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剣の新生7


 一度食べるのを止めようかとも思っていた早人は頷き、食べ続けているキアターに一声かけて、王と一緒にテラスに向かう。

 テラス近くには近衛騎士が余人の接近を阻むように立つ。

 今テラスには早人と王と授与式で王のそばにいた近衛騎士の三人がいる。


「改めて名乗ろう。私はムファダ・カジテーナ・クアッフ。この国の王だ。こっちの男は私の友であり近衛騎士団長のコードス・バランステア」

「私は早人・蔵守。知ってのとおり冒険者をやっています」

「うむ。今回のことだけではなく、幽霊王の領地でも活躍したと報告を受けている。ジョーシュからも聞いたが、調査隊の中で一番の使い手らしいな。その力、国のため使う気はないか?」

「兵士への誘いなのでしょうか?」

「そうとってもらってかまわない。今回のこともあって、騎士への昇格も約束できる」

「父上、その者は私が狙っていると話したでしょう。それなのに声をかけるとは」


 早人が声を出す前に、王子がテラスにやってきて王に話しかける。その声音はムーンとまったく同じものだった。


「はっはっは、早いもの勝ちだ」

「まったく」


 悪びれず言う王を王子は呆れたように見る。そして早人に向き直り、二カッと笑みを浮かべた。


「先日は世話になったな。改めて自己紹介しよう。ムーラン・カジオ・クアッフだ」

「世話になったということは、ムーンと同一人物とみて間違いないのですね」

「うむ。ムーンは変装したときの名だ」

「なんで王子が護衛も少なくあんな場所に」

「ん? あのとき話した理由そのままだぞ。あのとき偽っていたのは名前と身分と見た目だけで、話したことに嘘はない。国内のあちこちに足を運ぶのが好きってのも本当だ」

「それは私も本当だと保障しよう。誰に似たのか、旅好きでな。十代半ばからあちこちへと行っていたものよ」


 言いながらムファダは父のことを思い出していた。彼の父も旅好きだったのだ。あちこちに行った話を幼い頃はよく聞いていた。その父はいまだ健在で、ムーランも小さい頃は旅話を聞いていたため影響を受けたのだろう。


「今でも旅好きってのはかわってないが、二十歳を過ぎたら王位継承のための勉強本格化や政務を重視すると約束したから昔ほど遠出できなくなっている」

「当たり前でしょう。しかも今回大物の魔物に襲われたと聞き、肝が冷えましたぞ」


 コードスが顰めっ面で言う。

 そんなコードスにムーランは胸を張り言う。


「こうして無事でいるんだから問題なし!」

「問題ないわけがないでしょう」

「じゃあ次からはハヤトを連れて行けばいい。あの強さは一流に劣らない。どこに行っても魔物なんぞ、一蹴するぞ」


 ムーランは言いながら早人の肩に手を置く。


「そこでどうして私なのですか」

「兵士として迎え入れたら、専属として連れまわすつもりだからな」

「お誘いはとても光栄ですが、申し訳ありません」


 断り方はこれで失礼にあたらないのか、ちらりとムファダたちを見る。

 彼らは不快な様子は見せていない。


「そうか、残念だ」


 言葉通り残念そうな表情を見せるムーラン。彼と同じ表情をムファダも浮かべている。


「ムーンと友達になるのならば問題ないのですけどね」

「ほー」


 王子と友になど身の程を知れと怒られる可能性も早人は考えていたが、ムーランたちはそれも悪くないといった反応を見せた。

 ムーランと友になると言っていたら怒りはしないまでも、歓迎はされなかっただろうが、ムーンという一般人として繋がりを得られるのはありだと思えたのだ。


「配下に得られないのは残念だけど、ムーンとして友というのも悪くないな」

「私としてもぜひ迎えたかったのだがな。それとは別に頼みを聞いてほしい」


 王の言葉にすぐ頷くことはなく、早人は詳細を尋ねる。


「内容を聞いてから返答をしても?」

「無茶振りするつもりはないから安心していい。宴のあと、騎士と手合せしてほしいのだ。騎士団で一番の使い手が伸び悩んでいるようでな、その者にとっていつもと違う相手との戦いが良い刺激になればと考えたのだ」


 王の考えはそれだけではなく、早人の実力を探りたいというものもあった。今後依頼することがあるかもしれず、どれくらいのことまで対応できるのか知りたかった。

 そういった思惑に早人は気付かず、真剣を使わないのならばと承諾した。


「礼を言う。宴のあと最初に案内した部屋に使用人を寄越す。その者に案内してもらってくれ」

「わかりました」

「では他の者にも話を聞くので、さらばだ。宴を楽しんでくれ」


 ムファダたちはテラスから出ていき、早人もキアターのところに戻り、コーンスープを飲む。コーンの甘さと生クリームのなめらかさが合わさった味わいにほっと息を吐き体から力を抜く。王という存在に無意識ながら緊張していたらしい。

 そんな早人の横で、キアターは美味いものならいくらでも入るとばかりに、いまだ成人男性顔負けの量を食べていた。

 この二人に貴族はあまり近寄ってこなかった。ジョーシュたちには私兵の誘いがかけられていたのだが、若い二人なので調査隊としては活躍していないのだろうと考えたのだ。きちんと情報を得ている貴族には上位の貴族から、王が誘いをかけるということでそれとなくストップがかかっていた。

 宴が開かれてそろそろ二時間といった頃、兵士たちが解散を知らせる。

 四人分くらいの料理を食べたキアターは満足そうで、ジョーシュたちも良い条件の話が入ってきたのか同じく上機嫌な様子だった。

 部屋に戻って元の服に着替えた早人を使用人が呼びに来る。


「じゃあ、またどこかで会おうぜ」

「それまで元気でな」


 もう帰るだけのジョーシュたちが別れの言葉を投げかけてきて、早人も元気でと返し部屋を出る。

 女性陣の部屋の前には、急ぎ着替えたキアターが立っていて、早人に並ぶ。使用人はキアターを止めることなく案内を続ける。

 少しして近衛兵が鍛練する庭に着く。そこにはムファダとコードスとムーランと二十七歳くらいの男がいた。

 男は国の紋章が刻まれた金属鎧を着ていて、肩を越す緩く波打つ黒髪を後ろで縛っている。よく鍛えられた体をしており、鎧の重さを苦にした様子がまったくない。男はやってきた早人に興味深そうな視線を向けている。


「よく来た。この騎士と手合せしてほしいのだ」


 王の言葉を受けて男は一礼する。


「スニール・フェイレ。この国の騎士だ。よろしく頼む」


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