表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル4【異世界の文明発展援助についての考察及び実践】
58/58

5月29日(火) SD21年:勉強会

 そして、世にも恐ろしい勉強会が始まった。


 セルゲイネス氏に1年間みっちり勉強してきたリュウちゃんとジェスくんを相手に、たった1日しか猶予を与えられなかった僕が大学レベルの数学を教える、という難易度ナイトメア級の勉強会だった。

 しかも、僕は一応神であると敬ってもらってるわけだから、答えられないという愚行は犯せない。さも当然といった顔つきでしれっと答えねばならないという条件付きである。ある種の拷問と言えよう。


 ただ、今回は割となんとかなった。

 0の概念とは何かという質問だったのだけど、結論から言ってしまえば「整数を0で割った場合、何の答えが出るのか?」という質問に集約されたからだ。ゼロ除算という奴らしい。

 理論的な展開や記号上の必然性、または数学的なアプローチや帰納的解釈など8種類の考え方があり、それぞれによって「0」という数字に対する意味あいが変わってくるというものだった。

 ネットで調べただけでなく、大学の教授にそれとなく質問してみた結果、おそらく質問の内容はこうだろうとアドバイスを頂けたのが大きい。それがなければ詰んでいた。

 大学ノートの走り書きとネットサイトのカンペをフル動員し、授業形式で「この考えだとここはどうなるかわかるかな?」と2人に質問することで時間稼ぎをし、なんとかやり過ごすことができた。実に綱渡りな2時間だった。


 2人はまだ小学生高学年程度の年齢のはずなのにこんな難しい内容が理解できるのか、はたまたセルゲイネス氏による熱心な指導の結果、地力である程度理解できるようになっていたのか、ウンウンと悩みながら解読していったようだった。

 最終的に「ここはこうでこうなるんですね」「ああ、でもこの場合はこうなって、それで……」と2人で勝手に相談し合うまでになっていた。(ちなみに僕は半分くらいしか理解できていないため、お互いに論戦を始めた2人が何を話し合っていたのかメモしていません。聞いてもまるでわからなかったから……)


 2人の話が途切れたタイミングを見計らって口を挟んだ。精魂尽き果てた僕が乾いた笑いをしつつ2人に質問する。


 ええと、僕がわかってる範囲は今ので終わりなんだけど、これで満足できたかな?


「あ、はい。人神様ありがとうございます。たぶんこれでセルゲイネス先生も満足してもらえると思います」


「あとは僕たちも先生と一緒に相談したいと思います。まだ僕たちだけではわからないところが多かったので……」


 2人とも小学生くらいの年齢のはずなのに、僕より頭が良い。

 そのことに少なからずショックを受けつつも、しんどすぎる勉強会が終わったことに僕はとにかくホッとしていた。


 今日のボス戦はミミズとバッタ。もらった武器は完全見た目重視の大鎌みたいなモノ。

 ミミズ食を流行らせたいわけじゃないけど、サクラ国では喜ばれていることと、近くの腐葉土ひっくり返せばいくらでも簡単に捕まえられるので、つい毎回用意してしまう。

 澤田は「先週サボりまくってて今週シフト多めに入ってるの」と泣きながら連絡があった。澤田がいれば一緒に相談できたのに、と悔やまれて仕方ない。


 その後、特に問題なく雑談して解散になった。

 サクラ国もボス戦イベントに慣れてきたらしく最近は平和そのもののようで、特に相談することがないらしい。

 相談されても適切な答えを出せる自信がないから、平和ならそれが一番ありがたい。


 ただ異世界は平和なのだろうけれど……リュウちゃんとジェス君の関係が気になった。


 リュウちゃんがとても生真面目な性格らしく、僕と会話するときは直立不動で、言葉遣いも実直に話してくる。

 表情も引き締まっていて、なんとなく学校の風紀委員か学級委員長といった様相をしていた。眼鏡があればすごく似合いそうである。


 対してジェス君は、なんというか、応援団の団長といった感じだった。常に後ろ手で待機の姿勢をし、リュウちゃんの背後を守っている。常にやる気がなさそうなのだが、何か一丁事があると途端に視線が鋭くなる瞬間があった。父親によく似ていると思う。


 2人は仲が良いと思っているのだけど、なんかたまに喧嘩腰になる瞬間がある。それが気になった。


 例えば今日の0の概念についての論戦中、ジェス君の解説に対しリュウちゃんがいちいち反論していた。

 まるで子犬が噛みつくかのようにリュウちゃんが丁寧な口調でジェス君の論を否定し、何か言いあっている(ちなみに僕には何のことだかさっぱりだった)。

 それに対しジェス君は、大人な対応でリュウちゃんの意見を素直に受け入れたり、「いや、それは違うだろ」と反論し返したりする。

 それで口論が発展していく。僕を意識して口調こそ丁寧だけど、刺々しい言い合いにまで発展する瞬間があって、僕は何度もひやひやした。


 2人は本当は仲が悪いのだろうか。2人のことも、2人の親のこともよく知っているため、仲が悪いなら何か対策を考えた方がいいのだろうか。


 なんでこういうとき頼りになる澤田がいないのか。明日大学で呼びつけて相談しようかな。

年末進行なう。もう何回忘年会やったか忘れたぜ……or2

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ