5月17日(木) SD9年:順応 メモ2
そもそも、黒い魔物の死骸からとれた素材は、実は結構人気があった。
これより良い素材は山ほどある。加工のしやすさでは鉄の方が上だし、鎧の皮には硬くて柔軟性の高いカテクトの幼体の皮膚が一番である。プロップトーシスは捨てるところがない万能素材だし、リテやフォーレルのような野草は様々な薬に使われる。
しかし黒い魔物の素材の方が市場での流通量は多い。理由は簡単、そこそこ固いうえたくさん採れるからだ。
そのため……大穴が整備されて有名になってきた頃には……腕に自慢のある荒くれ者共があふれるようになっていた。
「あー、喧嘩はやめるっす! やめてほしいっす! そこ、今袖に隠したものを出してくれっす! ちょ、今ぶつかったの誰!? あー、もー! みんなオレの言うこと聞いてほしいっす!」
アーカスさんが叫ぶ。
討伐隊の服を着ているが、そこに弓矢を携えてはいなかった。腰につけた自衛用の小さなナイフしか持っておらず、ほぼ丸腰と言ってもいい状態である。
現在、大穴があいて激戦が行われた地区は、連日お祭り騒ぎになっていた。人の往来が激しい。
最初は大穴攻略に人手が欲しかったから、近隣から実力者を誘致したのだ。誘致にはマシューや塩の優遇配布が使われ、比較的手早く人員を確保することができた。大穴攻略はかなり順調に進んでいたといえる。
しかし、順調に事が進み過ぎた。大穴攻略は土木作業の進行具合がそれほど早くないにもかかわらず、黒い魔物の出現率が予想以上に低かったため安全に進んでいた。
そのためヒマを持て余した実力者たちが、積極的に黒い魔物を狩りだしたのである。
黒い魔物が減ることは悪いことではない。かなり減ったとはいえ地上からの急襲もたまにあるし、大穴内部での遭遇戦も日に数回は起こる。黒い魔物を積極的に駆除して減らしてくれるのはありがたいことなのだが……問題は狩りを目的とした人が集まりだしてきたのであった。
こうして大穴の入り口付近では黒い魔物を討伐せんと意気込んだ人が溢れ、その素材を得るべく武装を整えるようになったのだった。
「リュウちゃああん、こっち手伝ってほしいっす! あそこで喧嘩してる人たちを止めてきてくれないっすか!?」
「は、はい! わかりました!」
私はアーカスさんに指示され、その場所へ走っていった。仲裁に入る。
大穴前は様々な人でごった返している。大穴へ潜り黒い魔物の素材を得て一攫千金を狙う者が大半だが、そのおこぼれを狙う商売人が集まってきているのだ。
黒い魔物の素材の引き取り屋、武器を手入れする鍛冶屋、食料や薬草に松明まで取り揃えている道具屋に大穴拡張工事の依頼取り扱い所もある。大穴初心者に基本的なことを教える案内屋なんてのもあった。
私はもめている人たちの下へ辿り着く。二人はお互いの胸倉をつかみかかる勢いで怒鳴りあっていた。
「おかしいだろ、こんな金額は! 通常の倍値に近いぞ!? ぼったくりにも程がある!!」
「ここは臨時集合所だから値段もその分高くなるんだよ! 仕事は手を抜いてねぇんだから満足してきちんと支払え! じゃねぇと討伐隊の人にとっ捕まえてもらうぞ!?」
大穴攻略の、おそらく初めて来たであろう人たちと、広場で鍛冶屋を開いている親父さんがもめていた。よくある喧嘩の内容だったので、私は詳しい事情を聞かずにすぐ2人の仲裁に入った。
意思疎通の魔法を全開にして、2人に直接話しかける。
『お2人とも、やめてください!』
「う、うわっ。なんだ今の!?」
「……嬢ちゃんか。いつもすまねぇな」
初心者さんは突然頭の中に響いた声に驚き、鍛冶屋の親父さんは慣れた様子で私の方を見下ろす。私は「いえ、お仕事ですから」と親父さんに笑顔を向けてから、初心者さんに説明をする。
「あの、ここの鍛冶屋は打ち直しの金額がかなり高く設定されているのは、ちゃんと理由があるんです」
「理由? 理由があるにしてもこんなに高いなんて……」
「ここはどちらかというと、黒い魔物の素材狙いに来た人向けではなく、大穴拡張工事をしている人の道具を整えるためにある鍛冶屋なんです。だからわざと倍以上の値段に設定してもらって、一般の方は急ぎの方以外ご遠慮できるようにしているのです。ここに値段書いてありますよね?」
「あ、ああ。そうだな」
初心者さんは私が指し示した金額票を見て、少し目をそらした。おそらくこの人は文字が読めないんだろう、と私は予想する。セルゲイネスさんの運営している学校のおかげでサクラ国の識字率は異常に高いのだけれど、他の国や地域から来た人はそれほど字が読めない。
ちなみに、高い金額で大穴拡張工事をしている人たちの道具を整えてもらい、その分の金額は国から支給されるようになっている。そうじゃないと、ただの私腹を肥やしに来ただけの人たちに鍛冶屋が占有されてしまい大穴攻略に支障をきたすからだ。
私の意思疎通の魔法に驚いて気勢を削がれ、その後詳しく事情を説明したおかげで、初心者さんは納得したようだった。
少しバツが悪そうにしつつ「騒いでしまってすまない」と親父さんに謝り、金額を払う。聞き分けの良い人で良かった、と私はニコリと笑った。
その直後、初心者さんは私の方に向き直って、頭を掻きながら声をかけてきた。
「あ、その。君は大穴管理のお手伝いさん? それとも僕らと同じ大穴探索するのかな? も、もしよかったら僕らと一緒に……」
「おーい、若造。その方はお前のような小童が声かけていいお方じゃねーよ」
親父さんが後ろから声をかけてきて、初心者さんの肩をがっしと掴む。
耳元でボソボソと何かを告げると、「この人がっ!?」「ああそうだよ、気持ちはわかるが相手が悪いな」と驚く初心者さんとニヤリと笑う親父さん。
名残惜しそうに何度も振り返りつつ仲間の下へ帰っていく初心者さんの後姿を見送りながら、私は親父さんに向き直った。
「いつもお疲れ様です。大変ですね」
「まぁな。だがお嬢ちゃんの方が大変だろ。すまねぇな、いつも煩わせちまって」
私は「そんなことないですよ」とニコヤカに笑いつつ、騒がしい大穴前を見た。大穴攻略自体はとても順調なのだが、今とにかく人手が足りないのだ。
お父さんは人口が急激に増えたことと新しい市場の発見によりてんてこ舞いだし、リネさんは黒い魔物だけでなく不審者がいないか警戒する任務も行う羽目になっている。
セルゲイネスさんは「神の国の勉強をしたいのに!」と騒ぎながら大穴攻略の地図作りや作戦会議に出席し、オダカさんはサクラ国の黒字が増えて嬉しそうに計算機を叩いていた。
他の人たちも忙しく、黒狼の面々は大穴攻略に勤しんでいる。ザイサさんは土で顔を真っ黒にしながら「最近は、討伐隊だか穴掘り隊だかわかんねーな」と言いつつガハハと笑う。大穴前も連日人だかりができてしまい、地上に出てくる黒い魔物が減ってあまり活躍の機会がない私と、大穴内では弓が全く使えないと嘆いているアーカスさんが大穴前広場の揉め事解決を行っていた。
「助かったっす! リュウちゃんは仕事早くて助かるっすねー」
「いえ、アーカスさんこそお疲れ様です。他にはないですか?」
アーカスさんはちらりと背後を見る。弓使いで後方支援が多いからだろうか、アーカスさんは視野が広い。
申し訳なさそうに今見た方を指さした。
「あー、あっちの方も空気が悪いんでちょっと見てきてくれないっすか? ヤバそうな人がいたら叩き潰していいっすよ」
「そんなことしませんよ」
私がそう言うと「いや、リュウちゃんが危険な目に遭うくらいなら叩き潰してくれた方がありがたいっす……」と小さく呟いた。
私も自分の立場はわかってるので、危険だったら迷わず対処するつもりである。
小走りでアーカスさんの示した場所に近づくと、仲間と思しき4人組がいた。1人が建物の壁に寄りかかって苦しそうに呻いており、3人が心配そうに囲んでいる。
私は原因に思い当たる。急いで彼らに走り寄り、手短に事情を聞く。
「すみません! この人、もしかして神の水を飲みましたか!?」
「え、あ、神の水ってあの黒い魔物によく効くって毒のこと? こいつ飲んだっけ?」
「いや、飲んではないけど……でもさっき、うっかり手に水がついちゃったとか言ってたな。それが口に入ったとか?」
「わかりました! 横にしますね!」
私は横座りしていた彼をその場に横たえらせ、両手を彼の胸に添える。魔法で体内を監査した。
手早く状況を把握する。胃で吸収され始めたばかりで、まだそれほど神の水が体内を巡っていない。これならまだ十分に間に合う。
情け容赦なくお腹を思いきり圧迫する。両手でお腹を支え、全体重を乗せて押す。弱っていた男は「うっ」と呻いてから口からお腹の中身を嘔吐しだした。
同時に私は魔法を使う。体内の水分を操作して、お腹の中身を徹底的に洗い出す。かなり苦しそうに男は何度もえずき、私の魔法によって口からどんどん中身を出す。とても苦しそうだが、徹底的に中身を出さないと危険なので心を鬼にして措置を続ける。
しばらくして、男は完全に伸びていた。もうお腹の中が空っぽなのだろう、まるで瀕死のように地面に横になって倒れていた。
私は応急処置ができた、と安堵して額の汗を拭う。そして、心配そうに見守っていた三人組に向き直って説教を始めた。
「神の水は黒い魔物によく効きますが、人にとっても強い毒になります。絶対に口に入れないように注意するように、最初に支給されたときに言いましたよね? 気を付けないと駄目ですよ」
「うっ、いや、すみません……」
三人組は項垂れて反省の言葉を返した。私は他にも注意点をいくつか教えておく。
大穴攻略のために格安で神の水を配布している。大穴に入る人限定で一人につき水筒1本分までしか渡していないが、説明が不十分なのか危険性を理解してないのか、間違って口に入れてしまう人が後を絶たない。
おかげで私もこの手の治療にも慣れてきた。体内を操作する治療魔法なんて専門的な知識が必要なはずなのに、いつの間にか私にも使えるようになってしまっている。慣れとは恐ろしい。
反省していた三人組は教師に怒られる生徒のような顔をしばらくしていたけれど、いきなりそのうちの1人が私を勧誘してきた。
「あの、もしかして大穴の熟練者の方ですか? 若いのに凄いですね。もしよかったらオレたちと一緒に大穴へ行ってくれませんか?」
「え、私は、その……」
「見るからに後衛支援の方ですよね。大丈夫です、オ、オレがあなたを守りますから!」
その人は顔を真っ赤にしながら私に一緒に狩りに行こうと誘う。自分より年下の私に敬語なんて使うのが恥ずかしいのだろう。
他の2人も「この人が一緒なら安心だ」とか「オ、オレも守りますよ!」とか勧誘の声をかけてくる。
申し訳ないけれど、私には別にやることがたくさんある。「ごめんなさい、他に仕事があるので」と言って笑顔で断る。
三人組の視線を感じながら、私はアーカスさんの下へと戻った。アーカスさんは各方面に指示を出しつつ、私が戻ってくるとニヤリと笑った。
「いやー、さすがリュウちゃんっすね。モテモテじゃないっすか」
「見てたんですか? でもまあ仕方ないと思いますよ。最近大穴へ初めて来たって人が増えてますし、いろいろ知ってそうな私を仲間にしたいって人は多いでしょうし。私なんてあまり強そうには見えないはずなんですけどね、自分で言うのもなんですけど……」
「いや、そういう意味じゃないんすけどね……」
アーカスさんは頬をポリポリと掻いていた。私は「そんなことより、他に何かありますか?」と少し声を大きくして質問する。
大穴前の広場は朝一より昼辺りが一番賑やかになる。朝早く出発したパーティーが帰ってくるのと、昼に集まって出発するパーティーで往来が激しくなり、その人たちを目当てにした商売人たちが活気づくからだ。
そして、賑やかになるということはつまり問題の発生率も増えるということだった。
しかし、アーカスさんは首を振った。後ろの方を指さす。
「いや、とりま休憩取ってくるといいっすよ。しばらくはオレ1人でなんとかするっす」
「いいんですか? まだ結構時間ありますけど……」
「いいっす、交代っす。今日は人の流れが激しいし、今のうち休んどかないと次いつ休めるかわからないっすからね。それに本来、リュウちゃんの仕事はサクラ国の最終防衛線の最大火力であって、警備兵の真似事は仕事じゃないっす。手伝ってくれるだけありがたいっす」
「わかりました、じゃあお言葉に甘えて……」
手をヒラヒラさせて私を見送るアーカスさんに軽くお辞儀をし、私は後ろにさがって休憩した。元はただの道具置き場だった掘立小屋が、今では改築されて大穴管理者の本部扱いになっている。
私は備蓄の冷たい水と、マシューの欠片を取り出した。疲れたときは甘いものが欲しくなる。殺菌のため魔法の火で軽く炙ってからマシューを食べる。美味しい。
私とアーカスさん以外の管理者が戻ってくると、「お疲れ様です」と言いながら水を出してあげたり、薬箱が必要だと言われたら準備を手伝ったりしていた。
そして休憩が終わり、いざ仕事をするぞと息巻いて扉を開けたところ、なんと隊長さんが目の前にいた。
急に扉が開いて驚いたのだろう。ノックの姿勢のまま珍しく隊長さんが目を真ん丸にして私を見下ろしていた。
「あ、どうしたんですか? アーカスさんに用事ですか?」
「……いや、お前に話があってきた」
隊長さんはその場を退き、私に道を譲る。私が管理小屋から出て隊長さんの横に並ぶと、そこで少し立ち話をした。
「そういえばレアさんの様子はどうですか? もう落ち着きました?」
「ああ、大丈夫そうだ」
「隊長さんどうしたんですか? 何か顔色が悪いですけれど……」
「……気にするな」
隊長さんはお父さんより若いはずなのに、言葉は少なくて威厳があるように見える。しかし愛想が悪いだけで人当りは悪くないことに最近ようやっと気づいた。だから世間話をしても苦痛ではない。
しばらく他愛もない話をしていたが、隊長さんは唐突に国を離れる旨を伝えてきた。
「しばらく留守にする。その間の諸々をお前に頼みたい」
「えっと、サクラ国から離れるってことですか? どうしたんですか、急に。もしかして討伐隊のみんなも……?」
人神様からの差配があったとはいえ、討伐隊はもともと国を持たない流浪の集団だ。いつ国を離れても文句は言えない。
しかし、黒狼の人たちはもうかなり深くサクラ国に役立ってもらっているし、メンバーのみんなとも仲良くなってきた。今更どこかへ行くと言われると、勝手な話だがとても困る。
私が不安そうに見上げると、隊長さんは「いや、違う」と否定してきた。そして口下手なのに私に言葉を尽くして説明しようとする。
「少し用事ができた。オレだけが離れる。責任者がいなくなるのは悪いと思ってるが、外せないんだ。なるべく早く帰るから、その間仲間のことを、頼む」
「……わかりました。気を付けて行ってらっしゃい」
私は納得すると、隊長さんは一つ頷いてからどこかへ行ってしまった。その背中に何か強い覚悟のようなものを感じて、私はすごく不安になった。
その後、アーカスさんに隊長さんがどこへ行ったのか聞いたら「わかんねっす」と答えられ、レアちゃんも「……何かすべきことがあるんでしょう」とわからないながらも理解を示していた。他の人に聞いても誰も知らないようだった。
そうして隊長さんがいないまま、気づけばそろそろ人神様の御光臨の時期になっていた……。
…………
なるほど、わからん。
1つ目の記憶の混乱具合はわかる。2つ目の記憶の戦う男たちの覚悟をきめたシーンも理解できる。
しかし3つ目の記憶の意味がわからない。切迫した雰囲気から急にお祭りのようなどんちゃん騒ぎになったのだ。3つとも同じ場所で起こったことだとは思えない。
この時の僕の混乱は理解できるだろうか。
リュウもある程度思うところはあるようで、僕の混乱具合にクスリと笑った。そして説明を付け足す。
「確かに最初のうちはみんな黒い魔物を警戒していたんですけど、思ってたより安全を確保できてたので心の余裕ができたんだと思います。あの指揮官の言う通り地上での攻勢がほとんどなくなって、黒い魔物が地中でしか見かけないようになったのも大きいです」
狭い空間であの顎とパワーは脅威ではあるけれど、接近が前後のどちらか一方でしかなく、1匹ずつ相手にできるので対応自体は楽になったそうだ。油断さえしなければ死人も出ないらしい。
また、遭遇戦での安全をより確保するために大穴内の空間はかなり広く拡張工事されてるそうだ。そこで待ち伏せをすれば熟練の戦闘員なら無傷で狩れるほどだった。
しかし、黒い魔物対策には神の水……という名の殺虫剤の3倍濃度液……が必須だということで、僕に感謝と貢物の山が贈呈された。
……とはいえ、アリの皮で加工された装備品なんてもらっても嬉しくないんだけどね。
「でも、まだ不安はつきないんです。隊長さんがなぜ帰ってこないのかわかりませんし、あの指揮官は今どこで何をしているのか……。それに大穴攻略も今のまま続けてもいいのか不安があります」
リュウはここぞとばかりに愚痴を呟く。僕はうんうんと頷くことしかできないが、それで満足してもらえれば何よりだ。
僕とリュウはガラスケースの横面からアリの巣の様子をうかがいながら、いろいろ話をする。まだガラスケースのところまでは討伐隊が到着してないらしく、未加工のままだった。
リュウが「奥の方はまだたくさんいるようですね」とか「白い宝石というものが何なのか気になります」などと言っているとき、僕はふとあることを思いついた。
なんとなくだけど、まるでダンジョンみたいだね。これ。
「だんじょん、ですか?」
言葉の意味がわからなかったらしい。なので僕は久しぶりにリュウとスマートフォンのアプリゲームで遊びながらダンジョンというものを解説する。
ダンジョンとは中に入ると大量のモンスターがおり、奥に行けば行くほど強いモンスターが出てくるようになり、そして最後にはボスとボスが守る宝があるような場所だ、とリュウにゲームをしながら説明した。
リュウは納得したらしく「確かに、あの大穴はダンジョンという名がふさわしいですね」と答えた。
「じゃあ人神様があの大穴に『ダンジョン』という名をつけてくださったことを皆に伝えておきますね」
……うん、まあ、それでいいや。
ダンジョンは名前ではなく固有名詞なのだが、まあ細かい違いはどうでもいい。
それに変な言い方だが、アリの巣観察や大穴観察というより、ダンジョン観察と表現した方がテンションが上がる。
こうしてダンジョンの話で盛り上がり、リュウに色んな事件が起こったことを教えてもらう。
そして話題が尽きてきたところ、最後に隊長さんの話になった。実は正面から隊長さんの姿を見たのは3つ目の記憶が初めてで、逆光と身長差のせいで少し見づらかったが、30歳以上の背が高くて口ひげがダンディなオッサンだった。
僕は隊長さんはどこ行ったんだろうね、から始まり、ふとリュウと隊長さんの間で交わされた会話について気になっていたことを質問する。
そういえば、なんでレアさんの様子を気遣ってたの? そういえば今日3つともレアさんの姿見てないね……。
僕がこういうと、リュウは目をパチクリさせた。そしてクスクスと笑い出した。
「レアちゃんは、隊長さんの子を産んだんですよ。ずっと彼のことが好きだったみたいです」
ちなみにレアさんはリュウと同じくらいの年齢で、18歳くらいだろうとリュウは言った。
僕はその時の衝撃を何といえばいいのか。やはりイケメンは得だなと心の中で隊長さんに呪いを振りかけておいた。




