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はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~  作者: さとう
第五章・孤独な蟲王バルタザール

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女神聖教七天使徒『醜悪』のバルタザール⑦/共感

 少年の持つスキルは、『昆虫精製』だった。

 小さな昆虫を生み出せるスキル。

 だが、口から吐き出すという制約が、少年の見た目と相成って醜悪さを増幅させていた。

 少年は、口から芋虫を吐き出した。

 納屋には、少年が生み出した昆虫がたくさんいた。

 人間は嫌いだけど、虫たちは少年を拒絶しない。


 でも、その日は突然やってきた。

 少年の住む納屋に、火が放たれたのだ。

 さらに、少年の身体がピクリとも動かない。

 食事に薬を盛られた。


 少年は知らなかった。

 少年の存在、醜悪さは、少年の住む村人たちが耐え切れないほどだった。

 だから、少年の両親は決意した。

 少年を殺す。

 初めから、いなかったことにする。


 誰も、反対しなかった。

 少年は、自らが生んだ蟲たちと一緒に、生きたまま焼かれた。

 納屋が燃え尽き、ただの黒い塊となった少年は、かすかに生きていた。


「………………ぁ」


 声は出ない。

 でも、感じていた。

 自分が生み出した芋虫も、ほんのわずかに動いていたのを。

 なぜ、こうなったのか。

 自分は、何をしたのか。

 生きたい。死にたくない。そう願った。

 そして───……。


 ◇◇◇◇◇



「おやおや? これはこれは、久しぶりの来客だねっ!」



 ◇◇◇◇◇


 少年は出会った。

 女神ピピーナに。

 女神ピピーナは言う。


「虫が好きなんだぁ~?」


 ピピーナは笑っていた。

 だが、その笑みは……馬鹿にするような笑みではない。

 少年の容姿を見ても嫌悪の一つも浮かべず、ただ笑っていた。

 少年は、思わず聞いた。


「き、き、気持ち悪く、ないの?」

「なんで?」

「だ、だって……ぼく、こんな見た目だし」

「あはは! 気持ち悪いわけないじゃん。見た目なんて関係ない。きみはきみでしょ? バルタザールくん!」

「あ……」

 

 名前を呼ばれた。

 ピピーナは、静かに両手を広げた。


「ここに来た子には、チートスキルを与えて生き返らせることにしてるの。で、きみはどんなスキルが欲しい? やっぱり虫?」

「……虫」


 虫になりたかった。

 ヒトではない。虫に、生まれ変わりたかった。


「生まれ変わりは無理かなぁ? でも、虫になれるスキルならあるよっ!」


 そうして、バルタザールはチートスキルを得た。

 もともと持っていた『昆虫精製』のレベルも限界まで上がっていた。

 生き返ったバルタザールは、故郷の村をあっさりと滅ぼした。

 そして、勧誘された。


「女神ピピーナ様に、会いたくない?」


 ピアソラに誘われ、バルタザールは『女神聖教』へ入った。

 もう一度、女神ピピーナに会いたい。

 お礼を言いたい。ただ、それだけのために。


 ◇◇◇◇◇


「気持ち悪くなんて、ない」

「え?」

「……ぇ」


 エルクはソアラに言った。

 バルタザールも、聞いていた。


「わたし、魔獣を食べたんだよ? 気持ち悪いでしょ……?」

「食える魔獣なんていくらでもいるだろ。オークとかめっちゃ美味いし」

「わたし、この牙で食い千切ったの」

「肉は食い千切って食うモンだろ」

「舌に、こんな刺青あるの。スキルを使うと浮かび上がってくるの」

「スキル使わないと普通なんだろ? じゃあ、いいじゃん」

「……エルク」

「俺は、気持ち悪いって思わない。それと……お前」

「……え?」


 エルクは念動力を使い、シャンデリアをバルタザールからどかす。

 バルタザールは気付いた。見た目ほど大きな怪我をしていない。エルクは手加減をしていたのだ。


「さっきの答えを言う。俺は、お前の顔……気持ち悪いなんて思わない」

「…………え」

「敵でも、人の顔見て笑ったり『気持ち悪い』なんて口にする男じゃないぞ、俺は」

「…………」

「大事なのは、顔なんかじゃないだろ」

「…………」


 エルクは笑った。

 バルタザールは、エルクの笑みが嘲笑うような、馬鹿にするような笑みではないことに気付く。この笑みは───……ピピーナと同じ、柔らかな微笑みだった。

 

「お前には悪意がない。俺を狙ったのも、女神聖教がそう言ったからだろ? 何となくだけどお前……虫が好きなだけだろ」

「……うん。でも、でも、ぼく……人間、殺した。かぞくを、殺した」

「償う気持ちがあるなら、王国に出頭しろよ。女神聖教の情報を全て話せ」

「…………」

「で、全部話したら……学校に来いよ。うちの寮、空き部屋けっこうあるし、みんないい奴だから楽しいぞ?」

「……え」

「俺が知ってるピピーナのこと、教えてやる。あいつとは二千年間一緒だったからな。会わせるのは無理だけど、話ならしてやるよ」

「…………」


 女神聖教の目的は、女神ピピーナをこの世界に呼ぶこと。

 それはできない。なら、エルクがしってることを話すくらいはできる。

 バルタザールは、揺れていた。

 今までの人間とは違う。

 同じ女神聖教の神官も、エルクのように受け入れてはくれなかった。


「……い、い、いいの?」

「ああ」

「ぅ、ぅぅ……う、うぅぅぅぅ」


 バルタザールは、あふれる涙が止まらなかった。

 ピピーナ以来、初めて受け入れてくれる人間がいた。

 そして、確信する。

 エルクこそ、女神ピピーナに認められた、真なる使徒であると。


「ぼく、ぼく……」

「ほら、話は後だ。まずはここから出ようぜ。バルタザール」

「───……っ」


 名前を、呼んでくれた。

 バルタザールは、ぐしゃぐしゃに濡れた顔をエルクに向ける。


「え、エルク。ぼく、ぼく……ぼくたち、ともだち?」

「ああ、友達───……」


 ───……ズドン!!

 何かがエルクの背後から飛んできた。


「───……ヵ、あ」


 それは、剣。

 漆黒の刀だった。

 柄も鍔も刀身も、全てが黒。

 それが、バルタザールの身体を貫いていた。


「……ぁ」

「ば、バルタザール……?」

「ぅ、あ……あ」


 エルクは振り返る。

 そこにいたのは───……五人の男女。

 そのうち、一人は見覚えがあった。


「……ロシュオ」

「よう、兄貴」


 女神聖教の聖印が押されたローブを纏っている。

 そして、ロシュオの前に出た黒髪の男が手を向けると、バルタザールに刺さっていた刀が抜けた。


「裏切り者め。まぁ……貴様のような『醜悪』な者は、裏切り者以前に仲間ではない」

「た、タケ……る、っがふぁっ!?」


 バルタザールは大量に吐血した。

 ソアラが駆け寄り、荷物から毛布を取り出して傷を押さえる。


「しっかりして!!」

「ぅ、あ……」

「エルク、どうし───……っっっ」


 ソアラは、息をのんだ。

 エルクの、尋常ではない殺意に。

 男は刀を構え、静かに名のる。


「女神聖教、七天使徒……『飛天皇武(ひてんおうぶ)』を司る神官、タケル・クサナギだ。八人目の使徒にして裏切り者、『死烏(スケアクロウ)』エルク……貴様を断罪する」

「…………」


 エルクは、眼帯マスクを付け、フードをかぶり……静かに両手を広げた。


 ◇◇◇◇◇


 薄れゆく意識の中、バルタザールは見た。

 自分の傷を毛布で押さえるソアラを。

 こんなにも可愛い女の子が、必死に自分を救おうとしている。

 それだけで、バルタザールは嬉しかった。


「しっかりして!!」


 必死の声だ。

 嫌悪の欠片すらない、バルタザールを救おうとする声。

 そして、目の前に広がった。

 漆黒のカラスが翼を広げているのか、それとも、黒い案山子が立っているのか。

 そうではない。

 怒りに燃え、両手を広げるのはエルク。


「……………………あぁ」


 バルタザールは、ようやく気付いた。

 エルクが両腕を広げる姿は……女神ピピーナにそっくりだった。

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〇はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
レーベル: CLLENN COMICS / コミックREBEL
著者:さとう (著)
漫画:うなぽっぽ (著), トダフミト (著)
発売日:2024年 7月 21日

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お読みいただき有難うございます!
テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] バルタザールくん死なないで
[一言] うーむ、やっぱ基本的に感知力が弱いな
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