廃墟の連続バトル4
邪魔な家や壁は避けることもせず、体当たりで崩して一直線に走り、すぐに幽霊王の領地から出ることができた。
気温の変化を感じ、足を止めて振り返る。グレートガイスは早人を追っていたようで三百メートル弱離れたところで屋根ぐらいの高さに浮いてこちらを見ていた。
しばし睨みあい、やがて諦めて城の方角へと去っていった。
「ふー」
安堵の溜息を吐いた早人はジーフェに合流するため歩き出す。
疲れはしたが、複数との戦闘、強い魔物との戦闘は良い経験になった。少しだけ強くなれた気がして、充足感もあった。
「さーてジーフェは? 腹も減ったし昼食を食べたら帰るかな」
そんなことを言いつつ馬車乗り場に向かうとロクンたちと少し離れたところで廃墟を見ているジーフェを見つけた。
なぜかシャドーマンを集めた冒険者たちが縛られて転がされていた。
「おーい」
声をかけるとジーフェたちは気づき、近づいてくる。
「よがっだー! よがっだよー!」
ジーフェは半泣き状態で駆け寄り、そのままの勢いで抱き着いてきた。二度と離すものかというほどに力を込めて早人の胸に顔を埋める。
鼻水が服につきやしないかと思いつつ早人はされるがままだ。
ロクンもほっとしたように声をかけてくる。正直なところ合流できるかわからなかったのだ。このまま姿を見せなければ、ジーフェをどう慰めるかという考えもあった。
「無事だったんだな」
「いやー苦労したよ。あのあとスケルトンナイトが十体以上合流してきて」
「それでよく逃げ切れたな」
「なんとか。魔力すっからかんだし、今日はもう帰るよ」
「それがいい」
ロクンたちもいつも以上に疲れていて、そのつもりだった。
「んで、騒動の発端になったあいつらはなんで縛られてんの?」
「ああ、あれか。あのシャドーマンは自分たちが集めたものだから、俺たちの持っている影石は自分たちのものだって言いがかりつけてきてな」
なに言っているんだと早人は呆れた視線を転がる男たちに向けて、その視線に同意するようにロクンたちは頷く。
「俺たちが渡さないとわかると、また廃墟に向かいそうになってな。ダメージがあるし、なによりお前の邪魔になるかもってことで縛ったんだ」
「そうでしたか。ピンチを切り抜けたのに、余計な騒動があって大変だったね」
「お前が請け負ったことに比べたらそうでもないさ。それにしても強いならもっといい武具身に着けたらどうだ? 実力を勘違いされて余計なトラブルが起きかねんぞ」
「金がないから。それにこの木刀もそれなりのものだし」
「それが?」
「獣人からのもらいもので鉄並みの硬さがある」
「ほー、そこらの鈍らよりはいいものなんだな」
興味ありそうなので、ロクンに持たせてみる。
ロクンは軽く叩いてみて頑丈さの確認をしていた。
そうしているうちに王都への馬車がやってくる。それに縛ったままの男とその仲間を載せて、早人とロクンたちも乗り込む。
町に着くと、兵に引き渡してくるというロクンたちと別れて、早人は斡旋所に今日得たものを売りに行く。
スケルトンナイトの証明部位というなかなか目にかかれないものが提出されたことで職員に驚かれ、廃城に入ったのか尋ねられる。
簡単に事情を説明すると、もっと詳しくということで個室で話すことになった。
巨大シャドーマン発見からグレートガイスからの逃亡までを話すと職員は驚きと敬意と戸惑いをいっしょくたにした表情を見せた。
「これが話だけなら嘘だと言えるのですが、証拠になりそうなスケルトンナイトの証明部位も提出されてますし信じざるを得ないです」
「こっちとしては信じてもらえなくてもいいんだけどな。それさえきちんとした価格で買い取ってもらえれば」
苦労したのだからただ働きになるのだけは避けたい。
「ええ、きちんとした価格をお支払いします。こっちの影石も通常のものとは少し違いますから買取価格は上がりますね。この影石も話を裏付ける証拠になりえるんですよね」
「もっと話を聞きたいならロクンとか騒動を起こした冒険者にも聞けるはずだ」
「信じていないわけじゃありませんけど、そうしますね。今回は巨大シャドーマンというアクシデントを解決していただきありがとうございました。グレートガイスとの戦いもあったということですしゆっくり休んで疲れを癒してください」
「そうするよ」
早人は職員に見送られ、ジーフェと一緒に宿へと帰っていった。
早人たちの背が見えなくなると早速職員は上司にこの話をして情報収集に動きだす。
◇
日暮れの光を受けて茜色に染まる王城に兵士長が報告書を持ってやってくる。
警備担当の部署に向かい、そこの長に書類を渡す。長は土地を持たない貴族で、代々城でなんらかの役人をしている家系だった。
「ご苦労。なにか目立ったことはあったかね」
受け取った書類を机の上に置いて長は尋ねる。
「町はいつもと変わらず、多少のいさかいがあった程度で平和といえるものでした」
「ふむ」
「ですが迷界がらみでトラブルが起きたようです」
「どちらのだ?」
「幽霊王の領地です。本日昼前に巨大なシャドーマンが出現したと」
長はシャドーマンについて自身の知識が間違いないか確認し、兵士長は違いなしと頷いた。
「それは倒されたのか?」
「はい。その場にいた冒険者によって無事討たれたと報告がありました」
「なぜそのようなシャドーマンが出現したのだろうか」
「冒険者の手によって人為的に起こされたことのようです」
尋問で聞きだしたことを話していく。
「利益を求めたが故の蛮行か。自身で対処できる範囲のことなら文句も出づらいのだろうが」
「完全に自身の力量を超える出来事だったようで、近くにいた冒険者たちに助けられたとのことです」
少し考え込む長に、兵士長はなにを考えているのか聞きたげな視線を向ける。
「森の迷界のことを考えていた。あそこも人の手によって迷界と化したのかもしれないとな」
「なにかあそこに関しての情報を得られたのですか?」
「いやさっぱりだ。だからこそ今聞いた話のようなことが起きたのかもと思ったのだよ」
「もしそうなら迷惑な話ですね」
「ああ、そうだな。報告ご苦労だった。下がっていいぞ」
兵士長は一礼し部署から出ていく。
長は受け取った報告書に手を置いて、一つ頷く。
「数十体のゴースト圧縮体を討伐したか、どれほどの強さなのか私には想像もつかないが強かったのだろう。それほどの実力があるなら森の迷界も行けるかもしれん。まだ二十歳にもなっていないのに、その実力。天才なのか、特異個体なのか、継承器使いなのか。なんにせよ一流候補が国内にいるのは喜ぶべきことだな」
探し出して今度の調査隊に入るよう依頼を出してみるかと考え、そのための書類を作り始める。
そして次の日、部下に巨大シャドーマンを倒した者を探し出すように命じて、長自身は調査隊を担当する部署に出向いて話を通す。
彼が作った書類は王の下まで届くことになる。同時に斡旋所からも迷界であったことがまとめられた書類が提出されて、早人のグレートガイスとの衝突が王の知ることになる。
この国には廃城に入ることはできても、主であるグレートガイスとの戦闘を一人で行うことができる者などおらず、現れた戦力に関心と警戒心を抱くことになった。
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