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その弐 続・弟は苦労性(かもしれない)


合宿二日目の朝。

妹たちの身支度を、ローズ副会長も手伝っていた。


はなの髪を編み込んであげる風花の手をじっと見つめ、自分も同じようにマリーの髪を編み込んでいく。

妹の髪を結ってあげるのは初めてだと話していたが、綺麗にマリーの髪は仕上がっていっている。


おそろいだね、とはなはマリーと顔を見合わせてニコニコしていた。


「副会長さん上手だなぁ。俺もやってみようかな」

「やめろ。はなの髪をぐちゃぐちゃにしたら容赦しねえ」


興味津々で風花たちの様子を見ていた大河がぽつりとこぼせば、風花は容赦ない言葉を返す。

大河は残念そうに唇を尖らせる。


「うーんうーん……じゃあ、リッカちゃんに俺の練習台になってもらおうっと」

「止めときなよ。タイガ、意外と指先は不器用でしょ」


勇仁が止めるが、大河は六花に近寄り、わざとらしくキラキラ瞳で六花を上目遣いに見上げた。

六花が苦笑し、いいわよ、と言えば、大河はいそいそと六花の髪を編み込み始める。

――始めて数分と経たず、大河の上機嫌な笑顔が露骨にしかめっ面になった。


「難しい」

「髪の束をちゃんと均等にしないと、大きさがバラバラになって不格好になるんだよ。タイガの場合、編み込んでる間にどんどんずれていってる」


悩む大河に勇仁が助言し、詳しいんだな、と会長が感心している。


「姉が二人いるから。時々だけど俺に髪結いをやらせてくることがあって。それで俺も覚えた」

「なるほど……。姉妹がいると、そういう経験もあるんだな。俺もやってみようかな……」


弟しかいなくて髪を結ぶなんて経験のない会長も、実はちょっと興味があったらしい。

大河と並んで六花の髪を編み始め、ルチル様の御髪になんてことを、とアミルを憤怒させていた。

……会長は器用なはずだが、経験不足がおおいに影響して、大河に劣らず編み込んだ髪はぐちゃぐちゃである。




二日目は別荘の掃除をし、それが終わった後は各々で自由時間。

風花は別荘の図書室に引きこもって本を読みふけっていたが、夕食前にはシャワーを浴びに行った。

――西洋で発明されたシャワー。ワダツミ帝国でも風呂は一般的だが、シャワーは普及していない。グランヴェリー家の別荘にもなれば、シャワーも設備されていた。


夕食の準備をするため、風花を呼びに六花が彼の客室を訪ね、ベッドの上に放り出されたままのものを見つけたのはそんな時である。


風花の服を持って、今度はシャワールームを訪ねた。シャワーの音が聞こえる。


「フーカ」


コンコン、とノックをして少しだけ浴室の扉を開けて、中の風花に呼びかける。シャワーの音が止まったのを確認し、扉越しに六花はさらに話しかけた。


「着替え忘れたでしょ。あなたの部屋のベッドの上に放り出してあったわよ」

「そうだったか?」


返ってきた声は、浴室に反響している。置いておくわね、と六花が言えば、シャワーの音がまた聞こえ始めた。六花も話しかけるために少しだけ開けていた浴室の扉を閉める。


タオルはちゃんと持ってきているようなので、そのそばに風花が自分で用意していた着替えをどさりと置いた。

それと同時に、シャワールームの扉が開く。浴室のほうではなく、六花もいま入ってきた廊下のほう。


扉を開けた男――シルバーは六花を見て……六花もぱちくりと目を瞬いてシルバーを見つめ返し、なぜか互いに見つめ合う状況になってしまった。


そして、勢いよく扉が閉まる。

……と、思ったら、こっちの扉もちょっとだけ開いた。互いの姿が直接は見えないように。


「……覗くつもりはなかった。てっきり弟のほうが入ってると思って……兄貴もそう言ってたし……」


モゴモゴと、バツが悪そうにシルバーが言い訳する。

昨日会ってから今日までほとんど話したことのない相手ではあるが、それでもこんな歯切れ悪く話す姿は初めて見た。


六花はまたぱちくりと目を瞬かせる。

それからシルバーの言葉の意味を理解して、くすりと笑った。


「間違ってないわ。いまシャワーを使ってるのはフーカのほう。私は持ってくるのを忘れた着替えを届けに来ただけ。出ていくから、あなたも気にせずシャワーを使って」


六花のほうから廊下に通じる扉を開け、シルバーにシャワールームを譲る。

そうか、とシルバーは気まずそうに相槌を打った。


扉を閉めて六花が出ていった直後、浴室側の扉が開き、風花が出てきた。

風花はシルバーを無視していたが――シルバーも平時ならそうしたのだが、今回は風花を睨んだ。

露骨に敵意を向けられ、さすがの風花もシルバーに視線を向ける。


「死ね」


シンプル過ぎる罵倒に、風花もシルバーに劣らぬ敵意を向けた。


「いきなりなんだ。燃やすぞ」


女の入浴を覗いてしまったと勘違いしてシルバーが焦りまくったことなんて、風花が知るはずもない。

一応、彼が原因ではあるが……。


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