365.それでも納得できない
本日2話更新です。
まずは1話目。
今日も私は朝から登校だ。
それでも今朝は、ちょっとだけリーナとお話しできたの。ホンットにかわいいかわいいかわいい妹成分を吸収できて、なんかこう、浄化してもらった気分。
それにマルゴが張り切っていろんなお料理を作ってくれて、それをどしどし時を止める収納魔道具に入れてくれてるのがすごく嬉しい。
ただ、それをテアちゃんガン君と一緒に食べられないのが、ホンットに残念。
なんかもうこうなってくると、サンドイッチとホットドッグのお披露目宮殿お茶会をさくっと済ませてしまいたい気分だわ。いや、いろいろとハードルは高いし、胃も痛くなりそうではあるんだけど。
ついでにキャラメルも情報解禁してもらえないかなあ。そしたら、算術選抜クラスのみなさんに1個ずつ配るとかできるのに。
などと考えているうちに、今日も私はゲオルグさんとスヴェイに連れられて学院に到着した。
自分の個室にナリッサを残し、私はスヴェイと一緒に校舎へ。そんでもってもちろん、今朝もテアちゃんガン君が待ってくれてました。
「おはよう、ルーディ!」
「ルーディ嬢、おはよう」
「おはよう、テア、ガン君!」
そしてその場ですぐスヴェイが、昨日の話をしてくれる。
「そうか……あの3名は卒業取り消しか……」
「ガン君もテアから話を聞いたのね?」
「うん、昨日寮へ送っていったときに」
私の問いかけにうなずいて、ガン君がちょっと遠い目をする。
「いや、本当に……昨日はいろいろたいへんだったね……」
ええもう、ホンットに。
私も思わずちょっと遠い目になっちゃったわ。
「でも、スヴェイさんが言う通り、あの3名がわたくしたちを逆恨みしてくる可能性は、かなり高そうよね」
テアちゃんがうんざりした顔をしてる。
ガン君も同じくうんざりした顔で同意した。
「ああ、十分考えられるね。とにかく当面は、できるだけ俺たち3人で固まって行動するようにしよう。問題は、俺が同席できない女子のみの授業か……」
「その辺りにつきましては、おそらく学院側でなんらか対策をしてくださると思います。学院側からは、追って詳しいお話があるはずですので」
ガン君の懸念にスヴェイが答える。
「わかりました」
「そうですね。とりあえず今日は、ずっと3人でいられますから」
うーん、もしかして私、ちょっと本気で護身術を覚えたほうがいいかも?
私自身はどれだけ殴られても蹴られても痛くもかゆくもないけど、テアちゃんガン君を守るためにこの火事場の馬鹿力を使いこなせたほうがいいに決まってるもんね。
前世も私はそういう、武術とかまったく縁がなくて、力加減なんかまったくわかんないのよ。自分がまったくわかってない状態で、下手にこの怪力で蹴り飛ばしたりなんかしたら、冗談抜きで相手の命を奪っちゃいそうだからね……。
始業前にスヴェイも交えていろいろ相談してたので、私たちは教室へギリギリに駆け込んだ。
そのまま1時間目の授業を終えて休憩時間に入ったところで、私はアレを! そう、昨夜判明しちゃった事実を、テアちゃんとガン君に話さなくっちゃ!
「えっ、ルーディのお母さまとわたくしのお母さまが同級生ですって?」
「本当に? 母さまが、ルーディ嬢の母君と同級生?」
はーい、テアちゃんもガン君も驚きのこの事実。
「そうなの、母は、テアのお母さまのお名前を伝えただけですぐ気が付いてくれて。オードウェル先生がおっしゃっていた通り、テアのお母さまはすべての生徒のお手本になるようなすばらしい生徒だったって言っていたわ」
「本当に……?」
ペリドットの目を見張っているテアちゃんに、私はさらに言う。
「母は、直接テアのお母さまとお話ししたことはないらしいの。でも、常に学年の首席争いをされていたテアのお母さまに、とっても憧れていたのですって。それでね」
私はテアちゃんの手を取った。「母が、テアのお母さまをお茶会にご招待したいと言っているのよ。ただ、我が家はまだ落ち着かない状態なので、すぐにとは言えないのだけれど……テアのお母さまが王都にいらしたときか、あるいは来年の春にわたくしたちが領地に帰ったときにでもと思っているのだけれど、どうかしら?」
テアちゃんの手が震えてる。
えっ、と私も目を見張っちゃったんだけど……テアちゃんはがばっと私に抱きついてきた。
「ええええ、テア?」
本気でびっくりしてわたわたしちゃった私に、ぎゅっと抱きついてるテアちゃんが言った。
「ありがとう、ルーディ……! 本当に、ありがとう!」
ええええっと、あの?
「母は事情があって、社交界にもまったく出てないの。我が家の家系図に名前もなくて、学生時代のお友だちと会うこともなくて……その母を、お茶会にご招待くださるなんて……!」
「俺からもお礼を言うよ、ルーディ嬢」
なんかガン君までちょっと目がうるんでる気がする。
「我が家の母は、自分はとても幸せだと本人が言っているし、俺たちもそう思っているけれど……それでも、貴族社会の中では『存在していない者』のような扱いになっているので……」
そうだったんだ……。
もしかして、正夫人ではないって、そこまでいろいろ制限があるものなの?
私はテアちゃんをぎゅっと抱きしめ返して言う。
「あのね、我が家の母には学生時代の親友がいるって昨日言ったでしょ? その親友のお2人、ガルシュタット公爵家夫人のレオポルディーネさまと、ホーフェンベルツ侯爵家夫人のメルグレーテさまも、絶対テアのお母さまに会いたがるはずだって、わたくしの母は言っていたわ」
「本当に……? 公爵家のご夫人と、侯爵家のご夫人が……?」
「ええ、お2人とも本当にすてきなかたよ。それに、これも昨日言ったけど、我が家の母もお2人とは学院卒業以降ずっと交流が絶えていたの。それがいまではもう、学生時代と同じように本当に仲良くしてくださっているのよ。だからきっとテアのお母さまも交えて、4人で楽しくお話ができると思うわ」
「ありがとう……! 本当にありがとう、ルーディ……!」
こんなに喜んでもらえるなんて……。
私はテアを抱きしめたまま、すごく切ない気持ちになってしまった。
我が家のお母さまもずっと籠の鳥だったけど、テアのお母さまもある意味それに近いような……ご家庭は円満であっても、貴族社会からは隔離されちゃっているような状況なんだ。
テアの肩をぽんぽんとたたき、私は笑顔で言った。
「でもね、テアのお母さまをご招待する前に、わたくしはテアとガン君をわたくしのお茶会にご招待したいわ。学院の個室棟にあるお茶会室を借りれば、すぐにだってできそうだもの。後見人のエクシュタイン公爵さまにお願いして、できるだけ早くお招きするようにするわ」
「ありがとう、ルーディ……!」
「うん、ありがとう。それはとっても楽しみだよ、ルーディ嬢」
2時間目の授業が始まっても、テアちゃんはずっと嬉しそうだった。
いや、テアちゃんだけでなくガン君も……ふだんあんまり表情を動かさない子なんだけど、それでもすごく嬉しそうにしてるのがわかるんだよね。
これはもう、何が何でも揚げ物料理に取り掛からねば。
そんでもってテアのお母さまが改良したっていうお芋で、コロッケやポテトチップスやフライドポテトを作って、お茶うけにご提供しようじゃないの!
そうよ、もし揚げ物料理が間に合わなくても、ポテサラサンドだってあるし!
ほかにもお芋のお料理なんて、私はいくらでも思いついちゃうわ。細切りにしたお芋でガレットを焼いてもいいし。ベーコンやチーズなんかも混ぜて焼くとホントに美味しいんだよね。
うーむ、考えてたら本気で食べたくなってきたから、今度マルゴに作ってもらおうっと。
私がそんなことを考えている間に2時間目が終わり……いや、ちゃんと授業は受けてたから。
そんなこんなで、お昼休みになった私は、いつものようにテアちゃんガン君に個室棟まで送ってもらった。
個室棟までの道すがら、私は率直な感想をもらしちゃう。
「でも本当に驚いたわ。テアのお母さまと私の母が同級生だったなんて」
「うん、まあ……俺たちが同級生だから、親世代も同じような年齢にはなるよね」
それもそうか。
ガン君の言葉に私は納得したんだけど。
やっぱりガン君も思っていたらしい。
「それでも、貴族社会は狭いよね。本当に狭い」
それなー。
私は思いっきりうなずいちゃった。
「本当よね。わたくし、この中央学院へ来てつくづく思ったわ。国中の貴族子女が集まっている学院なのに、全校生徒でこれだけしかいないの、って」
「これでもまだ多いほうだって言うからね」
ガン君は肩をすくめる。「王家のお子さまが在学中は、ほかの貴族家の子どもも増えるから」
ええ、まあ……王太子殿下がご在学中だもんね、王太子妃や側近っていう地位を狙って同世代の子どもが増えるっていうのは、私もわかる。
と、思いつつ、私もガン君も思わずちらっとテアちゃんを見ちゃった。
そのテアちゃんは、私たちの思ったことなんかこれっぽっちも意識してないようで、さらっと違うことを言った。
「王家のお子さまの影響があるっていっても、たかが知れてるわよ。そもそも、貴族自体がどんどん減ってるんだもの」
ちょっとだけ苦笑を浮かべたガン君がうなずいた。
「そうだね。本当に……我が国の貴族はこの数十年、ものすごい勢いで減ってるから」
「そうなの?」
やっぱり減ってるんだ?
と、思わず問いかけた私に、テアちゃんがフンッと鼻を鳴らした。
「当然よ。だってルーディ、貴女はいまのこの国で、子どもを産みたいって思う? そもそも、結婚したいって思う?」
あー……。
私は思わず天を仰ぎ、それから頭を抱えて思いっきり首を振っちゃった。
「思わないわ」
思わないわよねー!
と、ばかりにテアちゃんが、うんうんとうなずいちゃう。
でもそこでガン君が、ためらいがちに言ってきた。
「でも……ルーディ嬢は結婚しないと、家を存続できないんだよね。爵位持ち娘だから」
「ええ、問題はそこなの」
これまた思いっきり頭を抱えて答えちゃった私に、テアちゃんが言ってくれる。
「本当にふざけてるわよね。爵位も領地も財産も、相続したのはルーディなのに、女子だからというだけの理由で、22歳までに結婚しなければそのすべてを国が取り上げるだなんて」
「そうなの。それでいて、結婚すればわたくしがそのすべてを維持できるかといったら……」
「すべて配偶者に取り上げられる!」
私とテアちゃんは、思いっきりしかめた顔を見合わせてしまった。
そして、テアちゃんが訊いてきた。
「そう言えば、ルーディって自分の商会を持っているのよね? その商会から得られる利益はどうするつもりなの? 結婚したら、その利益まで配偶者に取り上げられるわよ?」
「あ、それについては……」
私は、商会から私が得られる利益については信託金方式にしてもらえたことを……私の後見人であり商会の顧問であるエクシュタイン公爵さまが、私のために信託基金を作ってくれたという説明をした。
「そうなのね!」
「それはすごいな」
テアちゃんもガン君も感心しきりだ。
「確かに受取人を指定した信託金であれば、ルーディ嬢が結婚してもそのお金は配偶者が所有することはできないよね」
「エクシュタイン公爵さまって、本当にルーディのことを考えてくださっているのね」
「そうなの、公爵さまは本当に信頼できるかたなの」
ええ、いろいろと残念なトコロはあるんだけどね、人柄としては十分に信頼できるのよ、あの公爵さまは。
「それに、公爵さまはわたくしの後見人になってくださるさいに、わたくしが望まない結婚は求めないという特記事項も契約に入れてくださったのよ」
「それは、本当にすごいわ」
テアが本気で目を丸くしてる。
「わたくしは本当に恵まれているの。以前、あるかたから言われたわ。わたくしのように、自分の意思のみで結婚相手を選べる爵位持ち娘は本当にめずらしいって。そのかたもご自身が爵位持ち娘で、父君が独断でお決めになった婿を迎えるしかなかったのですって」
そりゃもう、メルさまが言ってらしたもんねえ。
令嬢の結婚を勝手に決める権限のある男性親族が1人もいないっていう状況が、どれほど恵まれたことなのかって。
でもね。
私はさらに言った。
「それでも、これだけ恵まれていても、わたくしはやっぱり納得できないの。どうしてわたくしが受け継いだ爵位も領地も財産も、自分で維持していけないのかっていうことが」
そんなに恵まれてるのにぜいたくだとか、言ってくる人はきっといるだろうけど……それでも、そういう問題じゃないんだよね。





