴードンと申します」
挨拶をした後、鞄の中から白い布に包まれた物を出してテーブルに置いた。
「こちらは西の森で採れたリンゴの蜂蜜でございます。どうぞお召し上がりくださいませ」
笑顔を作りながら、差し出した手土産を見る。
平民のキンバリーが貴族に御目通りをお願いする手土産としては、一番いいと思うものを持ってきた。
自分はなんでここにいるのだろう。
家族には、たまには都会で服を買いたいと言って出てきたのだが、本心は違った。
噂に聞くコーベット夫人のお屋敷を見たら家に帰ろう、平民の自分が突然押しかけたところで無下に追い返されるだろうと思いつつも、一着しか持っていない外出用ドレスを着て、手土産を鞄に入れて家を出た。
そのはずだったのに、何故、お屋敷の呼鈴を鳴らしてしまったのだろうか。
とんでもない事をしてしまったに今やっと気がつき、自分の行動力を恨めしく思う。
お土産に持ってきた蜂蜜なんて、本当はたいして珍しいものでもないだろうが、コーベット未亡人は嬉しそうに手に取った。
「まあ!なんて素敵なお土産なんでしょう。林檎の蜂蜜は紅茶にピッタリで、私のお気に入りなんですよ。それから、これは西の森周辺の特産品のレース編みですわね。このレースのハンカチ、なかなか手に入りませんのよ。キンバリー嬢がお作りになったの?」
「はい。我が家は、宿屋と養蚕業を営んでおりますので、レース編みは家業でございます」
「素敵なお土産だわ。ありがとう。ところで、何かご相談があるとか。何故、私のところに?」
キンバリーは少し下を向いた後、意を決して話し出した。
「どんな願いも叶えられると噂で聞いたもので」
真剣な顔のキンバリーを見て、コーベット未亡人はコロコロと笑う。
「私はただの未亡人。カボチャを馬車に変えたり、人魚に脚をあげたりするような特別な力はございませんわ。叶えてあげられる願いはたかがしれております。その噂はどちらで?」
「我が家は西の森入り口で宿屋「ゴードン」を営んでおりまして、ある時いらっしゃったお客様が、サンディー男爵令嬢とゴルボット子爵のお話をしておりましたのを伺いました」
「まあ!またその噂話ですの?聞いて呆れますわね。ところで、宿屋ゴードンは、それはそれは料理が美味しいと伺いましたわ。貴族向けの宿屋ではないにも関わらず、お忍びで訪れる方も多いとか」
「お褒め頂き有難うございます」
先ほどより更に緊張した表情をするキンバリーにコーベット未亡人は、紅茶を勧めた。
キンバリーは、見たこともない上等なティーカップに驚きつつ、芳醇な匂いに心奪われる。
「いい香り」
独り言のように呟いて一口飲む。
「この紅茶、リラックス効果がありますのよ。私に奇跡は起こせないけれど、お話を聞くことならできますわ。キンバリー嬢はきっと心配事があるのね。だから、不確かな噂話を信じてここまでいらっしゃったんだわ。もしよかったら、何に悩んでいるのか話してくださらない?」
「…実は、好きな人のことなんです」
キンバリーが住んでいるのは王都の西側に位置するチャーチー地区モントル町。
西の森に隣接した地域で、生家である宿屋「ゴードン」は、森の入り口にある。
小さな町だが、行商人の宿場町として発展してきたので、それなり栄えており、人の往来もかなりある。
「私の家は町外れなんです。学校に通う時も、みんなと別れてから、林道を15分歩かないとつきません。そんなある時、朝呼びにきてくれる子が現れたんです」
同じクラスで、雑貨屋の次男であるアレクが、1人で林道を往来するキンバリーを送り迎えしてくれるようになった。
アレクは運動神経が良く、将来は王都の警ら隊にでも入るのではと噂されるくらいだった。
平民にとって、警ら隊は花形の職業で、地域の自警団とは違い、実力があれば要人警護の仕事だってつける。
「毎日、朝迎えにきてくれて、学校に着いたら、それぞれの友達と過ごすのですが、帰りはまた一緒に帰るんです。2人で歩きながら、いろいろな事をお喋りしました」
雨の日も、雪が降っても、アレクは毎朝迎えにきてくれた。
しかも、時には家畜の世話なども手伝ってくれる。
それが中等部卒業まで続いた。
「中等部を卒業すると、職業に特化した学校に行く人が多いんです。お針子になりたければ、服飾を学ぶし、家が何かしらのお店を営んでいれば商業の学校に行きます。私は商業の学校に行きました」
「素敵な選択肢ね。アレクさんはどうしたのかしら?」
「アレクは騎士学校に行くのかと思っていたのですが、進路を決める直前に我が家に来て、父に『私との交際を認めてほしい。このまま地域学校に一緒に進学するつもりだ』と言ったんです」
「まあ!キンバリー嬢はまだ告白されていなかったんでしょ?」
「はい。父の前で、『真剣だから先に交際の許可を取りたい』と言ったんです」
「まるで高尚な騎士のような方ね」
コーベット未亡人の声は夢を見ているようにうっとりとしていた。
「ええ。すごくまっすぐな人なんです。でも、父が出した条件は、『能力の高いアレクは騎士学校に行き、卒業した後、それでも私との将来を希望するなら、また来なさい』というものでした」
キンバリーの父は、アレクの両親が騎士学校に進学させたいと思っていたのを知っていたし、その能力があるのもわかっていた。
一時の感情で将来を決めるより、騎士の特性が高いアレクは広い視野で物事を見極めてから、それでもキンバリーがいいと思ったら求婚しに来るはずだと思ったらしい。
卒業後、キンバリーは商業系の地域学校、アレクは奨学金を貰い騎士学校に進学をした。
騎士学校は身分関係なく入学できるため、貴族の子息も多い。
全寮制だが、長期の休みは家に帰れる。
しかし、アレクは戻ってこなかった。
実家の雑貨屋への連絡もない。
こちらから送った手紙も返信はなかった。
地域学校を1年で卒業したキンバリーは、町の役所で働き出した。
それを伝えるために手紙を出すが、やはり返事はない。
騎士学校は3年で卒業する。
卒業式くらいは連絡があるのかと思ったが、実家の雑貨屋にも連絡は無い。
アレクは故郷を忘れて洗練された世界に身を置くようになり、自分のことも忘れてしまったんだろうと思うようになった。
「20歳になり、アレクの事を忘れようと思い、お見合いを決意したんです」
「待つだけほど辛いものはありませんものね」
お見合い相手を探し始めた時、アレクが突然帰ってきた。
大きな薔薇の花束を抱えて、キンバリーを訪ねてきたのだ。
「会いたかった」と言うアレクを見て、あまりの変わりっぷりに驚いてしまった。
5年ぶりに会うアレクは、舞台俳優と勘違いしてしまうくらいの端正な顔立ちに、鍛え上げられた体をしており、キンバリーは何も変わっていない自分を恨めしく思った。
アレクは「お父さんに会わせてほしい」と言ったけど、父は会うことはしなかった。
騎士学校の最中も卒業してからも、なんの連絡もしてこないアレクを信用できないと父は言うのだ。
でも、アレクは自分の力で家を借り、自警団に入った。
朝早く起きて家畜の世話を手伝ってくれてから、自警団の詰め所に向かう日々。
3ヶ月も経つと、父は少しずつ認め始めた。
「私はすごく嬉しかったんです。5年間の間に何があろうと、アレクが戻ってきてくれたので」
はにかむような笑顔で話すキンバリーは、輝いて見える。
「幸せそうね」
キンバリーは自分を落ち着けるように紅茶を一口飲む。
「幸せでした。でも、3日前に恐れていたことが起きてしまったんです」
「恐れていた事?」
「侍従を従えた貴族のご令嬢がゴードンに来ました。アレクを探しに来たそうです。綺麗で華奢な人で、シャーリーン・ノードス男爵令嬢様だと名乗り、驚く事を言いました」
「どのような事なの?」
「第ニ騎士団に所属していたアレクと恋仲だったが、周囲から強く反対されたせいでアレクは失望して騎士団を辞めて消息不明になったと」
「知らない人が突然訪ねてきて、そう言われたらショックを受けるわね」
一緒に悲しんでくれているように、優しく頷く。
「アレクからは、交際の申し込みも結婚の申し込みも受けていません。今までどう過ごしていたのかも聞いていなかったんです。だから、次の日、ノードス男爵令嬢様の事を、意を決して聞きました」
「聞くのも勇気が必要だったでしょう」
「アレクは、今まで何をしていたのかは答えられない。男爵令嬢なんて知らないと言ったんです」
「好きな騎士団員の追っかけをして、勘違いをするご令嬢がいつの時代も絶えませんのよ。そういった類のご令嬢かしら?」
「いえ。アレクの反応がおかしかったので、知っている人なのは確かだと思います。私は、真実を知るのが怖くて、それ以上何も聞けませんでした」
キンバリーはゆっくりと息を吸い、両手をぎゅっと握った。
「5年の間に何があったのかはわかりません。でも、あんなに綺麗な女性が訪ねてきて…。アレクは、家畜の世話や畑仕事をせずに、騎士団に戻った方がいいと思うんです。それに…」
しばらく沈黙が続いた。
言葉が詰まって言い出せないキンバリーに、コーベット未亡人は陶器のポットを差し出した。
「ゆっくりでいいのよ。でも、言いたくても言葉に詰まるのなら、このポットに気持ちを封印してしまいなさい。蓋を開けて、囁いてみるの。それから蓋を閉じるのよ」
穏やかな口調にキンバリーは頷き、ポットを受け取った。
蓋を取ると、心の内を絞り出すように話を続ける。
昨日、地区長から、今年の秋祭の女神役はキンバリーに、先導役はアレクに決まったと聞かされた。
この役は、結婚間近の男女が務めるもので、キンバリーとアレクは半年後に結婚するから2人に決まったと言う。
交際すらしていないのに驚いていると、アレクの両親とキンバリーの両親が、2人の婚約を決めたからだそうだ。
「幼馴染の2人が結婚するとはめでたい。今年は20年に一度の彗星が訪れる年だ。この年の祭りの主役を務める夫婦は幸せになると言われているのだよ」
地区長はそういった後、嬉しそうに帰って行った。
「親同士が決めた婚約を解消したいんです。あんなに美人な恋人がいるのなら、私では分不相応で。だから、婚約を破棄してほしいんです」
好きな男性に、街に戻って騎士団に復帰した方がいいとは言えない。
あんなに美しい恋人がいたのなら、私のことなんて今更好きになってくれるはずがない。
それなのに婚約者になってしまった。
でも自分から婚約を白紙にしてと言う勇気がない。
一方通行の気持ちだとしても…。
「でも…。休みの日に一緒にピクニックをしたり。毎朝、牛や羊の世話をしてアレクにお弁当を渡して。そんな生活がずっと続けばいいと思っている自分もいるんです。アレクから婚約を破棄してくれれば、この気持ちに区切りをつけられるかもしれない」
ここまで言い終わると、ゆっくりとポットに蓋をした。
そっとテーブルに置くと、深呼吸をして泣きそうな顔を取り繕う。
好きな人と結婚したいという気持ちもあるし、反面、愛情を向けられていないという悲しみもある。
それでもいいからそばにいて欲しいという願望と、冷めた結婚生活は嫌だという気持ちと。
自分の感情に振り回されて曇った表情のキンバリーに、コーベット未亡人は優しくお茶を勧めた。
キンバリーはティーカップを手に取り、全部の気持ちを飲み込むかのように、紅茶を飲み干す。
空になったカップに視線を落とすと、底に星空が描かれていることに気がつく。
「綺麗な星空ってご覧になった事がおありかしら?高い山に登ると、同じ空のはずなのに沢山の星が見えると伺いましたわ」
感情の波に飲まれそうになっていたキンバリーは、他の事を考えて気持ちを切り替えようと、宿屋から見える星空を思い出す。
「山に登らなくても、チャーチー地区は家が少ないので、王都より沢山の星が見えますよ」
「ここにいたら、街の灯りで、星の光が届きませんのよ。沢山の星があるはずなのに、強く光る星しか見えない」
コーベット未亡人は壁の方を向いたので、キンバリーも同じ方を見る。
そこには天体図が貼られていたが、まるで本物の星空のようにキラキラと輝いている。
「夜空には沢山の星座があるけど、それぞれに違う物語があって。高地に行くと隙間がないくらい星が瞬いているのに、ここでは光の強い星しか見えなくて」
その言葉で、天体図が瞬いたように見えた。
「私がこの天体図の中にある星だとしたら、どの星かしら?きっと、名前のついていない星なのでしょうね。でも、キンバリー嬢のように私を知ってくださる人もいますのよ?」
フフフと笑う穏やかな声に、キンバリーも笑った。
「私はあまり人には見つけてもらえない星なのかもしれません」
森の入り口で小さな宿屋を家族で営んでいるので、来るのはごく一部の人だ。
「人に見つけてもらえる星はごくわずかですわ。大半の星は沢山の星空の中に埋もれて気がついてもらえたのか、もらえなかったのか、わからないまま過ごすのでしょう」
コーベット未亡人は、夢見るような声でゆっくりと話した後、キンバリーの方を向いた。
「私もあなたも、沢山の星の一つにすぎませんのよ。見つけられなくて当然ですわ。さあ、この天体図はキンバリー嬢にプレゼントいたします。夜が明けたら、きっといいことがありますわよ」
天体図の夜が明けるとはどのような意味なのか、考えたがわからなかった。
「チャーチー地区行きの乗り合い馬車にお乗りになられるなら、そろそろお帰りになったほうがいいわ。親切心が発揮される時間帯ですしね」
フフフと笑うコーベット未亡人が言った、親切心が発揮される時間帯という意味がわからなかった。
「お話を聞いていただいて、少しだけ気持ちが晴れました」
立ち上がると、筒状に丸められた天体図をお土産に渡された。
貴族のお屋敷にあるものはきっと高級品に違いないと辞退したが、量産品で書店でも買えるものだから、受け取って欲しいと言われ、頂いて外に出る。
外はいつのまにか曇っており、風が冷たい。
秋が始まったばかりなので、薄着で王都の中心部まで来たが、寒く感じる。
羽織るものを持ってこようにも、街中に出てくるようなコートは持ち合わせていないから仕方がない。
街行く人達は、薄手のコートを羽織っている。
早く停留所に行こう。
待合室は扉があり、風を遮ることができるから寒さを凌げる。
近道をするために、公園を抜ける事にした。
公園では蚤の市が開催されており、沢山の露店が並んでいたが、急に冷えてきたせいで店じまいをしている人が多くいた。
それでも開いている店をチラチラと見ながら進んで行くと、目の前を大きな古めかしい旅行鞄を持って、ヨタヨタと歩く女性がいる。
どさっとベンチに座り込み、肩で息をしているのでキンバリーは声をかけた。
「あの、荷物重そうですけど大丈夫ですか?もしよかったらお持ちしますよ?」
女性はしんどそうに下を向いたまま、「ご親切にありがとうございます」と答えて、こちらを向いた。
「私、力自慢なんです。もしよかったら、運びますよ?」
前屈みになり、目を合わせて笑顔で話すキンバリーを見て、女性はにっこり笑った。
50代くらいの、穏やかそうな人だった。
「若いお嬢さん、優しいのね」
優しい笑顔にキンバリーも微笑み返し、大きな鞄を持ち上げた。
「これを何処に運べばいいんですか?」
「今日の売れ残りを、この先の廃品回収に持ち込むのよ。娘のドレスを捨てるのは気が引けるけど」
女性は2日後に、親戚が住む港町に引っ越しをするそうで、家にある不用品を蚤の市で売る事にしたそうだ。
家財道具などは売れたが、去年嫁いだ娘さんの服が売れ残ってしまった。
「勿体無いですね」
「そうでしょう?ってあら!貴女、もしかして、既製品の洋服のサイズでピッタリなのが見つけられないんじゃない?」
「サイズが合うとか、合わないとか。よくわからないです」
「貴女のドレス、ウエスト部分の生地が余っているでしょう?それでスタイルが悪く見えるのよ。試しに、娘のコートを羽織ってみて?」
鞄を開け、ワインレッドのコートを出されたので、袖を通してみた。
そして、すぐ側にある、まだ店じまいしていない古着の露店の鏡を見る。
少し離れた位置にいるため、鏡には全身が映っていた。
「すごく痩せて見えるわ」
驚いていると、女性は嬉しそうにこちらを見ている。
「娘のコート、お嬢さんの体型にピッタリよ」
女性の言葉に、鏡を設置している露店の店主が顔を出す。
「あら!そのコート、リリーちゃんの物じゃない?この娘さんに良く似合ってる!」
露店の店主が話しかけてきた。
2人は友人のようだった。
「リリーが隣国に嫁いで、服だけが残って。でも、捨てるのは忍びなくてね。このお嬢さんみたいな人が着てくれると嬉しいのだけど」
女性の言葉に店主は賛同した。
「お嬢さんは、胸とお尻が大きいのに、ウエストが細いのよ。既製品の服だと、お尻や胸に合わせて選ぶでしょう?体型と服が合っていなくて太って見えるの」
見栄を張って普通サイズのドレスを買い、上から着ると胸が入らない、ファスナータイプだとお尻が閉まらないと、何度失敗したかわからない。
最近では諦めて、大きなサイズのドレスを買っていたのだ。
捨てる予定だった服をもらってくれるなら嬉しいと言うので、ありがたく頂くことにした。
「こんなに沢山もらっていいんですか?」
「もちろんよ。貴女が貰ってくれないなら、この洋服は捨てるしかないもの。娘の服を作っていたのは、お針子である私なのよ。だから、着てくれる人がいるのは本当に嬉しいわ」
結局、鞄ごと全部を頂くことになり、キンバリーは大荷物を抱えて家に帰った。
見た事のないワインレッドのコートを羽織り、大きな荷物を抱えて帰ってきたキンバリーを見て家族は驚いたが、捨てる予定だった服を貰った経緯を説明する。
「さすが王都のお針子の仕事ね。仕立てがいいわ」
母は頂いてきたドレスを見て驚く。
新品同様に手入れされた沢山のドレスは、どれも仕立てが良くデザインがオシャレだ。
「下級貴族のお嬢様の払い下げの服だと言われても信じてしまうわね」
ドレスはクローゼットに仕舞い、コーベット未亡人から頂いた天体図は自室の壁に貼った。
次の日からまたいつもの日常が戻ったが、秋祭りの衣装は自分で用意しなければならない。
秋祭りの話を聞いた後も、アレクの態度は変わらなかった。
早朝、牧場の仕事を手伝ってくれて、それから自警団の事務所に向かっている。
もしかしたら、親達の顔を立てて婚約を受けたけど、秋祭りが終わってから婚約破棄するつもりなのかもしれない。
そうなると、秋祭りの直後に婚約破棄の噂が町中に広がる。
今なら、秋祭りの配役が発表されていないから、婚約破棄についての噂はそんなに流れないだろう。
でも祭りの後だとしたら…。
婚約破棄の噂のせいで、町にはいられなくなる。
でも、自分から婚約破棄は言い出せなかった。
自分にできることは、祭りの衣装を用意する事と、奉納の舞の練習をする事だけ。
練習の合間に、母に手伝ってもらい秋祭りの女神の衣装を縫った。
慣れない針仕事に苦戦したが、なんとか衣装が仕上がったのは祭りの前日。
生成りのドレスを袋に入れて急いで準備小屋に向かう。
教会の敷地内にある準備小屋には、祭りの道具が所狭しと置かれていて、地区長や関係者が準備をしていた。
出来上がった衣装を納めた後、日が暮れた町を歩く。
観光客で賑わう町は、活気があり、飲食店からは笑い声が聞こえていた。
町の喧騒から離れて家に帰ると、チェックインのお客様が列をなしていた。
手伝おうとすると、「女神役は、午後8時から、お祭りの開始まで誰にも顔を見られてはならないのよ。だから、自室で過ごさなきゃ」母に言われて、その事を思い出し、急いで夕飯を食べると自室に篭る。
昔は、教会の祈りの間に篭ったそうだが、夜中に1人で祈りの間にいるのを怖がる人が多く、いつの頃からか夜は自室に篭るルールになった。
しかも、朝8時までは、誰とも会話してはならない。
この時期は星空が綺麗なので、夜になっても宿泊客が外にいる事が多いから、外から話し声が聞こえる。
人に見られないため、カーテンを閉めて、ベッドに腰掛け、何気なく天体図を見る。
やっぱり、星が瞬いて見えるので、じっと見ていると不思議な事に気がついた。
20年に一度訪れるという彗星が描かれており、尾が揺らいで見える。
この天体図、もしかして動いている?
そんなはずないわ。絵だもの。
外からは、「流れ星!」と言う大人の声が聞こえ、「本当だ!」と子供の声が聞こえた。
おかしなことに、外で星を眺めている宿泊客の歓声と同時に、天体図の中にも流れ星が現れる。
もしかして、これ、今の空を表しているのかしら?
時間を忘れて天体図を眺めた。
いつのまにかモヤモヤとした気持ちが晴れて、『明日はアレクの婚約者として楽しもう。その後、アレクから婚約破棄を告げられるのはやっぱり辛いから、町を出る準備をしよう』と考えが纏まり、頂いた古めかしいスーツケースに洋服を詰めた。
一生の思い出として自分の胸に仕舞おう。そう考えながら天体図を見ていたら、いつのまにか眠っていた。
ゆっくりと目を覚まし、まず天体図を見て驚いた。
天体図が夜明けを迎えていたのだ。
「嘘!天体図に太陽が出ている」
驚いていると、ノックの音が聞こえた。
急いで身支度をする。
衣装に着替えるまでは、誰にも見られないように頭から足まで隠れるフード付きのマントを着て、ベールを被るのだが、マントの下は何を着てもいい。
だから、頂いたドレスの中から紅葉を思わせるオレンジ色のドレスを選んだ。
紅葉色のドレスは、秋の神様にピッタリだし、どの服よりも輝いて見えた。
馬車に乗って、教会に向かいマントとベールを被ったまま、祈りの間に入った。
12時になったら、預けておいた女神の衣装が届けられる予定だ。
お祈りをしていると、ノックの音がして、修道女が入ってきた。
「キンバリー嬢、12時ちょっと前ですが、身支度をしましょう」
修道女に促されて、ベールを取るとヘアメイクが始まった。
手際よく、身支度を終えて、またベールを被ると、12時を超えたところだった。
「司祭様からの許可が出るまではベールは外さないでくださいね」
修道女はそう言って祈りの間を出て行った。
12時半を過ぎた頃だった。
緊迫した沢山の人の声が聞こえる。
どうしたのかしら?
そっと扉を開けると、「祭りの準備小屋に魔物が入り込んだようです。ここは安全です。みなさん落ち着いて」と叫ぶ、司祭様の声が聞こえた。
驚いて部屋を出て、講堂を抜け正面の出入り口を目指すが、沢山の人が押し寄せる。
パニック寸前の人を掻き分けて、なんとか外に出た。
「魔物がいるかもしれない!早く、教会の中へ」誘導する声や、パニックになっている人の声で何が何だかわからない。
そんな無秩序になりかけている群衆を、観光で訪れたであろう行商人達が、地区長やアレクと共に誘導をしていた。
「キンバリーは出てくるんじゃない」
アレクが叫ぶが、逃げる人の誘導を手伝うのが先だ。
それに、自分で作った女神の衣装などの、秋祭りの行列で使う物がどうなっているのか気になる。
この日だけは、アレクの婚約者として幸せに浸れると思ったのに…上手くはいかないわね。
全員が避難を終えたところで、行商人のマントを着た10人程度の一団とアレクが話し合いを始めた。
そして、すぐに5人が倉庫の中に入っていく。
準備小屋は、倉庫を兼ねており意外と広い。
固唾を飲んで見守っていると、中から声が聞こえてきた。
「中に魔物はいない。倉庫の裏側の窓が割れていて、そこから逃げたようだ」
「昨日の夜の出来事みたいです。荒らされてから時間が経っている。もう遠くに逃げたでしょうから安全ですよ」
それを聞いて、安心した司祭様が教会の扉を全開にした。
避難していた人たちは安堵の声を出す。
「ここまで魔物がやってくるなんて滅多にないのに」
「お祭りの日なのにね」
「被害が無くてよかったわ」
皆が安心して、外に出る。
しかし、お祭りの関係者とアレクが準備小屋の前で私を呼んだ。
「キンバリー、残念だが今年の秋祭りの女神の行列は無理かもしれない。準備小屋の中を…」
言われて中を見て驚く。
女神の衣装も先導役の衣装も、行列に使う物が、魔物の足跡でぐちゃぐちゃになっていた。
私が声を上げる前に、「まあ!これは大変!」と、女性の声が聞こえたので、準備小屋の前にいた全員が振り返る。
そこには、シャーリーン・ノードス男爵令嬢が立っていた。
「シャーリーン様、お久しぶりでございます」
アレクが親しげな声色で騎士の礼をした。
「皆様、ごきげんよう。これは酷い有様ですわね」
同情しているような声を出して、アレクの腕を掴み、寄り添うように顔を覗き込む。
「シャーリーン様が胸を痛める必要はありませんよ」
アレクが、困ったような顔で笑うのを見て、胸が痛くなった。
2人は本当に親しげだ。
「シャーリーン嬢、君も秋祭りに来たんだね」
行商人のマントを着た男性が、話しかけると、シャーリーン嬢はアレクの後ろに隠れる。
「あなた誰?私は、ノードス男爵令嬢ですわ。初対面なのに、名前で呼ぶのは、マナー違反ですわ」
怖がっているような口調で話しているが、平民に名前で呼ばれて、多分怒っているのだろう。
その様子を見て、行商人のマントの一団が、全員フードを外すと、シャーリーン嬢は驚いた顔をする。
「まあ!第二騎士団、第五小隊長ヤンセン様でしたのね。それから、他の方も全員、第五小隊の方。知らない方が親しげに話しかけてきたのかもと思って怖い思いをしましたわ」
行商人ではなく、騎士団の人だから、皆をテキパキと誘導できたんだわ。
「君の従兄弟のリッツは、今日は一緒じゃないの?」
小隊長が質問する。
「リッツ兄様とは別行動ですわ。従兄妹ですもの。いつも一緒ではありませんわ。でも、ここで待ち合わせをしておりますの」
「へぇ…?じゃあ、リッツが今どこにいるのか知らないの?」
「存じ上げませんわ」
困ったような顔をしているが、媚びているようにも見える。
「ふーん。今、近づいてくる荷馬車は知らないんだね?」
小隊長の視線の先を見ると、頑丈な荷馬車が目の前に停車した。
荷馬車から降りてきたのは、2人の行商人のマントを羽織った男性と、後ろ手に拘束された貴族服の男性だ。
貴族服の男性は納得いかないのか、抵抗している。
「私はたまたま魔物を捕まえたから、輸送しようと檻に入れて荷馬車に積み込んだんです。誤解です!」
貴族服の男性がヤンセン小隊長に訴える。
魔物を輸送するための荷馬車のようで、中にはこの地域に生息するはずのない魔物が載せられていた。
これが、準備小屋を荒らした魔物らしい。
「リッツ兄様!」
シャーリーン嬢の顔色が変わる。
「リッツ・ブランソン伯爵令息、君も騎士団に所属しながら、魔物を使って祭りを中止に追い込もうとした理由を教えて欲しい。君のした事はこれだけじゃない事はわかっているけどね」
荷馬車から降ろされたのは、役所で働くカールだった。
小さな町なので複数の仕事を兼任しており、出納係と郵便係をしている。
「ここにいるカールは、リッツ・ブランソン伯爵令息から賄賂を貰い、5年にわたって王都からアレクが送る郵便を破棄していたんだ。同じく、キンバリー嬢や、アレクの実家からの、手紙も破棄していた」
「アレクが戻るまでは、何の連絡もありませんでした。でも手紙を破棄して何の意味があるんですか?」
キンバリーの質問に小隊長は話を続ける。
「そもそも、事の発端は、ブランソン伯爵領で有能な騎士をずっと探していた事にある。騎士学校に入学する貴族ではない学生を誘っていたな?今まで沢山の学生を誘っていたのは知っている」
「確かに誘いましたよ?それは、私だけではない。アレクは多分、多くの貴族から声をかけられたはずだ」
リッツ・ブランソン伯爵令息は冤罪だという態度を崩さない。
しかし、小隊長はそれを無視して話を続ける。
説明によると、ブランソン伯爵領に来てもらうため、特に優秀な学生には、親戚筋の貴族女性との結婚を斡旋して貴族の親戚にして、伯爵領に留まらせる事をしていたようだ。
アレクは入学した時の成績がすこぶるよく、初めから目をつけられていた。
アレクに伯爵領に来てもらうには、ここモントル町を忘れてもらわないといけない。
もちろん、キンバリーの事も。
だから、モントル町から送られるアレクの手紙も、アレクから送られるモントル町行きの手紙も、この町の郵便局で破棄されていた。
学生時代の休みも、ブランソン伯爵領に招待をしていたようで、平民は貴族からの誘いは断れないから地元に帰れないようにしていたようだ。
そうやって学生時代にブランソン伯爵領に来ていたアレクを見たシャーリーン・ノードス男爵令嬢は、アレクを好きになり、伯爵の後押しもあって、恋人のように振る舞うようになったようだ。
その後、卒業して騎士団に所属したアレクは、たまたまモントル町の人に出会い、キンバリーや両親が沢山の手紙を送ってくれていたことや、自分が送った手紙が届いていない事を知った。
しかも、キンバリーがお見合いをすると聞かされ、騎士団に休職願を出して、急遽戻ってきた。
戻ってからは自警団の仕事をしながら、沢山の手紙はどこに消えたのか、他にも手紙が消えてないのか、調査していたらしい。
「秋祭りを妨害したのは、キンバリー嬢とアレクを婚約させないためなのはわかっている。ところで、ここチャーチー地区を治めているのは誰だか知っているか?」
ヤンセン小隊長がリッツ・ブランソン伯爵令息に聞く。
「知らない。知るはずないだろう?単なる田舎町だ」
「座学の成績が悪いと肝心なところでヘマをやらかすんだね。西の森まで続くこの地区は、貴重な魔草が多いから保護地区になっていてね。エリーヌ王女殿下の領地なんだよ。そこに魔物を持ち込んで、妨害行為を行ったとなったらどうなることか!」
「俺が悪いんじゃない!シャーリーンに言われてやったんだ!」
言い訳がましく叫ぶリッツ・ブランソン伯爵令息が荷馬車に押し込められる。
大きな声だが、ここは広場から見えにくい位置なのと、広場が音で溢れているため、誰にも気づかれていない。
「私は、何も知らないわ!部外者よ。それに、アレクと恋人だったのよ?お休みの日は、湖で2人でボートに乗ったり、王都では買い物デートをしたり。ね?アレク」
「俺はリッツ・ブランソン伯爵令息からの依頼で、護衛としてそばにいただけです」
シャーリーン嬢の言葉を、アレクは否定した。
「キンバリー・ゴードンの何がいいのよ!太っているし、単なる田舎の芋娘じゃない!」
シャーリーン嬢がわめき散らす。
「私のことが気に食わないからと言って、秋祭りを妨害するのはやりすぎです。土地の神様を怒らせたらどうするのですか」
キンバリーは、怒りを抑えて言うと、「その通りです」と後ろから声が聞こえた。
振り返ると、肖像画そのもののエリーヌ王女殿下が立っていた。
「私の領地を荒らした上、大切な儀式の邪魔をしようとしましたね。この領地の魔草は特別なのです。ですから、妨害をされてもしも魔草が育たなかったら、国として大打撃を受けます」
穏やかな口調からは怒りが滲み出ていた。
「しかも、カールと結託してチャーチー地区の税金も横領して、自分の領地のために使っていた。小さい地区の割に税収と交付金が多いから、少しくらい横領してもバレないと思っていましたね」
カールと、シャーリーン嬢とブランソン伯爵令息が拘束されて連れていかれる。
「これで懸念材料は無くなりましたね」
「でも衣装が…」
「神様は服で判断するわけではないわ。気持ちが大切なのです」
「私が、神様に相応しいと感じた服ならなんでもいいのですか?」
「ええ。その通りですわ」
王女殿下の笑顔を見て、キンバリーは自分の思った事を信じることにした。
「実は、先日頂いたドレスがこの日にピッタリだと思ってマントの下に着ているんです」
マントを脱ぐと、王女殿下は驚いた顔をした。
「そのドレスは、わたくしの世話係だった侍女の物ですわ。彼女が聖歌隊に入った時着ていたドレスですわ。あの時、酔っ払い客にワインを溢されて」
王女殿下はフフと思い出し笑いをする。
「スカートの裾に目立たないけど赤ワインのシミがあるでしょう?」
裾を見ると確かにシミがある。
「5年前の懐かしい思い出ですわ。彼女は、胸とお尻が大きな、女性なら誰でも憧れるような体型でしたわ。その彼女のドレスがピッタリな貴女の体型に憧れますわね」
王女殿下は可愛らしくウインクをする。
「さあ、お祭りを始めましょう」
エリーヌ王女殿下が女神行列を先導する豪華な馬車に乗り込んだ。
子供の頃から見てきた先導の馬車に、王女殿下が乗っていた事を初めて知り驚く。
「今まで王女殿下様は毎年お祭りにいらっしゃっていたんですね」
独り言を呟くと、アレクが頷いた。
「行商人に扮した騎士団が毎年お祭りに来ているのはそのためなんだよ。警護のためにね」
アレクが騎士団の制服を着て、予定通り女神行列が始まった。
「今年の女神様は、素敵なオレンジの衣装だわ」
「綺麗!」
沿道から沢山の人が手を振ってくれた。
毎年の生成りの衣装ではないけれど、秋らしいオレンジの衣装に身を包んだ女神役のキンバリーを皆は憧れの眼差しで見る。
終点である湖に辿り着き奉納の舞を披露すると、湖面が鏡のようになり、しんと静まり返る。
「来年も豊作だ」
司祭様の一言で歓声が上がった。
これまでアレクから手紙が届かなかった理由が判明したし、今現在も騎士団に所属していて休職中である事がわかった。
アレクは手紙が紛失している謎を追っていただけだったのね。
そのアレクは逮捕者の後処理があるらしく、行商人に扮した騎士団員達とどこかに行ってしまった。
キンバリーは湖の広場で歌って踊る群衆を眺めながら、今から自分がどうするべきか考える。
やっぱりこの町を出よう。
そう決意するけれど、この場には相応しくない気持ちなので、顔は笑顔を作る。
「キンバリー、貴女ってすごいスタイルが良かったのね」
「いつも体に合わない服を着ているから、ウエストがそんなに細いなんて思わなかったわ」
友人たちが話しかけてくれる。
「ねぇ、アレクからプロポーズは?」
努めて笑顔を作ってはいるが、「ない」とは言えずに首を横に振る。
「まだなの?」
驚いた友人達の反応で、色々な人にこの事が知れ渡ってしまった。
「アレクとは、本当に何もないの?」
「うん。…手を繋いだ事もないわ」
「休みの日に2人で遠乗りに出かけたりしてるじゃない!」
あれは親友の延長みたいな物だもの。
「じゃあ俺にもチャンスがあるって事?キンバリーがこんな美人でスタイルがいいとは知らなかった」
普段は薄化粧でダブダブの服を着ていたので、そのギャップで沢山の男性が魅了されていた。
この後、会場にいる沢山の男性達からデートに誘われてキンバリーが戸惑っていると、そこにアレクが戻ってきた。
「なんでこんなにキンバリーの周りに人だかりが?」
驚いているアレクに友人の1人が言う。
「アレクがプロポーズもしていないって聞いたから、みんなキンバリーを口説きにかかってるんだよ」
人混みを掻き分けて、アレクがキンバリーの元に来る。
「これから、清めの儀があるって司祭様が呼んでいるから行こう」
広場から馬車に乗り、神殿まで向かう。
神殿で祈りを捧げて、お祭りは終わった。
湖畔の広場に戻ると、見物客はもう誰もいなくて、アレクと2人きりだった。
「キンバリーに伝えたい事があるんだ」
いよいよ、両親が結んだ結婚をなかった事にしてほしいと言われるのかと覚悟を決める。
「結婚してください」
「え?」
予想と違って驚いてしまう。
「君が僕を忘れてお見合いをするって聞いて戻ってきたけど、綺麗になった君を見たら言い出せなくなったんだ。自分に自信が無かったから」
「私は野暮ったい田舎娘よ?」
「そんなことはないよ。君が綺麗だから、今日も沢山の男がキンバリーに夢中になる。こんなに魅力的だから」
「ありがとう。お世辞でも嬉しい。両家が結婚を決めたから、したがってくれるのね」
アレクの表情が変わる。
「昔からずっと、キンバリーが好きだよ」
アレクは跪いて、指輪ケースを出して開いてくれた。
綺麗なブルーサファイアが輝く。
「僕と結婚してくれませんか?」
「はい」
キンバリーの返事と共に、一瞬雨が降り、湖が光り輝くと同時に虹が空を彩った。
薄暗くなっていく空に彗星が輝いていた。




