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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル3【極小世界の管理、及び外敵の駆除】
52/58

5月25日(金) SD17年:検証作業

 大学で澤田に昨日何を思いついたのか話を聞こうと思ったが、まさかの休みだった。

 必須単位の講義でも会えず、ゼミには来ず、スマホで何しているのか質問したら「フフリ、秘密だ」と返された。おかげで1日中気になって仕方なかった。


 やきもきしながら自宅に帰ると、なんと僕の玄関前で仁王立ちの澤田が待っていやがった。

 当たり前のように僕の部屋に上がり込んで、今日1日休んで何をしていたのかを知り、僕は心底呆れた。


 そして澤田の考えを聞いて、とりあえずリュウたちと相談しようという流れになった。


「……なるほど、サワダ様のお考えは理解できました」


 リュウも少し戸惑いつつも、一応の納得をしてくれた。また、他の人の意見も聞きたいからと、一度サクラ国に戻ってもらってカチさんとマオウさんを連れてきてくれた。

 ちなみに娘は置いてきてもらった。もう普通に挨拶ができるようになっていたが、裏の事情は知る人が少ない方がいいとの判断だった。


 ちなみに、マオウさんも今日の話し合いの結果が気になっていたらしい。カチさんとこっそり連絡を取り合える場所で待機していたところを急いで拉致してきたそうだ。

 まさか2年連続で来る羽目になるとは思っていなかったらしく、動揺したマオウさんはいつもの紳士的な様子が少し崩れている。


「……案としては悪くない、と思うが……」


「……問題は、その神の選別が適切か否かがわからないわけですね……」


 うん、だから2人に来てもらったの。正確には、カチさんとリュウで倒せるかどうかだけを把握したかったんだけど、マオウさんもいるならちょうどいいと思うし。


 僕はサワダの考案したプランを2人にも詳しく聞かせた。カチさんは疑心暗鬼だったし、マオウさんも不安そうだった。

 ちなみに、澤田は二足で歩きジェスチャーも使いこなすアリがどうしても気持ち悪いらしく、マオウさんが現れた時点で離れてしまった。僕のベッドの上に座って遠巻きに眺めている。


 僕はガラスケースの上からテーブルの上にみんなを移動させ、戦う準備ができたかを確認する。

 3人を代表して、カチさんが返事をする。


「ああ、いつでも大丈夫だ」


 オッケー、じゃあ行くよ!


 僕は構えをとった3人の前に、手元に隠していたソレをボトリと落とした。


 ソレは、ムカデであった。


 わしゃわしゃと動く何本もの足。滑らかに動く長くて扁平の腹背。複眼と複顎を持つ肉食の節足昆虫。

 異世界人の10倍以上の体躯を誇る体長7㎝のモンスターである。


 おー、すごいすごい。


 討伐隊で1人だけ規格外の強さを誇るカチさんと、そのカチさんを軽々とあしらうことができるマオウさん、そして魔法の強さだけならこの中で最も強いリュウの3人戦闘は想像以上に派手だった。


 カチさんが即座にムカデの頭を大剣で軽々と叩き伏せる。驚いたムカデが、頭を振って無理やり逃げようとするも、反対側にはいつの間にか回り込んだマオウさんがいてその腕力で首根っこを押さえつけた。

 しかし質量ではムカデの方が上だった。下半身を動かして巻き付き攻撃を仕掛けてくる。首根っこを押さえていた手を放して巻き付きから逃れようとするも、さすがに大きさが違い過ぎる、マオウさんが逃げられない。

 するとムカデが急にバランスを崩した。足元が不自然に浮かんでいる。近くの埃が舞い散り、その隙にマオウさんが逃げ出し、ムカデの背中に馬乗りになった。4本の腕と2本の脚を絡めてしっかりとムカデの身体を確保し、エビぞりにして動きを固める。

 そこへカチさんがすからず大剣を下段から振り上げる。大剣の刃ではなく腹の部分でムカデの頭をアッパーカットした。うまい具合に攻撃が入ったのか、ムカデの頭が衝撃に耐えかねすっぽ抜ける。試合終了である。


 ムカデは昆虫ならではのしぶとさを発揮し、しばらく蠢いていたが、そのうち動きを止めた。3人がようやく構えを解く。

 そして反省会が始まった。


「弱いな」


「そうですね、最初は驚きましたが、それほど強くはありませんでした。見掛け倒しでしたね」


「いえ、ちょうどいい強さだと思いましたよ? マオウさんが一瞬とはいえ動きが止められましたし、隊長さんの剣の一撃も耐えました。攻略者の方々も注意しないと危ない相手だと思います」


 いや、でもあれ一応肉食の生き物だし、個人的にはオススメしたくないかなぁ。サクラ国の人が食べられたらなんか嫌だし。


 僕たち4人であーでもないこーでもないと意見を出し合った。これが澤田の考えたダンジョン盛り上げプラン「ボス戦」である。


 ダンジョン攻略者は、言ってしまえばお金になる素材が欲しくてダンジョンに集まっているわけだ。

 だからこそ、そこに地球産の昆虫を送り込み、それを倒すことで珍しい素材が手に入るというイベント「ボス戦」をすれば盛り上がるのではないかという案だった。

 また、同じモンスター(黒い魔物)ばかり倒しているからこそ飽きているのではないか、というのが澤田の見解だった。そのため年に1回ペースとはいえ、アリとは全く違う少し強めのモンスター(昆虫)を送り込めば賑わうかもしれないという案も兼ね備えている。


 懸念材料は3つ。

 異世界人にとって強すぎる昆虫だとパニックになりかねないということ、クロオオアリ変種のようにまた逃げ出して増殖されると困るということ、いざというときのために実力者が処理できるかどうかわからないということだった。

 その3つの懸念を晴らすために、今回は事前チェックを行っているのだった。


 澤田は今日一日、まさかの虫取りをしていたそうだ。成人間近の女性が1人で虫取りを行うという突拍子もないことを聞かされて、僕はあきれ果てた。残念にもほどがある。

 言えば手伝ったのにと僕が言うと、「だってそれだとバレちゃうじゃん」と澤田は得意そうに答えた。僕を驚かせるためだけにそんなアホなことをするとはさすがに予想外だった。マオウさんは苦手なくせに、普通の昆虫は全く嫌ではないらしい。本当に残念な奴だ。


 しかしアイディア自体は悪くないように思えたので、僕たちは検証作業を繰り返した。たまに休憩をしつつ3人に何度も戦ってもらう。

 ちなみに検証作業であるため、3人には本気を出さないように縛りをしてもらっている。リュウは直接の魔法攻撃禁止、カチさんとマオウさんには直接の致命打禁止をしてもらっていた。ムカデの頭が取れたのは「ここまでもろいとは思わなかった」と言い訳をしていた。


 ムカデの他にもいろいろな昆虫がいた。小さい順に戦ってもらった。



 検証結果はこちら。


・ムカデ:判定A:適度な強さ。肉食であるためその点にだけは注意。


・ダンゴムシ:判定C:つまらない。ただ外殻が固いため、素材としては人気が出そう。要検討。


・コオロギ:判定C:弱すぎるうえに基本的に逃走するため、適切ではない。後ろ足を切り落としておけば賑やかしとしてはありかも。


・ゴカイ:判定B:逃げ道さえ塞いでおけば安全且つ盛り上がるかも。僕が気持ち悪くて触りたくないという一点さえ除けば……。


・バッタ:判定B:コオロギよりは適切かもしれない。後ろ足の処理は必須。


・カナブン:判定A:適度に硬くて適度に強く、見た目は大きくてインパクトがある。内羽を取り除いておけば逃走回避もできる。素材も良し。


・カマキリ:判定B:難易度が高すぎるため、危険かもしれない。ただしボスとしての風格はピカイチ。カチさん曰く「マオウを除けばこいつが最強だ」。


・ゴキブリ:判定D:早くて硬くてしぶとくて厄介。特に逃げられたあとが面倒臭すぎるので絶対アウト。というか澤田、なんでこいつが大丈夫でマオウさんはダメなんだ……残念な奴……。


・ミミズ:判定B;意外と面白い戦闘になった。難易度はとても低いが、暴れると大惨事になる。難点は素材的にいまいちかもしれないという点のみ。賑やかしとしては優秀そう。


・チョウチョウ:判定C:羽があるとド派手だが逃げられてしまう。羽をもぐと途端に地味になる。いまいちすぎる。マオウさんが妙に欲しがったので死骸はプレゼントした。


・ヤゴ:判定B:ありえないほど地味だが、安全性が高くて素材もよさそう。問題は入手が困難なことくらい……。




 だいたいこんな感じだった。ちなみにヤゴとゴカイは釣り具店で、カマキリは昆虫販売のところで購入したそうなので、僕の財布から経費として支払っておいた。

 むしろネット販売で大儲けさせてもらっているので多めに経費を支払おうとしたが拒否された。「金は要らんから頻繁に異世界を見せろ」とのこと。……何度も残念呼ばわりしてすまんかった。


 一通り検証作業を終えて、3人に所感を聞いたところ、次のような返答をもらえた。


「ある程度以上の実力者が数人いれば全く問題ないだろうが、今のダンジョン攻略者たちでは太刀打ちできない場合があるかもしれない。カマキリクラスは避けた方が無難だろう」


「もし討伐しきれずに個体が逃げ出したら、私に即座に一報ください。少数の労働個体を引き連れていけば、今回相手した程度の難敵でしたら簡単に処理できるでしょう」


「ボスを投入する前に派手な演出をすることはできないでしょうか? そうすればサクラ国の防衛部隊で準備をすることも可能でしょうし」


 まあ問題点はすぐには思いつかないだろうし、とりあえず1年考えてみて、それで来年1回試しにやってみよう。ボスの投入場所はどこがいいかな? まあ来年もう一度相談してから、もっと詳しく話を詰め……。


「そんなまどろっこしいことはしてらんないな!」


 と、後ろから澤田。振り向くと、なんとも嫌らしいニヤケ顔をして、僕たちを見ていた。

 澤田はマオウさんの方だけ必死に目をそらしつつも、不敵な笑みを浮かべて堂々と宣言しやがった。


「今宵は祭りじゃけ」


 いや、どこの訛りだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>ミミズ肉 むしろ使っていただけると嬉しいですw
[一言] ミミズはどっかの国のどっかの地域じゃじゃ村長クラスしか食べられない高級食材らしいから味にワンチャン・・・
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