普通の冒険者とトコトコ歩く木
地図に従って鬱蒼と生い茂る藪を抜けると、ちょっとした広場が見えて来る。
「……いたぞ」
広場の入口の藪でしゃがんだウィルが、隣で息を潜めるようにしゃがんでいるメイプルに話しかける。
「メイプル、あれがマグの実が成るホトの木だよ」
そう言ってウィルは、広場の真ん中に鎮座している一本の樹木を指差す。
大きさは子供の背丈程度、幹の太さは人の胴ほどで、全体的にスリムな出で立ちをしているが、人の頭に当たる樹冠だけが肥大化しており、生い茂った葉の中にこぶし大の実が三つ付いていた。
「あれが……って、ええっ!?」
想像より小さな木を見て、メイプルはハッと息を飲む。
「に、兄さん、あの木……歩いていませんか?」
震える手でメイプルが指差す木は、地面に根を張らずにヒョコヒョコと軽快な足取りで歩いていた。
広場の中にある水溜りにまで歩いたホトの木は、水の中に足を入れてまるで一息つくように腰を下ろす。
「キュルル……」
樹冠から摩訶不思議な音を出すホトの木の近くには、同じように休んでいる木が二本あり、どちらも同じように水の中に根を入れて佇んでいる。
「な、なんだかリラックスしているように見えるんですけど、あれって何なんですか?」
「何ってホトの木と呼ばれる魔物だよ」
「魔物!? マグの実って魔物から採れるものなんですか?」
「そうだよ。だからアレについて知りたかったら、図書館じゃなくて冒険者ギルドを当たる必要があるんだよ」
「そう……だったんですね」
目から鱗が落ちたと謂わんばかりに大きく頷いたメイプルは、呑気に散歩している三体のホトの木を観察しながらウィルに質問する。
「それで、どうやってマグの実を採取するのですか?」
「採取方法は主に二つあるよ」
ウィルは指を立てながら採取方法を説明する。
「一つは戦闘を仕掛けて倒す方法、この方法のメリットは、一つの木から二、三個しか取れないマグの実を確実に採取できるけど、ホトの木は死んでしまうからスモークウッドのギルドでは推奨されていない」
「では、今回はもう一つの方法を取るということですね」
「そういうこと」
ニコリと頷いたウィルは、大きな布を取り出して広げて見せる。
「もう一つは、ああやって油断しているホトの木を脅かして怒らせる方法だ。びっくりして実を落として逃げればよし、もし怒って攻撃してきたら、飛ばされた実をこれでキャッチするんだ」
「なるほど……だから大きな布が必要なんですね」
「魔力の籠った実だから強い衝撃を与えれば爆発したりするけど、その時は全身果汁まみれになるだけだから安心していいよ」
そう言ってウィルは、大きな布をメイプルへ手渡す。
「ほら、脅かす役は俺がやるから。メイプルはみんなと一緒にキャッチする役な」
「わ、わかりました」
緊張した面持ちで布を広げるメイプルに「がんばれ」と一声かけて、ウィルは立ち上がって借り物の大盾を構える。
仲間たちの顔を見渡して準備が整っているのを確認したウィルは、
「ほらほら、人間様の登場だぞ!」
大声を上げながら、スチール制の大盾をガンガン、と激しく叩いて大きな音を出す。
「――っ!?」
突然の大きな音に、リラックスして休んでいた三体のホトの木が驚いたように飛び起きる。
「キュルキュル!」
ゴムを擦り合わせたような不思議な音を発しながら、最初に立ち上がったホトの木が頭を大きく振って、深緑色のトゲトゲの実を一つポンと飛ばす。
緩やかな弧を描いて飛んだ実は、真っ直ぐウィルに向かって飛んでいくが、
「フッ、させねぇよ」
彼に直撃するより早く、颯爽と割り込んできたロゼが実を布で包んでキャッチする。
「よし、まず一つ。ほら、メイプルも続け」
「は、はい!」
メイプルが前に出ると、さらに二つのマグの実が飛んでくるのが見える。
「わわっ、どっちを取れば……」
「右はわたくしが!」
どちらを取るべきか迷いを見せるメイプルに、リーリエが軽やかな身のこなしで右から飛んできたマグの実をキャッチする。
「残る一つはメイプルに任せましたわ」
「はい!」
メイプルは緩やかに飛んでくる深緑色をした実をしっかり見定め、大きく広げた布でしっかりキャッチする。
「――っ、取れた!」
「よくやった。次を取る前に、ロウガさんが持っているカゴに入れておくんだぞ」
「は、はい!」
笑みを零しながらロウガが手にしているカゴの中にマグの実を入れるメイプルを見て、ウィルも思わず笑みを零しながら仲間たちに声をかける。
「よし、残る実もしっかりいただいてお昼ご飯にしよう」
その一言に仲間たちは嬉々とした様子で応え、驚いたホトの木は残った実を次々とウィルたちに投げていった。




