表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神風VS  作者: 梶野カメムシ
【序幕】空木 忍野の選抜
13/96

【序幕】選抜、魚々島 洋 其の二




 廃スタンドから川沿いに西へ向かうこと、数分。

 淀川が海と出会う場所に、広大な草原がある。

 常吉(つねよし)臨港緑地の一角であるこの場所は、他の公園やグラウンドとは趣が異なる。人の手が感じられない奔放な草地が、見る者に強い異郷感を抱かせるほどだ。

 武人が仕合うには、まさに絶好の環境である。

「念の為、《結界》を張らせていただきます」

「《結界》? 妖術でも使えんのか?」

「あ、いえ。こちらの手の者で人払いを行います」

「ああ、車で追って来てた連中な。

 そのナリだから、まじないでも使えんのかと思ったぜ」

「……そのようなものとは無縁であります故。

 もう一つ。洋殿にお断りする儀がございます」

 忍野が手を上げると、四つの影が空から落ちた。

「ありゃあ、ドローンって奴か」

「然り。この仕合いを含め、《天覧試合》は全て録画対象となります。

 厳正な管理を行い、関係者以外のいかなる第三者にも情報は漏らしません」 

「つまりこの映像は、《天の方》も観るってことか?」

「それが第一義にございます」 

「なーるほど」

 洋は、離れて四囲を飛ぶドローンにニヤリと笑った。

「そりゃ盛り上がる話だ。録画でも盗撮でも好きにしな。  

 で、どうすりゃ合格なんだ。あんたに勝ちゃいいのか?」

 海風に長髪を靡かせながら、忍野は洋を見つめた。

「立ち合いの上で、私に致命傷を負わせることが合格の条件となります」

 しばしの沈黙が、草原に流れた。

「そりゃなんだ。オレにあんたを殺せってか?」

如何様(いかよう)にお受け取りいただいても」

 風の向こうの忍野の顔は平然たるものだ。

「あんたが死んだら、誰がオレの合格を決めるんだよ」

「ドローンを操る者が、代役として控えております」

「……思ったよりイカれてんだな、《神風天覧試合》てのは」

 忌憚ない感想の後、洋は嘆息した。

「もう一つ質問がある。

 《天覧試合》は日を置かずに始まるんだよな?」

「然り」

「つまり、この試合で怪我しても、癒えるまで待っちゃくれない。

 重症でも食らや、勝てても棄権は必須。

 ほとんど無傷でなきゃ実質不合格ってわけか?」

「ご明察です。

 次の戦いを考えぬ者に、《神風》は務まりませぬ故」

「そりゃあどうも。心配性でよかったぜ」

「ご質問は以上で構いませんか? なければ始めたいと思いますが」 

「ああ、いいぜ」

 顎に触れた手が、丸い腹をなぞるように降り、太ももの上で止まった。両の掌はズボンポケットの前。いつもの洋の構えだ。

「納得はしてねえが、闘いながら考える。

 どのみち、降りるって選択肢はねえんだからよ」

「それでは」

 忍野が流れるように抜刀する。右で大刀を。次いで左に小刀を。

 二刀流だ。

 舞台は海辺の草原。障害物なし。彼我の距離5メートル。

「《神風選抜試合》、開始いたします」

 吹き抜ける海風の中、忍野が厳かに宣言した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ