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箱庭異世界の観察日記  作者: えろいむえっさいむ
ファイル3【極小世界の管理、及び外敵の駆除】
28/58

5月8日(火) 晴れ

 やったことは工作と演劇の台本作りだった。


 リュウも少しは意思疎通以外の魔法が使えるということで、それを概ね頼りにした。細かい作業は嫌いじゃないけど、異世界人サイズの服を作るなんて超高難易度な作業はさすがにできないからね。


 材料は僕の方で用意した。服のメイン素材はハンカチ、を使おうとしたのだが、布の目が粗すぎるので却下された。

 異世界には存在せず、それでいて服に使えそうな素材、ということで薄手の青いビニール手袋を使うことにした。ものすごく安っぽい見た目になってしまったが、リュウ曰く「この布でできた服、薄いのに硬くて丈夫……」と好評だった。僕は笑って誤魔化した。


 大雑把にハサミで切り、なるべく頑張ってリュウの体形に合わせて服を作るところまでは僕が、その後細かい部分の修正はリュウが行ってくれた。

 リュウが慣れないビニールの手触りに悪戦苦闘しているうちに、僕はリュウ向けの台本を考える。エルバードさんの長広舌を半分くらいメモしていなかったことが悔やまれる。頑張って「らしい」文章を考えた。


 魔法を使って記憶を共有し、台詞を覚えさせた。

 リュウは幼いながら記憶力が良いことは知っている。今より幼かったリュウが初対面のときに、やたらバカ丁寧な挨拶を間違えずに言えていた。やることは同じである。


 またスレイプニルの蹄鉄を外して、リュウの靴の裏にくっつけた。アロンアルファで。

 懐中電灯を段ボールから引っ張り出して二重蓋の近くに、ライトが下になるように張り付けた。これもアロンアルファで。接着剤便利。


 これで準備完了である。ビニールでできた服を着て、リュウが僕に質問する。


「あの、これ似合ってますか?」


 うんうん、意外とよく似合う。


「意外とってなんですか」


 少し打ち解けてくれたのか、リュウはそう返しながら少し笑っていた。でも本当に、意外と似合っている。

 ビニールで作った服なんて燃えないゴミと大差ないかと思っていたら、意外なことに普通の服に見えた。ワンピースみたいな青い貫頭衣である。

 リュウもやはり女の子なのだろう、どうやって作ったのか腰回りにリボンのような飾り布まで拵えていた。元がビニール手袋とは思えない仕上がりである。よくこの短時間に作れたものである。


「あの、今日見せてもらった映画を参考にしたんです」


 なるほど、どこかで見たことがあるデザインに似ていると思った。これで金色の野に降り立ったらそのまんま映画のワンシーンになりそうである。


 準備は万端である。ガラスケースの下を見ると、おそらく時期がわかるのだろう、池の畔で祈りを捧げている人が何人もいた。シチュエーションも完璧である。


 僕はリュウに合図を送った。じゃあ手はず通りに、がんばって。


「はい!」


 そうして僕は二重蓋を開けた。


 いつもはリュウを片手に乗せて、ゆっくり降ろしている。だが今日は違った。両手を使って、リュウの背後を守るように降ろしている。

 リュウはスレイプニルの蹄についていた魔術具を使って、自力で浮遊してもらっている。天空から舞い降りる女の子と、それを支えるように一緒に降りてくる巨大な手と、そして少女を懐中電灯がより明るく照らす光景。

 こちらの目論見通りに下から見て神秘的に見えるだろうか、ちょっとドキドキしている。


 池の畔の近くにリュウは浮遊してゆっくり落下し、人を見下ろす位置で止まる。僕はその背後を支えるように両手を広げて待機。

 完全に何を言ってるかわからないが、台本通りの台詞を言ってくれているはずだ。しばらく待つ。片手ならともかく、狭いガラスケースの蓋の入り口に両手を突っ込むのはちょっと痛いし、上半身が完全に前のめりになっていてバランスが崩れそうだった。だが耐える。


 台本は小難しいセリフだが、それほど長くない。リュウがゆっくりと地面に降りていくのに合わせて、僕も両腕を戻した。懐中電灯を消す。


 エルバードさんの要求通り、神々しいリュウの降誕が見れたはずだ、たぶん。

 そしてリュウの要望通り、リュウは王様にならずに、でもサクラ国の代表者となれたはずだ、たぶん。


 リュウがこの後どうすべきかは、僕がインターネットで調べた内容に従って話してくれる手筈になっている。

 おそらく文明レベルが低い世界だと、混乱する可能性がある。もしかしたらうまくいかないかもしれない。

 でも、僕はこれが誰にとっても良いと思ったのだ。上手くいかずとも、僕が全力でサポートしようと思う。


 サクラ街は本日をもってサクラ国となった。

 サクラ国はこれから異世界初の民主主義国家となる。そしてリュウをサクラ国の象徴に据えた日本と同じ形態の国家の擁立をリュウや代表者のエルバードさん主体で行われるはずだ。

 象徴天皇制の始まりである。






【追記】リュウと用意した台本の写し


「私、人神サーティスの御子たるリュウは、我が神からの声をみなに伝える。

 人神サーティスは民の平穏と幸福を望んでいらっしゃる。神に名を与えられたこの街を、害するものを拒むことを望んでいらっしゃる。そのためにサクラの名を与えられた我々が望む国家は、既存の王政国家とは異なる。

 人神サーティスを主神とし、その御言葉を伝えるリュウの血筋を国の象徴として据えることとする。

 そして、象徴は国の(まつりごと)には関わらない。国とともにあり、国を見守るためだけにあり続ける。

 国の意思は、民の総意によって為すものとする。国は民のものであり、民は国を守り支えるのだ。

 神に愛されしサクラの民よ、我々は人神サーティスの名の下に、サクラ国を擁立することをここに宣言する!」



※細かい文言は間違ってもよし。

 「リュウ子々孫々にいたるまで直接は政治に関与しない(王にはならない)が、国の象徴として君臨する」「民主主義国家を作る」「他の国から独立した国家樹立の宣言」の3点だけは忘れずに。

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