剣の新生4
ムーンは魔物から助けてもらった借りはあるが、こちらから貸しを作った覚えはないと首を傾げる。
「理解できなくても仕方ない」
日本を思い返せる時間を過ごせたことの礼なのだ。
不思議そうなムーンに説明せず、食べられそうなものを探すため早人は大樹から離れていく。
木々の間から見える空が茜色になった頃、剣を包んでいた根がほどけていき、鞘に収まった剣が現れる。
根が柄に巻き付いて、早人のところまで剣を移動させる。
魔法の明かりに照らされて剣がよく見える。だが鞘に納まった状態ではなにか変化があったかわからない。
剣を抜こうとしている早人の隣でムーンが興味深そうに見ている。
鞘から抜かれた刃は琥珀色に変化していて、ひびの跡なのか白い筋がいくつもはしっている。刀身に触れてみると当たり前だが冷たく、持ってみると重さは以前と変わらない。だがどこか手になじんでいるように思えた。
剣を抜いたまま早人は大樹の精に視線を向ける。
「あと十日くらいは使わない方がいいんだっけ?」
『ああ。表面上は異常はないが、内部がまだ若干不安定だからな』
「わかった。まだしばらくは鞘から抜かないよ」
剣を鞘に納めて、片手で持つ。
「これの手入れってどうすればいいんだろう? 鍛冶屋に任せていいの?」
『細かな傷や小さなひびは、魔力を注いで一日使わずにいれば修復される』
「もし折れたりしたら?」
便利と思いつつ、大きく破損した場合について尋ねる。
元から高い修復費用がさらに跳ね上がることは簡単に予想できた。
『わからない。わからないが、並の鍛冶師では手出しできないだろうな。凄腕の鍛冶師を探すか、壊れた物を元に戻す魔法でも探せばいいのではないか?』
「そんな魔法があるんだ」
『昔はあったらしいが、今あるかはわからない。無茶な使い方をしないのが一番だろう』
「精霊器だからな多少の無茶はきくが、限度はある。修理できる奴がいると聞いたこともあるが詳しいことは知らないな」
ムーンが言った精霊器という言葉に早人は聞き覚えがなく、どういったものか尋ねる。
「聞いたことないのか。精霊器というのは精霊の祝福を受けた品物のことだ。魔力剣といった魔法で強化された品より上等な代物だな」
「祝福を受けたことになんの?」
少しばかり驚いた顔の早人は精霊に聞く。
『私としてはその気はなかったな。修復と力を注いだことは事実だが』
「それが祝福ってことでいいと思うぞ。ようは精霊の力を借りてできた品のことをさすんだし」
なるほどと早人は鞘に納まった剣を見る。
ムーンを交え大樹の精と話しつつ、野宿の準備を整えていく。
その会話には早人に襲いかかった根の少なさもあった。話を聞いてみるとわりと単純なことだった。早人が木刀を持っていたので襲われにくかったのだ。
早人たちは知らなかったが植物系の魔物は同族に近いと判断され根に襲われなかった。同じように木に関連するものを持っていた早人を襲っていいものか迷ったのだ。
迷界に木製武具を持って入る者は少なく、根に落ち着いて対応することも難しかったため、このことが知られることはなかった。
ほかに話したのは、この森自体についてだ。以前いなかった魔物がいて、いなくなった魔物や動物がいる。植物の分布などもかわっている。この変化を大樹の精は受け入れ、このままでもよし、自然と元に戻るもよしといった感じで、特に手を加える予定はないということだった。
大樹のおかげで魔物も近寄ってこず、森の中で安全に過ごす。ムーンとは穏やかな会話を楽しむことができた。
翌朝、早人は大樹の精に別れを告げて森を出る。行きと同じように闘人の衣を使って走る。
途中までは併走していたムーンたちは馬の休憩のため止まる。それに付き合う気のなかった早人はムーンたちに別れを告げて走る。
行きと同じ時間を想定していた早人は、実際にはその日のうちに王都に着いた。日が落ちてそれなりの時間が過ぎていたため町に入ることは禁じられたが。
走っている間、体が妙に動かしやすくなっていたこともあり、首を傾げた早人は能力値などの確認する。
以前と比べてどの数値も上がっていた。能力値はすべてにプラス15されている。技術値にも変化があり、その中でも飛び抜けて上がっているものが二つ。両手剣と体術の技術値だ。
両手剣が50上がって283、体術は40上がって232になっていた。両手剣は一流一歩手前だったがいっきに飛び越えている。
ちなみにカッコ内の数値は変わっていない。
「原因は剣だろうなぁ」
それ以外に原因など思い当たらず、背負っている剣の柄に触れる。
「意思があるって言ってたし、少しは認められたって感じなのか? きちんと認められたら、カッコ内の数値まで伸びるのか」
翌朝、町に入りできたてパンを買って食べたあと、ステータスの上がった分を確認するため安物の木刀を買って宿に帰る。
宿の前を掃いていたパレアシアが手を止めて声をかけてくる。
「おかえり。少しの間に実力が上がったわね」
「わかるの?」
「放浪バイトは弱いとやってられないからね。多少の心得はあるのよ。色々な人と接するから人を見る目も育つ。そういった視点から見たらわかる」
「なるほど」
「それはそれとして、あーん」
言いながら突然突き出された肉の串焼きを思わず早人は食べる。
牛っぽい肉にスパイスがまぶされたもので、これ単品で食べるよりもおかずにしたい。もしくは酒飲みがつまみにと思うような味だ。できたてではなく冷めてはいたが美味いと思えるものだ。
「んぐ。いきなりなんだよ。どこからだした」
掃除していたはずで、串焼きを持っている様子はなかったのだ。
「ほら少し前に故郷の味をだすって言ったじゃない? 完成したら味見をと」
「言ってたね。でもいきなりはやめい」
「まあまあ、感想は?」
「美味しかったけれども!」
じゃあおかわりとまたどこからかもう一本渡してパレアシアは掃除に戻った。
どこからだしたのか首を傾げながら部屋に剣を置くために戻ると、表情の乏しいジーフェがベッドに寝転がっていた。
早人が部屋に入るとパッと表情を明るいものへかえて起き上がる。
「おかえり!」
「寝るなら自分の部屋で寝ろ」
少しでも早人を感じられるように寝転がっていたが、本物にはかなわないのだろう。一秒前までのベッドへの執着心はなくなっていた。
ちなみにキアターも残り香を楽しみたいがため、夜はここで寝ていたりする。




