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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル3【極小世界の管理、及び外敵の駆除】
29/58

5月9日(水) SD1年:サクラ国家樹立

 国って凄いね。


 今日の感想はその一言に尽きる。とりあえず一目見てビックリしたね。なんか景色が一変してるんだもの。


 ものすごく端的に言ってしまうと、ガラスケースの中に地図が出来上がっていた。

 今まではミニチュアの街がガラスケースの中央にドドンと置いてあるという感じだったが、サクラ国になったらその街だけでなく周囲の景色も大きく一変していた。


 サクラ街ご自慢の透明外壁の外側にも家が出来ていた。あまり大きくない家がほとんどだったが、数が多い。また元々中央から流れていた川だけでなく、僕が作った支流にも人家が建てられており、しかもその一つ一つに水車がくっついていた。

 また、どうやらその外壁の外にある家は大半が農家であるらしく、畑が整備されていた。上から見るとよくわかるのだが、四角く区画整理されていて、それぞれ違う作物が植えられているようだった。農道をゆっくり歩く農民や家畜の姿がとても牧歌的である。


 大通りも変わっていた。周囲の樹が完全に処理されていて、サクラ国の周囲に森がなくなっている。

 それだけではなく支道が新しく追加されていて、今までは単なる一本道だったが、今は舗装されている道路、または街道といった感じになっている。人の流れも多かった。

 なんとなく、y=x^2(YイコールX二乗)のグラフっぽかった。ほら、だって支道がゆるやかなカーブ描いてるし。川がX軸で、大通りがY軸っぽいし。


 街の中……失礼、サクラ国の中枢区画となった街も変化が著しかった。まずデカイ建物が目立つ。

 全体的に家が大きく綺麗になった気がするし、いくつか新しい大型建造物も見かけられた。が何より凄いのは池の畔にあるリュウの家だ。大きさが3倍くらいになっている。

 さすがにここまでの大きさになると詳細が僕でも見分けられる。リュウの家が城にまで進化していた。

 ただ、城というには少し変な感じだった。ネットで城塞の画像を見ながら比較するとわかりやすい。

 恐らく城と言われて真っ先に思い浮かべるのは、千葉にあるシンデレラ城だろう。てっぺんが尖がった尖塔が何本も屹立している白い城だ。

 ただ、リュウの城はものすごく変だった。屋根の形は三角屋根、重箱のように段々重ねになっている階層、周囲に浅く掘られた堀と城を支える石畳み。


 ……異世界の城って日本の城みたいなのかな?


 リュウの記憶からチラ見した城はどちらかというと洋風のソレだった気がしたが、違ったのかもしれない。

 ただ、日本の城にしても何か形がおかしい。なんというか、開放的なのだ。

 城門とは違う場所にある壁の一部分が大きく開けている。爆撃でも食らったのかと思うような露骨な開きっぷりだった。でも壊れているわけではなく、きちんとそういう風に整備されている。


 ……なんでお城に縁側があるの?


 あれだと敵に攻められたとき困るのではないだろうか。もう色々ツッコミどころが多かったが、まあそれが異世界の常識だというのなら従うしかない。


 他もすごかった。何がすごいって、学校があったのだ。

 そう、学校である。白くて四角いコンクリートの建物が池の畔にもう一つできあがっていた。ご丁寧に時計やグラウンドまで再現されていた。

 そのデザインに見覚えがあったので、僕は少し頭が痛くなった。


 ……リュウ、なにゆえアニメの学校をここまでハイクオリティで再現した……。


 他にもいろいろあるが、もう気にしないことにした。リュウに直接聞けばいい。

 たった1日、異世界だとたった1年でここまで変化したことに驚きを禁じ得ない。いったいどんな魔法を使ったのやら。……あ、魔法を使ったのか。なるほど、納得。


 一通りサクラ国の様子を観察し、写真に収め(ss20180509参照)てからリュウの召喚を行った。


 こっちもかなり変わっていた。


 なんかお祭りみたいになっている。池の畔の周りだけ人が少なく、しかしその周辺にはたくさんの人が、まるで花火大会みたいな人混みができていた。明らかに僕の手を待っているのだが、一大イベントと化していた。


 そして当然のように池の畔に座る一人の少女、と大人が4人もいた。見覚えのないメンツばかりだ。


 さすがに5人もいると手の上に乗せるのが難しい。持ち上げること自体は軽くて簡単だけど、全員を潰さないように持ち上げようとすると気を遣う。


 なんとかリュウを含めて5人持ち上げることができた。リュウにいつもの挨拶を交わした後、早速サクラ国の変化を話題にする。


 なんか凄いことになってるね。


「はい、たくさんの人に協力していただきました」


 リュウはこの1年間であったことを教えてくれた。

 最初に帰った直後、父親であるエルバードさんに心配されまくったこと。神様の世界ではたったの1日だったのに、異世界では本当に1年経っていてビックリしたこと。僕と一緒に相談した新しい国造りの相談をしたことなどなど。

 神からの許可をいただいた、という免罪符がでかかったようで、エルバードさん主体で国家樹立がすぐに行われたこと。リュウが二本の神の御手とともに降り立つというインパクトある光景のおかげで、また人が噂に釣られて集まりだしたこと。人が多くなると、街の活気がどんどん盛り上がっていくこと。それがうれしかったこと。


 リュウは照れながら答えた。


「国の象徴という役割も、だんだんと理解できてきました。人神様に示していただいたおかげです」


 王のように国の行く末を考えるという重責ではなく、国をより良くするために頑張っている皆の「指標」となる生き方を受け入れ始めたそうだった。

 仕事として国を治めるのではなく、国のあり様を体現するという言葉の意味がわかってきたそうな。僕はインターネットで天皇制を解釈しただけなので、今のリュウの方がより理解が深いかもしれない。


 一通り現状を聞いて、リュウはサクラ国のために自分ができることがわかって、自信を持ったようだった。僕はそれを聞いて安心する。

 そして……ちょっと不安そうに後ろにいる4人を見て質問した。で、こちらの方々は?


「あ、はい。人神様の言う通り、サクラ国を王政で治めるのではなく、代表者の総意をもって国を運営することになったのですが、そのための代表者の方々です。ご紹介しますね」


 一人一人紹介し、それぞれの名前と主な役職、簡単なプロフィールを教えてくれた。内容の詳細は別紙記載。

 防衛担当、財政担当、教育担当の新しい人たちの紹介と、それぞれの挨拶をリュウ経由でしてもらった。みんな揃って昔のエルバードさんのように堅苦しい言葉遣いだったので、省略。

 そして国家の総責任者であるエルバードさんが最後に挨拶してきた。


「お久しぶりです、人神サーティスさま。リュウ様の望みによりサクラ国の総責任者として、皆を取りまとめさせてもらっております」


 お、おぅ。エルバードさんなら安心だね。


「そう言っていただけると私も嬉しいです。長くサクラ街の代表をしておりましたため、人神様を崇める皆の取りまとめには自信があります。必ずやご期待に沿えるよう努力いたします」


 そ、そうなんだ。うん、がんばってね。


 僕は微妙に目をそらしながらエルバードさんの挨拶を聞いた。ものすごく気マズイ思いだった。

 過保護な親と期待をかけすぎている大人たちから一旦距離を離して気晴らしをしてもらう、という作戦でリュウを家出させたわけだけど、はっきり言って思いつきの行動だ。結果リュウは元気が出たようだったけど、親の立場であるエルバードさんとしてはどう思ったのだろうか、と気が気ではなかったのだ。

 しかも僕の感覚ではたったの1日だけど、異世界人の感覚からすれば1年もの長期間の家出である。いっそ拉致に近い。怒っているのではないかと僕はビクついていた。


 エルバードさんの一通りの挨拶を終えて、こちらをチラリと見た。小さい異世界人のほんのわずかな視線に僕はビクリと反応する。

 エルバードさんは僕の様子から察したのか、それとも何か考えがあったのか。フッと笑ってから話を続けた。


「……2年ほど前に人神様に、神秘的な王権神授について考慮していただきたいとお願いしました。まさか1年もリュウを神の世界に滞在し、そして天の光に導かれて降臨するというのは素晴らしい名案でした。ありがとうございます」


 あ、は、はい。そうですね。


「事前の連絡がなかったため一時期混乱しましたが、結果的にはサクラ国の成立に繋がる最良の結果につながりました。また、リュウが1年もの間に神の国から持ち帰った知識により、象徴天皇制という特殊な国家が樹立できました。真に神がおわす国として、これほど適切な物はないでしょう」


 ひぃっ。そ、そうですね。すみません……。


 なんというか、誉め言葉のはずなのに褒められている気がしない。

 報連相がなってないとか、リュウの家出が長すぎたとか、王政国家じゃない国を作れと言われて困惑したとか、そんな言葉が副音声で聞こえてくる。僕は申し訳ない申し訳ないと頭の中で謝り続けた。


 しかし、エルバードさんはそれほど怒っていないようだった。狼狽える僕の様子を見てから、フッと笑った。


「……ですが、なにより嬉しかったのは、我が娘が日々楽しそうなことですか。おかげさまでサクラ国はリュウを中心にうまく回っております。我々大人たちで、彼女を支えて神の国として発展させていきます」


 ……え? 結果オーライってこと? そ、それは良かった、デス。


 エルバードさんはリュウの方を見ながら、優しく目を伏せた。リュウも少し顔を赤くして父親から視線をそらしている。

 よくわからないが、二人の間に何かあったのだろう。とにかく、怒られていないならそれでいいや、と僕は雑に判断した。でもこれからは報連相はしっかりしよう、とも思った。


 その後一通り異世界人のサクラ国の現状の報告をした。結構細かいことが多くて、時間がかかった。

 全部メモには取ったけど、その中で特に気になった報告は以下の通り。


・正堂教会を完全に排することができたそうな。一応信徒が旅人として訪れる可能性を考慮して小さい礼拝堂はあるけれど、その管轄はサクラ国出身の財政担当官に任せているらしい。


・サクラ街を襲ったあの黒い魔物の活動が激しくなっているらしい。去年、遠方にある国へ輸出していたマシューの荷馬車がやられて大惨事になったそうな。


・国防の観点から、また透明な壁をいくつか設置してほしいとのこと。ただ、次は外周に大きく作る必要があるため、一部でいいから手伝ってもらえるとありがたいそうだ。


・捧げものの量や質を増やすから、その対価としてマシュマロの量を増やしてほしいそうだ。塩は他に流通路があるからそれほど必要ないが、甘味の一つとして世界に認識されつつあるマシューの在庫が常にカツカツだそうだ。


 報告内容を把握したので、それぞれ自分ができそうなことを提案しておく。

 礼拝堂の位置を確認し、不審な動きがあったらすぐ報告してもらえれば対処する。黒い魔物も遠方の国とやらもガラスケースの外側なので手出しできない。1年待ってもらえれば外周全部を覆うほどの透明な壁を用意できる。マシュマロを用意するだけなら簡単だが、毎日大量消費されるとお財布が厳しいため最大何個まで渡せるか計算する。


 一通り情報交換が終わったので、リュウたちを帰そうとした。たださすがに5人もいると大変なので、2回に分けて戻した。

 今日初めて見た顔の防衛担当、財政担当、教育担当の三人を先に帰し、次にリュウとエルバードさんを帰す。


 帰る直前にリュウが僕にこっそり魔法を使って話しかけてきた。


「あの、今日は忙しかったので仕方ないですけど、来年またお話したいです」


 僕は同意した。

 そうだね、きの……去年は丸一日ゆっくりしていたけど、今日は報告が多かったからね。また今度ね。


「は、はい……」


 リュウは少し視線を伏せてから、こちらを見上げてニコリと笑った。親戚の子くらいの年齢のリュウが笑いかけてくれるとちょっと嬉しい気持ちになる。

 またゲームしようね、と伝えてから二人を帰した。二人の様子を見てみると、池の畔が大盛り上がりになっていた。あまりに異世界人が多すぎて黒い塊が蠢いているようにも見える。ちょっと怖い。


 それにしても……この黒い魔物というのはなんなのだろうか。僕が最初期に捕まえた魔物より強いのだろうか。ちょっと捕まえて観察してみたい気がする。

 カチくんが倒せる程度の強さなら、僕でも捕獲できるよね? たぶん。

すみません、夏風邪引いてました。というかまだ治ってない。喉が痛い……。

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