邪教の影6
早人は挨拶してから本題に入る。
「お聞きしたいのですが、ファオーンという男の学者がこの村を訪ねてきましたよね? 村の人からそれは確認できているのですが、今どこにいるのか知らないかお聞きしたいのです」
「ああ、あの男ですか。屋敷を調べるために村に滞在したいというので空き家を貸しましたよ。姿が見えなくなって、空き家から荷物がなくなっていたので帰ったのだと思いますが」
「帰りましたか。じゃあどこかですれ違ったかな。念のため屋敷を調べたいので許可をもらいたい。あと一泊する許可もいただきたいのですが」
「かまいませんよ。彼が使った空き家をお貸ししましょう」
あそこだと村長が指差したのは一家族が暮らすには少し小さいと思われる一軒家だ。
お借りますと早人たちは頭を下げて、空き家に向かう。
そこにリュックを置いて、まずは昼食を作る。できあがった料理を食べて休息をとり、屋敷に向かうため家を出る。屋敷の場所は知らないが、村人に聞けばいいだろうと思っていたら、ロソックがこの家に向かってきていた。
「やあ、出発しようとしてたのか。ちょうどよかった」
「なにが?」
早人が聞き返す。
「屋敷の場所を知らないだろう? 案内しようと思ったんだよ」
「こっちは助かるけどいいの?」
「いい暇潰しになる。家族は畑仕事に行って家に一人なんだ」
「そっか。じゃあ頼むよ。誰かに屋敷の場所を聞こうと思ってたんだ」
出発だとロソックが先頭を歩きながら、屋敷について話し出す。
村からそう遠くにあるわけではなく、大人の足で十五分ほど。村から少し山を登ったところにある。その屋敷はかなりの昔に兵の詰所として作られたらしい。山頂に櫓を作り、周囲を見張っていたということだ。なにを見張っていたのかまではロソックは知らない。
二階建てで、部屋の数は大小合わせて二十部屋。外観も内装もぼろくなっており、屋根や壁の一部などは崩れてしまっている。
「あ、見えてきたな」
そう言いながらロソックが指差す方向、木々の隙間に建物らしきものが見えた。
三分とかからず到着し、四人は外観を眺める。
「聞いていたよりぼろくはないような」
キアターが感想を漏らす。早人とジーフェがコクコク頷いた。ロソックも不思議そうに首を傾げた。
「おかしいな。俺が小さい頃はあそこらへんとか壊れてたのに」
「村人が修理したんじゃないの?」
早人の言葉にロソックは首を横に振る。
「ここは使ってないから修理する理由がないんだ。ここに無駄な資材を使うなら、村の建物に使うはずだ」
入ってみようとロソックが言い、早人たちはついていく。
玄関から入り、そこから中を眺める。綺麗とは言い難いが、歩き回っているうちにどこかが壊れるといったこともないだろうと思えた。
「やっぱり俺が知っているより綺麗になってるな」
軽く見て回ろうということになり、一階から見ていく。
食堂、厨房、倉庫、会議室といった部屋があり、そこに置かれている家具もさほど年数が経っていないように見えた。ただし倉庫に入れられていた家具はぼろぼろで、こちらはロソックが見たことがあるものらしい。
一階の窓から裏庭が見え、そこには壊れた家具が一ヶ所に集められていた。
「誰かが掃除して住んでたっぽいんだけど」
早人が言い、ロソックは頷く。
「そうだな。俺もそれは否定できない。ここに来たっていう学者が掃除したのか?」
「いやそれはないだろう。古い物を調べにきたのに、それらをどけて新しい家具と入れ替える意味がわからない」
疑問を抱きながら二階に上がり、すべての部屋を回る。
それでわかったことは、今も人が住めるように修繕された部屋があるということ。実際に人が住んでいた形跡があるということ。だが埃がわずかに積もっていて最近は住んでいないということ。そして誰かが最近ここに入り、埃に足跡を残している。
最近入った誰かはおそらくファオーンで、この屋敷の中を歩き回って埃に足跡を残したのだろう。足跡の大きさは均一で、複数の人が歩き回った様子はないのだ。
「ファオーンがここに来たかもってことがわかっただけで、行方はわからずか」
「帰った可能性が高いと思うよ」
ロソックが言い、そうだなと早人は頷いた。
「さて村に戻ろうか」
「一応ここらを探してみるよ。可能性は低いだろうけど怪我して動けないってこともありえる」
「そうか。俺は先に戻ってる」
ロソックはのんびり歩いて去っていき、早人たちは屋敷を囲む木々の間をファオーンの名を呼びながら歩き回る。
屋敷を中心に二時間ばかり歩き回って反応はなく、魔物に荒らされたような形跡もなかったため、村に戻る。
捜索ついでに夕食用に鳥を一羽狩って処理をしたので、これくらいの時間がかかっていた。
村に戻ると仕事の手伝いを終えた子供たちが広場で追いかけっこやおしゃべりをしていた。だが早人たちの姿を見ると一人を残し一斉に走り去る。その一人も皆を追って去っていった。
「……怖がられてるからかな?」
見事な逃走にやや呆気にとられた様子で早人は言う。キアターは「たぶん」と頷く。
「あの子たちにも恐怖はあったよ。最後に残った子にはなかったように見えたけど」
ジーフェから見て、最後に残った子供は戸惑いっていたように見えた。
一人くらいはそんな人もいるだろうと早人たちは思い、借りている家に向かう。
着く前に村の様子を見て回っていた村長と出会う。
「戻られましたか」
「はい。屋敷の中を探して、周辺にも声をかけてみましたが反応はなかったですね。おそらくすれ違いになったと考えてます」
早人の返答に村長はうんうんと頷く。
「そうですか。では目的も達したことですし、明日にはお帰りに?」
「そのつもりです。あ、二つほどお聞きしたいのですが」
村長は不思議そうにしながらもどうぞと先を促す。
「やたらと村の人たちに怖がられたような気がしたんですが、以前盗賊かなにかに襲われたことでもあるのですか?」
「いえ、そのようなことは。私が知っているかぎりでは先代村長の頃から平和に暮らせていますね。めったに外客が来ない土地なので、過敏に反応しているんでしょう」
「そうでしたか」
村長は特に嘘をついている様子もなく、早人はなるほどと頷く。
「もう一つの疑問なんですが、山の屋敷あそこがロソックの知っている状態よりもよかったらしく、あなた方が掃除でもしたんですか?」
「そのことですか。先程ロソックからも聞かれましたね。私たちではありませんよ。ロソックが知らないのも無理はない。今から三年ほど前に金持ちの子供が療養のため、あそこを使ったのです。都会から一時的に離れて静かに暮らせる場所を求めていたようで、あそこなら静かに過ごせますからね。彼らが住めるように修繕したのです」
「それで今でも使えそうな部屋があったのか。だとしたら勝手に入るのはまずかったか」
「大丈夫だと思いますよ。今はもう使っていませんから、十分に静養できたと帰っていきました。静養中は所有していたようですが、今では誰かが所有しているわけではないです」
聞きたいことを聞けて早人は村長に礼を言い、別れて借家に入る。
「特に怪しいところはなかったな。ジーフェの勘がなにかを気にする以外は」
「今も胸がざわめいてるの?」
キアターの問いかけにジーフェは頷いた。




