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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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333.踏ん張りどころ

本日1話更新です。

明日も更新の予定です( *˙ω˙*)و グッ!

 そうなのよ、こちとら超有能番頭エグムンドさんのおかげで、今後99年間ずーっとマージンががっぽり入り続けることが決まってるからね、資金はたっぷりあるの。

 私はヒューバルトさんにまた問いかけてみた。

「ゴディアスに対する条件としては、そのディーダン領にゲルトルード商会から低金利で融資をする、というものであれば、彼は呑むと思いますか?」

 いや、やっぱ一方的にお金をあげちゃうんじゃなくて、時間がかかってもいいからちゃんと返してね、のほうがいいと思うの。


 でも、ヒューバルトさんはちょっと眉間にシワを寄せちゃった。

「融資……では、難しいのではないかと思います」

 率直にヒューバルトさんが答えてくれる。「多少資金が手に入っても、領内でなんらか産業を興せるだけの基盤がないのです。ディーダン領は北部ヒルデリンゲン地域の中では南側にあり、王都に比較的近いのですが、主街道からは外れています。小さな領地で農地が少なく、かといって山岳地域のように大型の魔物が頻出するわけでもないので、魔石産業も興せません。融資してもらっても返すあてがない、と判断するでしょう」


 うーん、領主の怠慢で破産しそうなんじゃなくて、ちゃんとそういう理由があるのなら、むしろなんとかなりそうじゃない? 単純に資金を援助するだけでなく、産業になるものを領地にもっていくことができれば……。

 と、私が思案したところで、公爵さまが口を開いた。

「ディーダン領では大型の魔物はほとんど出なくても、北部地域なのだから小型の魔物はそれなりに出るでしょう? たとえば、魔蜂とか」


 思わず、私は公爵さまを凝視しちゃったんだけど、公爵さまははっきりうなずいてくれた。

「ディーダン領は、我が国内で至急に救済が必要な領地のひとつなの。硬化布産業の優先領地として選ばれる可能性は十分あるわ」

「それでは、ディーダン領がその優先領地に選ばれるよう、わたくしが……というか、実質的には公爵さまにお願いすることになると思いますが、国に口添えをする、その上で融資もする、という条件を出せば、ゴディアスはゲルトルード商会に来るでしょうか?」


「おそらく、その条件で来ると思います」

 答えてくれたのはヒューバルトさんだった。「もし魔蜂を狩ることで産業が興せるのであれば、ゴディアスだけでなく領主である彼の兄が、それこそ飛びついてくると思いますよ」


「では、ゴディアス・アップシャーの処遇は、その方向でいきましょう。まあ、本人の言う『後ろ暗いこと』の内容によっては、なんらかの処罰もあるかもしれないけれど」

 公爵さまが言ってくれる。「わたくしも、彼をゲルトルード商会に入れることに賛成です。口外法度の魔術式契約を結ぶのだとしても、念を入れたいですもの。もし、我が国内でいまだに隷属契約が横行しているなどと、彼の行いによって諸外国に伝わってしまうような事態になれば、本当に国の威信にかかわりますからね」


 ってことは、ゴディアスというか彼のお兄さんのディーダン領に、硬化布産業の優先領地っていう口止め料を払ってあげることには、陛下も同意してくださると思っていいですね?

 そうだよね、魔法省が商品化して販売するってことは国が、その商品をどこで生産するか……どの領地に優先的に生産させるかってことも、管理できちゃうわけだもんね。

 公爵さまと視線を交わしながら、なんか私ってば食べもののこと以外でも、公爵さまとアイコンタクトだけで意思の疎通ができるようになっちゃったかも、と思ってしまった。


 まあ、ゴディアスにしてみれば、またもや不本意な仕事になるかもしれないけどね。

 それでも、商会員として働いてもらうのであればいろんな業務があるから……外回りの業務なんかを担当してもらえば、彼が私と直接顔を合わせる機会も減らせるんじゃないかと思うし。


 ゴディアスは我が家ではろくすっぽ執事の仕事をしない、恰好だけの役立たず執事だったけど、彼が置かれていた状況を思えばそれも当然の話だよね。やりたくもない仕事を無給で無理やりやらされて、しかも自分から辞めることはおろか、当主からのどんな理不尽な命令にだって服従する以外の選択肢がない状況だったんだから。

 それで自棄になるなっていうほうがムリでしょ。

 その辺を差し引いて考えれば、ゴディアスって決して無能ではなかったと思う。

 当主の娘である私のことはすごく嫌ってるようすだったけど、それでも話ができない相手じゃなかった。必要があれば、私ともちゃんと話をして、その必要な対応をしてくれてたし。


「ゴディアスがゲルトルード商会で働くことになれば、当面はおそらくヒューバルトさんに面倒をみてもらうことになると思います。たいへんだとは思いますが、よろしくお願いしますね、ヒューバルトさん」

 一応ゴディアスも子爵家令息だからね、クラウスやエーリッヒじゃ遠慮があって対応が難しいだろうからねえ。


「そうですね、まあ人当たりはそれほどいい人物ではありませんが」

 ヒューバルトさんがちょっと苦笑気味に答えてくれる。「頭は悪くありませんし、仕事もできると思います。ご当家でも、執事の業務だけでなく前当主の近侍までこなしていたほどですし」

「えっ?」

 ちょ、ちょっと待って!

 私は思わず声をあげちゃった。

 だってゴディアスって執事……だけじゃなくて、あのゲス野郎の近侍まで……?


 いや、そうだわ、我が家には男性の上級使用人はゴディアスしかいなかった。だけど、あの見てくれだけは人一倍神経質にとりつくろってたゲス野郎が、自分の身の回りの世話を誰かに要求しないはずがないじゃない。

 そしたらもう、その世話ができる男性使用人ってゴディアスしかいなかったわけで……。


 うわー!

 ごめん、ゴディアス、本当にごめん! 役立たず執事とか思っちゃってて。

 そりゃどう考えても絶対無理だわ、あのゲス野郎のご機嫌うかがいをしながら執事の仕事もこなすなんて……そんなの誰にもできるわけがない。

 あのゲス野郎のことだから、自分の気分ひとつでどうでもいいことをあげつらって、近侍を鞭で打つくらい平気でやってただろうし……本当にごめん、ゴディアス。


 思わず頭を抱えちゃった私に、ヒューバルトさんがなんとなく申し訳なさそうに言ってきた。

「ゲルトルードお嬢さまはご存じなかったのですね。その、彼が前当主の近侍も兼ねていたということについて」

「知りませんでした……」

 私はなんかもう呆然と答えちゃう。「わたくしは、できるだけ前当主の側へ近寄らないようにしていましたので……執事としてのゴディアスしか、知りませんでした」


 あー……これはもうゴディアスの未払い賃金、そうとうはずんであげなければ。

 でもねえ、これだけの仕打ちをされていた家から、お兄さんの領地への援助をちらつかせて呼び戻されちゃうって……ゴディアスにしてみればホンットに本気でイヤだろうなあ。

 私、さらにゴディアスから嫌われるよね……それはもう、蛇蝎だかつのごとく。

 でも背に腹は代えられぬ、なのよ。


 私は、思いっきりため息交じりに言っちゃった。

「ゴディアスが我が家で働いていた間の給金と慰謝料については、弁護士のゲンダッツさんとよく相談して決めます」

「そうね、そうするのがいいと思うわ」

 公爵さまもうなずいてくれた。


 ただ……ゲンダッツさんと相談するとなると、やっぱりどうしてもお母さまになんの説明もしないということはできないと思うのよ。

 なぜゴディアスが、我が家の収納魔道具を持ち逃げしたのか……マールロウのお祖父さまの件を抜きにしても、やっぱり隷属契約書についてはお母さまには知らせたくない。明らかな犯罪行為なんだもの、お母さまは絶対にショックを受けてしまう。

 なによりも、隷属契約書の存在をお母さまが知ってしまうと、自分のお父さま……マールロウのお祖父さまもそうだったんじゃないかって、お母さまが察してしまう可能性が高い。

 なんとかこうふんわりと、でもお母さまが納得してくれる形で、それらしく説明するしか……。


 私が考えを巡らせていると、公爵さまが言ってくれた。

「ルーディちゃん、貴女のお母さまには、ゴディアスの名誉にかかわることであるため詳しくはお話しできないのです、というような説明でいいと思うわ。ゴディアス本人も、あのような契約書に署名してしまったことは間違いなく不名誉極まりない過去であるのだから、貴女が他言しないことに安堵こそすれ、決して問題視することなどないでしょう」

 それで……OK?

 ちょっとホッとしながら、私は公爵さまにうなずいてしまう。


 公爵さまはさらに言ってくれた。

「おそらくコーデリア夫人は、そういうあいまいな説明で察してくださると思うの。ご自分のお父さまがそのように……前当主の言いなりにされていたのと同じようなことを、ゴディアスもされていたのだろう、と。それは、コーデリア夫人にしてみれば、娘の貴女には絶対に知られたくないことでしょう。だからそれ以上のことは、貴女に問いかけたりされないと思うわ」


 ああ……そうよね、お母さまはまさか私がそれについての『真実』を知ってしまったなんて、思いもしないだろうから……それを逆手にとってしまうということね。

 確かにそうすれば、むしろ私が変に疑問を抱いてしまわないようにと、お母さまは詳しいことは問いかけてこられない可能性が高いわ。

 だから私も……明言は避け、あいまいな説明をしたほうがいいってことだ。

 それも極力さりげなく……できれば笑顔で。

 ウソをつく必要はない、ただ本当のことを口にしないだけ。私は、とにかく収納魔道具が取り戻せてよかったです、って笑顔で、お母さまにお話しできれば……。


 奥歯を噛みしめちゃった私に、公爵さまがそっと言ってくれる。

「貴女が帰宅するさいには、わたくしも同行しましょう。貴女がお母さまに説明するときも同席するわ。それでなんとか頑張れそう?」

「公爵さま……」

「ルーディちゃん、貴女が1人でなにもかも背負う必要はないのよ」

 真摯な表情で、公爵さまは私の顔をのぞき込む。

「わたくしをはじめ、いまここに居る者は皆、これからもずっと貴女の味方です。だから、頼ってちょうだい。いくらでも手を貸しますからね」


 また、私の喉が詰まっちゃう。

 公爵さまってば、なんでこう、私を泣かせにくるの。

 でも、嬉しい。本当に、ありがたい。

 私は正直に、素直に、頭を下げた。

「ありがとうございます、公爵さま。よろしくお願いいたします」


活動報告にて、11月15日発売の5巻&コミックス2巻で書き下ろしたSSの詳細をお知らせしてます。

ええ、5万字以上書きましたので!( -`ω-)ﻭ

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― 新着の感想 ―
作者様は『泣かせ』の部分の描写が素晴らしいですねぇ
考えられるのは・・・あのゲス、隷属消す役の使い方もよくわからないままだったのではないかな? 絶対自分で作り出す頭なんてなかっただろうからどっからか買ってるよね。その時された説明ほとんど流して、「名前を…
契約書の名前を更新していなかった事から、お母様自身が子供達を奴隷にされたくはないだろう?って脅されてきたのかと思ってたので『お母様は隷属契約書の存在を知らない』という前提で話してるのが不思議に感じてし…
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