邪教の影13
キアターの問いに早人とファオーンは首を横に振る。
「おそらく衰弱死か餓死かしたんだろう。俺が地下に入れられたときにはすでにいなかった」
「ここの村人は人を殺したということになりますね。子供はともかく、大人たちは罰せられるでしょうか」
「邪教に操られていたとみられて監視だけですむのではないかと思うが」
「言いにくいんだけど、あの霧に人を操る効果はないの。心に作用するだけで、その影響でどう動くかはその人たち自身の考え」
キアターの言葉にファオーンは小さく唸る。
恐怖を膨らませた村人が村に来た者たちを監禁したのは誰に命じられたことでもないのだ。大人たちで話し合ううちに自分たちに害をなすのではと想像を膨らませて、やられる前にやれと動いた結果だった。
「邪教が関わらなければ、少し排他的なところのある村というだけですんだ。そこから情状酌量の余地はあるのだろう。国が村を潰すという判断はないだろうが、危険地域として見られるかもしれない。今後馬鹿なことをしなければ監視だけですむと思う」
ファオーンは自身の考えを語る。
ファオーンたちがこの村であったことを国に報告すれば、考え通りの展開になる可能性が高い。そしてファオーンが黙っているという選択はない。仕返しというわけではなく、邪教の関わった村を放置できないのだ。
「霧はもうでないし馬鹿な真似はしそうにないよな」
早人の考えをキアターは否定する。
「霧の影響はしばらく残るから誰か村にきたら同じことをするかもしれない。完全に霧の影響がなくなるのに一年以上はかかると思う」
「そんなに?」
「魔法で直接精神を変容させた場合は、短い期間で元に戻る。自分自身で変えられたときのことはおかしいと思えるから。今回は少しずつ変えて定着させていったから自分たちはこうなんだっていう考えで固まっているはず。その思考にもはや魔法は関係ない。村人をもとに戻したいなら、霧の影響が抜けた時期に第三者が村人のやっていたことを指摘して、恐ろしいことをやっていたのだと理解させなければならないと思うわ」
「後悔する人が続出だな」
「罪のない人を殺しているんだもの、後悔して当たり前。むしろ後悔しなければ正道に戻れない」
早人の発言を受けてのキアターにファオーンはうんうんと頷く。
「怖かったのだから仕方ないと開き直ったのでは外道のままだと俺も思うぞ」
「そっかー。霧が止まったのを機にいい方向に進んでくれるといいけど」
早人のその言葉を否定するかのようにケラスンの悲鳴が上がる。
何事かと皆で窓から外を見てみると、村の男たちにロソックとケラスンが捕まっていた。ロソックは暴行されたのかぐったりしており、ケラスンは心配して近寄ろうとしているが大人にがっしり掴まれできないでいる。
言ったそばからこれかと早人は溜息を吐く。
「ちょっと取り返してくる」
早人は三人にそう言うと窓から出て、一直線に向かう。
「あれは!?」「止まれ!」「こいつがどうなってもいいのか!」
村の男たちは気づき止まるように言ってくるが刃物を持っている様子もないため早人は制止を無視して、まずはケラスンを捕まえている男の顎を殴る。漫画で顎を狙って脳を揺らすと見たことがあり、成功したようで男は崩れ落ちた。
残った三人の男たちも同じように気絶させてロソックを回収する。
心配そうにロソックに寄り添うケラスンに早人は、この男たちは村の大人で間違いないか尋ね、頷きが返ってきた。
「ロープかなにか拘束できるものを頼む!」
窓から自分を見ていたキアターとジーフェに頼む。
頷いた二人が屋敷からロープやカーテンを持ってきて、それを使い大人たちを縛る。彼らを屋敷の中に転がして早人は困った表情を浮かべた。
「村に戻って荷物をとってこないといけないけど、穏便にいきそうにないね」
「力ずくでいけば取ってくるのは簡単でしょうけど、そうするのはちょっとはばかられる」
早人に頷きを返しつつ、キアターが少し困ったように言う。
ケラスンの親に対しても暴力を行うことになるかもしれず、それは避けたいと思うのだ。
「荷物を放置して帰れば遭遇することもないだろうけど、置いていくにはちょっと困るものもあるし回収したいわ」
防具や財布はもちろん私物も置いていきたくはない。
それに荷物を置いていくと解決するのは早人たちだけで、ロソックやケラスンのことは解決しない。ロソックは村を出て戻ってこなければいいだけだが、ケラスンはそうもいかないのだ。村に戻っても早人たちとともに行動していたということで避けられればまだいい方で、最悪監禁か追放か。
「取り返すのは大人たちを人質にすればいいかな。ロソックたちのことは、ロソックが起きてから話してみよう」
「それがいいわ……お腹すいた」
朝食の時間だとキアターは腹を押さえる。
ジーフェも一緒に食べ物を探してこようと誘い、ファオーンたちに留守番を頼んで屋敷を出る。
一時間ほどで食べ物を探してきた早人たちによって朝食が始まり、起きたロソックも一緒に食べる。
腹も満たされ落ち着いたところで、ロソックたちに霧の影響について説明して今後どうするか尋ねる。
「お前たちの言うように俺は今後村に戻らなければいいだけだが、ケラスンはな」
ロソックは心配する視線を隣に座るケラスンに向ける。
「村人に霧や邪教のことを説明して納得してくれると思う?」
「話は聞くかもしれないけど、納得して俺やケラスンのことを以前のように受け入れるかはわからん」
早人が聞いたことにロソックは首を振る。帰ってきたときは受け入れていた自分をよそ者と一緒にいたというだけで暴行してきた村人に期待はできなかった。
ケラスンは一言も発していないが、その表情が村の大人たちに対して安堵や希望を感じていないことを雄弁に語っている。
「荷物だけ回収してケラスンを置いていけば、どう考えても明るい未来にはなりそうにないか」
そうだなとロソックは頷く。上手く事態が収拾するアイデアが湧かないかロソックは考えるが、いい考えはでない。
「……一時的にケラスンも外に出すしかないか。霧の影響が抜けて村に戻せば今戻すよりましなんじゃないかと思うが、どう思う?」
ロソックは自身の考えを早人たちに聞く。
早人たちもいい考えは浮かばず、危ないところから離すというその考えに頷く。
ロソックはケラスンにどうするか聞く。どうしても残りたいというのなら無理に連れ出す気はなかった。
「正直なことを言えば、今の村はちょっと怖い。母さんたちと離れたくもないけど、また今回みたいに誰か捕まるのも見たくない。あとあの大人たちが僕を見る目も怖い」
「置いていけないな。俺の住む町に連れて行こう。ケラスン一人くらいなら養えるしな」
連れて行ってもらえるとわかりケラスンは安心したように微笑んだ。
「じゃああとは荷物の回収と一応村人に話をすることか。人質として拘束している大人を一人連れて行って、話を聞かないようなら脅す形でも聞いてもらうかな」
早人の提案にそれでいいと全員が頷き、さっそく行動を開始する。
村に行くのは早人とロソック。ジーフェとキアターはここの守りとして残る。
早人は大人を一人担ぎ、ロソックと屋敷を出る。念のため屋敷周辺の気配を探り、村人がいないか確認していないとわかると村に向かう。
村に戻ると大人たちは早人たちの姿を見て大声を上げて皆に知らせる。すぐに農具を武器のように持った村人が集まってきた。敵意をむき出しで、それはロソックに対しても向けられていた。
「ボイドーを放せ!」
「そうだ! そうだ!」
「このよそものめ!」




