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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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335.まけーーーん!

本日1話更新です。

 うーん、とりあえず剣なんだし、やっぱ武器として使えるくらい大きくはなるよね?

 私は、切先っていうんだっけ、とりあえず剣の先を上に向けた状態でその細い柄を片手で握り、まずは少しだけ、じんわりと魔力を通してみた。


 魔力を通したとたん、小さな剣全体がぽわっと薄く光を放った。

 おおおお、ホントに魔剣っぽい!

 と、次の瞬間ずわーっと、ものすごい勢いで私の手から魔力が吸い取られ始めたんですけど!

 ちょ、ちょ、ナニ、なんなの、ええええ?


 私の手からどんどん魔力が吸い取られ、それに応じるように剣がずんずん大きくなる。

 ずしっとした重みが手にかかり、私は慌てて両手で柄を持ち直した。そしたらもう、さらに勢いよく魔力が吸い取られちゃう。

 いや、待って、ちょ、これ、どこまで大きくなっちゃうの?

 座ったままでは支えられなくなり、私はソファーから立ち上がって両足を踏んばった。それでも剣は大きくなることを止めず、私は無意識のうちに全身に魔力を巡らせて【筋力強化】してた。


 いや、ホントにあの、コレってどうすればいいの……?

 ようやく大きくなるのが止まった剣を、呆然と見上げてるのは私だけじゃない。

 その場の誰もが、本当に文字通りぽかーんと口を開けて、私が両手で構えているその剣を見上げちゃってる。


 ええ、見上げてるのよ。

 だってこれ……私の身長より大きいよね?


 私の脳裏をよぎったのは、某有名ダークファンタジー漫画の『それは剣というにはあまりにも大きすぎた』っていうあのモノローグ。


 あの、剣身っていうの? 刃渡り? ソレの長さが、ほぼ私の身長と同じくらいある。だいたい150cmくらい? その長さで、最大幅は30cm以上あるよね? それがまた、かなり分厚いし。

 なんかもう、剣っていうより巨大な鉄の板?

 いや、ちゃんと刃はついてる、両刃になってる。でもコレって切るよりぶったたけ、っていう腕力っていうか物理っていうか、そういう感じ?


 またもや私の脳内にナレーションが湧き起こっちゃう。

『それはまさに鉄塊だった』

 私ってば、いつからベ○セ○クのガッ○になっちゃったのよーーー!

 でもホントに、ホンットに、ドラゴンでも殴り倒してしまえそうなほどデカいんですけどーー!


「すっげえ……」

 最初に口を開いたのはスヴェイ。

 口を開いたっていうか、もうまるっきり素の状態でぽかーんとつぶやいちゃったスヴェイっていうのが、私にはちょっと驚きで……それでなんか、すんっと気持ちが落ち着いた。


「ルーディちゃん……」

 呆然としてた公爵さまが、喉を鳴らして私に問いかけてきちゃう。

「貴女、それ……振れるの……?」

 振る?

 ええと、剣を振るって……こう?


 私は、その最大幅30cmを超えてる平らな刃を床に水平に向けたまま、柄をつかんでいる両手をぐっと持ち上げた。

 ぶわっと、ホントにちょっと持ち上げただけで風圧を感じちゃう。

 ナニこの巨大な鉄の団扇状態。

 ええ、みなさん、ささーっと後ろに下がられました。


 そんでもって、その持ち上げた両手を、今度は前へ向かって下ろして……いや、いきなりビターンと下ろしちゃうと、そこいらじゅうのモノを叩き潰してしまうこと間違いナシなのでね、こう、ゆっくりと。

 おおう、こんな巨大なシロモノなのに、ちゃんと振れちゃうわ、私。

 だってゆっくりと下げているのに、腕も足もぷるぷるなんてしないもん。ちゃんとしっかり支えられてるもん。


 ただ、ずっと両手からじわじわと魔力を吸われ続けてる感じはする。

【筋力強化】なのか【全身防御】なのか自分でもわかんないけど、とにかく固有魔力を発動してる状態じゃないと、当然のことながらこんな巨大なモノを構えていられるワケがないからね。

 そのおかげというのか、こうして持ってると、なんかだいぶ慣れてきた感じがする。魔力がなじんできたっていうのかな?

 確かにずっしりとはしてるけど、全然大丈夫だわ。私ってばホントにこのまんま、この巨大な剣をぶんぶん振り回せちゃうわ。


「振れそうです、公爵さま」

「そ、そのようね。貴女の魔力に応じて、その大きさになった、ということですものね」

 答えた私に、公爵さまも腰がちょっと引けた状態でうなずいてくれたんだけど。

 ええ、わかります。

 ビジュアル的にめっちゃ怖いと思います。

 だってこんな巨大すぎる剣を、私みたいにチビでひょろひょろの女の子が構えてるんだもんね。いつよろけてドシーンと取り落して大惨事にならないか、本能的に逃げ腰になっちゃうよね。


 てか、そもそも発育不良女子と巨大な鉄塊のような剣っていう組み合わせが、違和感バリバリすぎて脳がバグっちゃうでしょ。

 なんかもう、この剣を取り出してこのサイズまで巨大化すれば、もうそれだけでたいていの相手はビビッて逃げてくれそうな気がする。もしかして、見た目だけで勝てる魔剣?


「あ、あの、でも、この室内で、その剣を振るのは危険なので……」

 言い出したアーティバルトさんの目が泳いでる。「いったん、その、元の大きさに戻していただければ、と」

 それはもちろん、私も公爵さまのお宅内でこんな巨大なシロモノをぶんぶん振り回そうだなんて思いませんよ。

 でも、ね。

「ええと、これ……わたくしが手を離せば、元の大きさに戻るのでしょうか?」


 すみません、戻し方がわからないんです。

 たぶん手を離して、魔力の流れを止めれば、元のあのちっこいサイズに戻ると思うんだけど……ただし、手を離せば一瞬で小さくなるかどうかは、わからない。いったんこの巨大な剣をどこかに置いてからでないと、手を離すのはマズいよね?

 でも、じゃあ、どこに置く?


 コレ、ホンットに巨大だから、こんなテーブルやらソファーやらの家具がいっぱい並んでるこの室内には、置けるスペースなんてないよ?

 壁に立てかけるとかするのだとしても、剣だからね? しかもめちゃくちゃ重いからね? 床に穴を空けないよう柄を下にして壁に立てかけたとしても、壁に大穴が開いちゃいそうじゃない?

 やっぱその辺のテーブルとかソファーとかを、壁際にでも移動してもらって……。


 と、いうようなことを私は考えてたんだけど、おそらくその場のみなさんも同じことを考えていたと思われます。

「廊下……廊下に出て、置いていただければ……!」

 それだー!

 トラヴィスさんの言葉に、私だけでなくみんなそろってうなずいちゃった。

「そうですよね、廊下ならそれだけの大きさの剣でも置けますよね!」

「ルーディちゃん、その剣を持ったまま、廊下に出られる?」


「ええと、廊下へ出ますので、みなさんちょっと脇へ寄っていただけますでしょうか?」

 公爵さまの問いかけにうなずいて、私は剣を構えたままゆっくりと身体を部屋の出入り口へと向けた。

 はい、みなさん、さらにささーっと壁際に寄ってくださいます。

 いやもう、まっすぐ上に向けちゃうと天井に届きそうなほど大きいからね、ちょっとこう斜めに構えた恰好で、廊下へ続く扉をくぐるしかない。


 私の動きに先回りして、トラヴィスさんとアーティバルトさんが扉を全開にしてくれる。

 扉の幅はじゅうぶんあるけど、私はできるだけ通り抜けしやすいように、剣の刃を床に対して垂直になるよう構え直した。

 そんでもってそのまま、慎重に、室内のモノに剣があたって破壊してしまわないように、そろそろと歩いて私は扉をくぐる。


 おお、廊下!

 障害物が何もないまっすぐな長い床に、ふかふかのじゅうたんが敷いてある!

 私は床を傷つけないよう、剣の刃をまた床に水平になるよう向きを変え、その場にそっと剣を置こうと……いや、これ、難しいな?

 こんな巨大なモノ、いきなり手を離してズドーンと落とすわけにいかないし、そうなるとまっすぐ構えたままその場にしゃがみこむしか……。


 ええい、恰好を構ってられる状況ではないわ、とにかくコレをなんとかしないと。

 私はもう見栄も体裁も恥じらいもなく両足をガッと開いて踏ん張って、深く腰を落としちゃう。いわゆるウ○コ座りです、はい。いやもう、ふんわりロングスカートで本当によかった。

 それからそーっと、ホントにそーっと慎重に、この巨大すぎる剣をふかふかの絨毯の上にまっすぐ……うおう、やっぱ手を離した瞬間、ズシンと床に響いちゃった。


 でも思った通り、私が手を離したとたん、巨大な剣がしゅるしゅるしゅるっと縮み始めた。

 うわーん、よかった、もとのペーパーナイフサイズに戻ってくれたー。

 私の後ろで、扉のところから顔をのぞかせているみなさんも、一気に安堵の息を吐き出しちゃったのがわかる。


 そして私は慎重に、縮んだ魔剣をちょんっと、指先で突いてみた。

 うん、魔力を吸われる感じはしない。最初に自分から魔力を通さなければ大丈夫だわ。

 縮んだ剣をそーっと拾い上げ、私は立ちあがって扉のほうへと振り向き笑顔で言った。

「みなさん、大丈夫です。この通り、もとの大きさに戻りました」


「ゲルトルードお嬢さま!」

 ハッとしたように、スヴェイが私に駆け寄ってきた。

「ご無事でございますか? お身体にご不調などは? 床払いをされたばかりなのですから」

「ゲルトルードお嬢さま、ご体調はいかがでございますか?」

 心配顔のスヴェイの後ろから、顔色を変えたナリッサも公爵さまを押しのけて私に駆け寄ってきちゃう。


 ほかのみなさんも、いっせいにざわついてくれちゃいます。

 そりゃもう、このちっこい剣をあんなに巨大化しちゃうなんて、私がどんだけ魔力を使いまくったかって誰しも思っちゃうよね。

「そうだったわ、ルーディちゃん、大丈夫?」

 公爵さまも私のほうへ駆け寄ってくれる。「とにかく部屋に戻って! ああ、また横になったほうがいいかしら?」


 私は慌てて手を振った。

「大丈夫です、公爵さま。特に体調も問題なく――」

 きゅるるるるるる。

 って、私ゃ笑顔で固まっちゃったよ。

 なんで、ここで盛大に、私のお腹が鳴っちゃうかなあああああ!


v( ̄∇ ̄)ニヤリ

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― 新着の感想 ―
性別か。たぶん二択ではないと予想。ニヤリ。
「ベルセルク」、ちらっとしか読んだ事ないんだけど男の自分でさえあんまりハマれなかった作品を女性がハマるとは到底思い難いのだけど作者様は男性?女性?どちらなのでしょうか?
少女に大剣はそれはそれで癖に刺さる・・・ これまでの重い話から一転してコミカルな話になって少しスッキリ
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